日本ではよくオフィスや工場内に、社是や経営理念、行動目標などを掲げているのを見かける。
しかし、欧米の会社では、そのような標語を壁に飾ってあるのを見かけることはあまりない。どちらかというと、創業者や歴史上の偉人などの写真や肖像画が飾ってあることの方が多い。

国民の約9割がカトリック教徒で、信仰心もあついメキシコでは、家の中はもちろん、オフィスや工場、学校から街角、車の中まで、いたるところで「グアダルーペの聖母」と呼ばれる褐色の肌を持つマリア様の像や肖像画を見ることができる。

けれど、このチェリー工場の壁には、標語もなければ、社長の写真も「グアダルーペの聖母」も飾られてはいなかった。

自社の社長の写真すら掲げていない工場で、まさか私の写真を飾ってくれるとは思いもしなかった。
殺風景な工場の壁に、ポツンと私の写真だけが飾られていた。

驚きとうれしさが一緒くたになっている私を、パレッタズのワーカーたちが拍手で迎えてくれ、“Miwaコール”が起きて、ちょっとした騒ぎになった。
あの時の高揚感は、今でも覚えている。

騒ぎを聞きつけて、隣のセクションからもワーカーたちがのぞきに来て、そのまた隣のセクションにも噂が飛んだ。
そのうち生産ラインの統括マネージャーまでもが、噂の写真を見にパレッタイズセクションにやってきた。おそらく工場始まって以来の出来事だ。
仕掛人の西海岸カーゴ社の社長も騒ぎを聞いてやってきた。

「なんだこりゃ!
写真に飛びつかないから、大したファンクラブじゃないなと思ったら」

“想定外”の状況で、あっけにとられている社長に、

「私の人気は、ファンクラブとかそーゆーレベルじゃないんです。
教祖様レベルなんで!」

と、私は笑って返した。

こうして私は、“チェリーの女神”になった。

その日、即席で飾られていた私の写真は、翌日にはしっかりとした台紙に貼られ、シーズンの最後までずっと飾られていた。