関 和美
アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長

 「研修を受けても、IT現場で育成していないため、メンバーの成長につながらない」「マネジャークラスが真剣にメンバーの育成について考えてない」―。ITエンジニアの研修事業を進める中で、顧客の経営層や人材育成担当者からこうした声をよく聞く。

 多くの現場マネジャーは、メンバー育成の責任を負っていながら、それが進んでいない。理由の一つは、業績目標の達成にも責任を負っているからだ。育成を重んじれば、業務をメンバーに任せたい。しかし、事細かな指導やチェックが必要になり、自ら引き受けた方が手っ取り早い。

 マネジャーになる人ほど、こうした事態に陥りやすい。その理由は、大きく二つある。一つは、プレーヤーとしての能力が高い人がマネジャーになるため、自らが率先して動くほうが早いからだ。

 もう一つは、マネジャー自身、メンバーだったころに上司の手を煩わせず成長してきたことにある。上司の仕事を見て必要なところを盗み、自分で工夫して高度な仕事をこなすようになった。細かに指示されなくても、勘の良さと努力で自ら成長してきたのだ。

 マネジャーの役割は、メンバーの能力を把握して伸ばし、それを有効に活用し管理すること。メンバーとして手腕を発揮していた状況からマネジャーになったとたん、求められる行動も能力も急に大きく変わる。

 そのため、マネジャーになって間もない人は特に、メンバー育成に四苦八苦している場合が多い。メンバーがつまずいている部分をひも解きながら育成する行動に戸惑いがあり、時間が掛かるのを恐れるからだ。

 例えば、資格を多く取得して技術的な知識は多いものの、それをうまく業務に活用できていないメンバーがいるとする。そのとき「資格ばかり取得していても仕事では使えないなぁ」と思ってあきらめているマネジャーは、失格だ。

 あきらめる前に、そのメンバーが技術的知識をうまく活用できない理由をもっと考えなければならない。メンバーが得意としていることは何か、技術的知識を使うために他のスキルが不足していないか、知識を活かせる環境はどのようなものか―このようにメンバーの状況について理解を深める必要がある。

 メンバーが研修を受ける際も、無関心の問題が顕著になる。マネジャーは、メンバーが選んだ研修を承認するだけで、どのような研修を受け、何を学んだかを知らない。これでは、研修で学んだ内容を現場に活用するのは、本人任せとなる。経営層や人材育成担当者から「現場で育成を考えていない」と指摘されても仕方がない。

 メンバーを育てるには想像以上にいろんな点に目を配る必要があり、時間を取られる。メンバーが育つまでは、プレイヤー兼マネジャーとして苦労する期間があるだろう。ただ、育ったメンバーが増えてくれば、本来マネジャーとしてすべき業務に専念できるようになる。

 本コラムでは、有能なリーダーだった人がマネジャーになったとき、本来の役割を果たすための方法について、1年にわたって解説していく。(1)人材育成の基本的な考え方、(2)メンバーの目標設定の方法、(3)メンバーとのコミュニケーション方法、などを具体的な事例を交えてお伝えしていきたい。

(「日経SYSTEMS」2015年04月号から転載)

関 和美(せき・かずみ) アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長
関 和美

 金融系のSEとしてネットワークシステムの設計、アプリケーション開発の要件定義や設計を経て、プロジェクトマネジャーを担当。2007年アイ・ティ・イノベーションに入社。通信系大規模プロジェクトにおけるPMOの運営およびPM支援を実施。超上流工程のコンサルティングを手掛け、現在は人材育成、研修事業を推進している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。