関 和美
アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長

 「最近の学校では問題が起こらないようリスクヘッジに躍起になり、実際に起きた時に問題解決が出来ないのではないか」。先日、こんな話がテレビで出ていました。これは、ITエンジニアの育成現場にも当てはまります。

 IT現場でも、リスクが発生しないように考えて行動することが多くあります。システム構築のプロジェクトでは、前もってリスクを洗い出し、予防策を施し、計画通りに進むようリスク管理をします。

 では、部下の育成を考えた場合にはどうでしょうか。確かに部署やプロジェクトといったレベルではリスクヘッジが必要ですが、部下が個人でリスクヘッジばかりしていては成長につながりません。

 筆者の体験談を一つ紹介しましょう。あるミッションクリティカルなシステムの設計リーダーとしてプロジェクトに携わっていたときのことです。そのシステムはサービス提供するフロントシステムで、ホストからマスターデータをダウンロードして参照する仕組みです。アプリケーション設計方針を決定する際、このマスターデータを加工する提案をしました。この案であればQCDを守れる自信があったためです。ただ元々、マスターデータをフロント系アプリで加工するのは“もっての外”と言われており、実際に顧客を含めステークホルダーが口をそろえて反対しました。しかし自分の考えを信じ、複数の視点から評価して全員を納得させました。これは筆者にとって非常に成長したと思う経験でした。

 メンバーは周りの意見に合わせておけば、悪い結果になったとしても、プロジェクトマネジャーのように責められることはありません。ですが、全員が反対する案に対し、自分の意見を通すことは、結果に対する責任が伴います。個人でリスクテイクしていることになります。

 「視点を変えて考えてみる」「正しいと思ったことを論理的に証明する」「ステークホルダーを説得して回る」といったスキルは、単に迎合していては得られないものです。失敗の可能性が高いため、上司としては苦しいのですが、それでも見守ることが必要です。リスクを低減するために途中で軌道修正したくなりますが、上司が軌道修正してしまうと、本来部下が超えなければならないハードルを小さな問題に変えることになるでしょう。

 部下の中にも「経験は無いが何とかなる」とリスクテイクする人、「経験が無いから恐い」とリスクヘッジする人など、さまざまなタイプがいます。「経験が無いから恐い」という部下に対し、判断が難しい仕事や難易度が高い仕事を与えるのは困難です。しかし、相談する環境があったり、リスクヘッジできたりすれば受け入れる場合があります。上司として相談を受ける場合には本人の考えを引き出したり、整理することを心がけるとよいでしょう。

 それを乗り越えた部下は、次のステップとして、自らリスクテイクする環境に身を置きます。最初はスコープを限って動いていた部下が、技術的難易度や複雑度の高い役割を志願し、さらに俯瞰力が付くとリスク発生時の影響が大きい役割に身を置けるようになります。

 部下にリスクテイクできる環境を与える一方、プロジェクトや組織のリスクを考えて対策を考えておくことも上司の仕事です。マネジャーは忍耐が必要な仕事ですね。

(「日経SYSTEMS」2015年12月号から転載)
関 和美(せき・かずみ) アイ・ティ・イノベーション ソーシアル事業部 部長
関 和美

 金融系のSEとしてネットワークシステムの設計、アプリケーション開発の要件定義や設計を経て、プロジェクトマネジャーを担当。2007年アイ・ティ・イノベーションに入社。通信系大規模プロジェクトにおけるPMOの運営およびPM支援を実施。超上流工程のコンサルティングを手掛け、現在は人材育成、研修事業を推進している。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。