関 和美
アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長

 出来る部下は、仕事を進めるために上司をうまく使い、上司が育成しようと意識しなくても上司の背中を見て育ちます。逆に、成長が思わしくない部下は、育成しようと努力してもなかなか難しいもの。これを部下の資質やセンスのせいにせず、マネジャーとして指導・支援の仕方を疑ってみましょう。

 まず、マネジャーは部下に作業を依頼するとき、自分だったら問題なくできる内容と量を考えて任せているケースが多いでしょう。しかし、受け取った部下にとっては、荷が重い仕事かもしれません。成長しない部下は、マネジャーが想像する以上に手前の原因でつまずいています。

 例えば、いつも作業が遅延する部下。自己管理を徹底するように指導しますが、改善しません。この場合は、自己管理ではなく、部下自身の作業量の見積もり方に問題があるかもしれません。マネジャーとして、WBS(ワークブレークダウンストラクチャー)の最下層にある一つのタスクで、その進め方、想定している作業量を聞いてみてください。設計書の構成や枚数、プログラム数や行数の想定が大幅に外れていないかどうか、などです。「できた」と報告する成果物のレベルが、自分で一度作っただけでレビューを済ませたものではない、といった認識のズレからの見積もりミスもあります。

 出来るようにならない原因を見誤っていると、効果的な育成はできません。「顧客とのコミュニケーションが苦手だ」という部下の場合。単なるコミュニケーション研修を受けさせるだけではだめです。コミュニケーションが取れない原因にもいろいろあるからです。「顧客の話を聞かずに一方的に話をする」「顧客の質問に対して自分が一番気にしていることだけを話す」「顧客の業務に対する理解が浅いため話を的確に理解できない」「会議資料を作成しないといった準備不足」など、人によって違います。

 例えば、「話は頻繁にするが交渉が苦手」という人には、会議前に進め方や落としどころを考えておくという戦略を立てさせるようにします。それぞれの原因に合わせ、顧客の業務を勉強させる、顧客の視点を理解するよう顧客のビジネスを調べさせる、顧客先に行く前に会議資料を必ず作成させて上司がチェックする、今日の会議の落としどころを考えているか確認するなど、原因に対応した指導・支援を行います。

 マネジャーにとっては当たり前にできる作業でつまずいていることを理解し、部下ができない原因を分析しましょう。この時、マネジャー自身はどういう行動・思考で進めてきたかを振り返って明らかにする必要があります。プレーヤーやリーダーとして優秀な人がマネジャーになっているため、なぜ自分は成功し、なぜ他人は失敗するかが分からないのです。そのため、部下のセンスの有無で片付けてしまいます。自分の行動・思考を分解してみると、そこに成功のための行動・思考が見えてきます。これができれば「自分の背中を見て育て」という古いマネジャー体質から脱却できるでしょう。

 昨年度より高い事業目標を達成するために、あるいは3年後により高い目標を達成するためには、今成果を出している一部のメンバーに頼るのではなく組織のメンバー全員が昨年度より少しずつできるレベルが上がったほうが品質や生産性を向上し、目標達成に近づく気がしませんか?

(「日経SYSTEMS」2015年9月号から転載)
関 和美(せき・かずみ) アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長
関 和美

 金融系のSEとしてネットワークシステムの設計、アプリケーション開発の要件定義や設計を経て、プロジェクトマネジャーを担当。2007年アイ・ティ・イノベーションに入社。通信系大規模プロジェクトにおけるPMOの運営およびPM支援を実施。超上流工程のコンサルティングを手掛け、現在は人材育成、研修事業を推進している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。