関 和美
アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長

 よく見かけるメンバーの目標には「XXプロジェクトの設計〜テストまでを担当する」といった具体的な役割や担当業務が書かれている。そして育成目標には研修受講や自己啓発について書かれている。しかしこれでは育成目標になっていない。

 育成目標とは「〜ができるようになる」のように、業務での必要なスキル(できること)を表現する。業績目標の達成、将来のなりたい姿に向けて、「できる」必要があり、「できる」と「現在のスキル」のギャップを埋めるための手段(実行計画)の一つが研修や自己啓発となる。ただ、研修や自己啓発は知識習得のための手段であり、できるようになるまでには、フォローが必要だ。

 デービット・コルブ氏の経験学習モデルでは「人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べる」という。実務での経験が一番学べる場所ということだ。ただし実務だけでは、先輩の我流になる。そのため、研修や自己啓発のような、体系だった知識を得る機会が必要になる。これを活かすためには、経験学習モデルに沿って、OFF-JTで得た新しい知識や経験を(経験)、振り返り(省察)、現場でどのように適用するかを考え(概念化)、実際に活かしてみる(実践)。これができれば、受講した研修や自己啓発で得た知識を現場で活かせるようになるはずだ。

 これを踏まえて目標の立て方を見ていこう。例えば、昨年度までは小規模プロジェクトのPMをしていたメンバーに、中規模プロジェクトのPMを任せるとしよう。小規模であれば、隅々まで目が届く。そのため、プロジェクト計画が疎かで管理が不十分でも、遅延や問題が発生した際に、メンバーのSEとしての力量で挽回可能だ。しかし中規模以上になると、プロジェクトの計画立案方法、遂行中の管理ができなければ、ほぼ失敗する。品質についても中規模プロジェクトになるとレビューやテストといった品質保証活動のボリュームが多い分、品質の定量評価・定性評価によって俯瞰し、状況を捉えなければならない。

 よって、目標は次のようになる。

【Aさんの今年の目標】

業績目標:中規模プロジェクト(XX人月のXXプロジェクト)のPMをする。

育成目標:中規模プロジェクトのPMができるようになる。

OFF-JT計画:プロジェクトマネジメントを理解するためプロジェクト開始前にPM研修を受講する。

 もう少し掘り下げてみよう。Aさんにはプロジェクトマネジメント全般の理解が必要だが、現時点のスキルも理解すると学ぶべき点が見えてくる。「彼は今までスケジュールがおおざっぱで、遅延を繰り返していたから計画を作る研修にしよう」。ここにまで考えると、より具体的な内容になる。

【Aさんの今年の目標】

業績目標:中規模プロジェクト(XX人月のXXプロジェクト)のPMをする。

育成目標:中規模プロジェクトの計画が立案できるようになる。

OFF-JT計画:プロジェクト計画策定の研修を受講する。

OJT計画:研修で学んだ知識の適用について、プロジェクト計画書をレビューして確認する。

 このように業績目標を達成するために育成目標が定義され、それを達成するための手段としてOFF-JTやOJTを行う。マネジャーとして、メンバーが納得して遂行できる目標を、ぜひ設定していただきたい。

(「日経SYSTEMS」2015年06月号から転載)
関 和美(せき・かずみ) アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長
関 和美

 金融系のSEとしてネットワークシステムの設計、アプリケーション開発の要件定義や設計を経て、プロジェクトマネジャーを担当。2007年アイ・ティ・イノベーションに入社。通信系大規模プロジェクトにおけるPMOの運営およびPM支援を実施。超上流工程のコンサルティングを手掛け、現在は人材育成、研修事業を推進している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。