佐原 資寛
EDGE株式会社 代表取締役社長 チーフエヴァンジェリスト

業務時間短縮であおりを受ける「必要なコミュニケーション」

 働き方改革、残業削減と「業務時間削減」が一つの大きなテーマとして取り扱われています。こうした環境下で最も影響を受けるのは「本来必要なコミュニケーション」ではないでしょうか。人財育成、組織のミッションやビジョンの共有、働きがいの創出。こういった要素に必要不可欠な、コミュニケーションのための時間も犠牲になってしまっては、結果的に組織の弱体化を招いてしまいます。今回はあらためて人財育成におけるコミュニケーションの重要性をお伝えしていきます。

採用した新人を職場全体で育成する

 職場全体が忙しくなり、ギスギスしはじめると最初に影響を受けるのは、新人育成です。 上長は普段の業務の処理と既存メンバーの人間関係の調整に忙しく、新人の育成に目をつぶり、育成の役割を押し付けられたトレーナーは育成責任を一人で背負う重責と、日々の業務が忙しいストレスを抱えて、余裕のなさが新人への当たりを強くします。

 今後、業務時間が減ってくると、こういった傾向はますます強くなります。それを回避するために、仕組みの導入を考えなければなりません。

 職場の上長やトレーナー以外の社員にも新人の育成責任を分散し、トレーナーの負荷を減らすとともに、縦(組織図上の上司と部下の間)のコミュニケーションを強化することです。トレーナー一人に責任を押し付けている組織の場合、トレーナーと新人の関係性悪化はすなわちトレーナーと新人の双方をつぶしてしまうことになりかねません。

 ブラザーシスター制度や斜めのメンター(部署が違うなど利害関係のないメンター)を付けるなど、取り組みの工夫を始めている企業は年々増えてきています。複数の目で新人を見守るために、ITの活用も増えてきています。

 例えば多店舗展開している企業では、斜めのメンターを運用する場合、所属店舗が違うことで、対面でのフォローには限界があります。そこでコミュニケーションツールを使い、メンター、新人ともスマホから気軽にアクセスすることでコミュニケーション頻度を上げています。管理部門は管理サイトから状況を確認することで、制度が円滑に活用されているかを可視化できます。

承認・称賛を流通させる

 職場のマネジャーには、企業の理念や自分たちがなんのためにこの仕事をしているのかを浸透させるというミッションがありますが、忙しくなると目先の業務指示しかできなくなります。そんな職場のメンバーは、自分たちの仕事にやりがいを見いだすことができず、ただやらされ仕事を短時間で行い、給与をもらうという文化が定着してしまいます。今後、その程度でできる作業は機械化が進み仕事がなくなっていくことでしょう。

 マネジャー自身が自分たちの仕事の意義を伝え、そこに働く者同士が承認・称賛することで理念やミッションが浸透していきます。部署にてMVPを表彰し、その選定理由に自社が大切にしている価値観を盛り込むことで、自分たちの仕事の意義を見いだし、承認欲求を満たしながら、自社の理念の浸透を果たしている組織があります。離職率も低く顧客満足度も高いそうです。こちらも仕組み化が重要で、マネジャーの評価指標のなかに職場における理念浸透を盛り込むなど、組織としての意思決定をしなければ浸透は難しいでしょう。会社全体としてのアクションを起こさなければ、「働き方改革」のなかで単純な業務時間の削減だけを切り出して、マネジャーが作業効率ばかりを意識することは避けられません。働きがいをこれ以上奪わないよう、一人ひとりが働きがいを持てる組織にできるような改革が必要です。