適正な人件費マネジメントが可能になる

 ここまでの議論は、どちらかというと社員の側からの視点でした。一方、企業側の視点で重要なことは、人事制度の導入は、適正な人件費マネジメントの実現に寄与するという点です。日々、人件費負担に気を使う中小企業の場合には、特にこの点が重要となってくるでしょう。

 自分の会社にとって、適正な人件費水準とはどのようなものか、日々悩まれている経営者の方々は多いことと思います。給与水準の分析などの場合には、自分の会社と近い業界や人員規模の会社と比較して、主に公表データなどを用いた分析を行うのがポピュラーです。「労働分配率」という指標もありますから、これも政府関連の統計データなどから業界平均を導き出し、これとの比較で自社の現状確認を試みることも一法でしょう。

 日本もかつて経験したような高度成長期であれば、右肩上がりで賃金が上がる世界も考えられました。しかし、現在のような成熟経済の時代には、会社業績に応じた賃上げや賃金配分の仕組みが必要となります。

 賃金テーブルが未整備の状態であれば、一定の賃金秩序をもった賃金テーブルを新たに設計することが重要です。それも、しっかりと上限・下限の金額を設定して、それを超えてしまうような昇給運用は絶対に避けることも、適正な人件費を維持するうえで大切なことです。賞与に関しても、一定比率や割合を会社業績や部門業績と連動させる業績連動型賞与の導入を検討することが考えられます。

 ここでも、評価結果に応じた適正な昇給・賞与の支払いが求められてくるということです。

会社も成長し社員も成長する

 最後に人事制度導入の効果として挙げられることは、その結果として、会社も成長し社員も成長するという点です。会社と社員が、お互いにWin-Winの関係で成長する。人事制度導入の効果の究極は、ここにあると思われます。

 多くの方々が異口同音に指摘するのは、企業の競争優位の源泉は人材にあるということです。人事制度はその基盤をなすものであり、評価制度や給与制度を上手に活用することで、人材育成につなげていくということなのです。

 会社を成長させるのも、特定の事業領域を成長させるのも、それを担う社員の成長を促すことが重要です。低成長が前提の経営環境において、イノベーションの実現が強く求められている現代では、ビジネスの成長を加速させるための人事制度が必要であり、人事制度の有効活用により人材育成を加速させることが期待されています。それが、本連載コラムのメイン・テーマでもあるのです。

 このような人事制度には、あるまとまりを持った型があります。次回は、会社を発展させる人事制度3点セットの勧めについて、お話ししたいと思います。

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吉田 寿

1959年生まれ。
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。
富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパルを経て、2015年1月より現職。
“人”を基軸とした企業変革の視点から、人材マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織人事戦略コンサルティングを、中小企業から大企業までグループかつグローバルに展開している。
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

主な著書として、『世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門』(日本実業出版社)、『リーダーの器は「人間力」で決まる』(ダイヤモンド社)、『企業再編におけるグループ人材マネジメント』(共著、中央経済社)、『ミドルを覚醒させる人材マネジメント』、『人事制度改革の戦略と実際』、『人を活かす組織が勝つ』(以上、日本経済新聞出版社)、『社員満足の経営』、『仕事力を磨く言葉』(以上、経団連出版)、『人事超克』、『未来型人事システム』(以上、同友館)など。その他論文、新聞・雑誌への寄稿、講演多数。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。