入社後の自分の処遇がどのように決まるのかが曖昧な状態では、入社希望者が入社前の時点で少なからず不安を感じてしまっても仕方がありません。入社後の自分の給与やボーナスの水準、どんな基準で評価が実施されるのか、入社後の昇格や昇進のイメージはどのようなものなのか。少なくともこのあたりの見通しが示されなければ、入社を希望する者が最終的にその会社への入社を決めることはないと思います。

 一方、既にその会社で働いている社員たちにとってみれば、自分の働きぶりに対する会社の期待や今後の昇格や昇進のイメージが描けるようになれば、安心して働けることになります。社員にとって望ましいのは、一定の帰属意識や組織に対する愛着心があることです。社員が継続的に働ける職場環境が用意されていなければ、人材の定着化もおぼつかないものとなるでしょう。「社員が育つ環境整備」の観点からも、人事制度は必要なのです。

評価視点の擦り合わせで公正な処遇が実現する

 3点目は、公正な処遇が実現できるということです。その前提としては、評価者の評価視点を一定レベルで擦り合わせる必要性があります。

 多くの中小企業の実態を見てみると、まず明文化された評価制度が整備されていないケースが目立ちます。仮に評価制度があってもオープンになっていなかったり、導入されているといっても、人事評価表の評価基準が抽象的であったり、曖昧な表現でできていたりする場合が多く見受けられます。したがって、まずは、この評価基準を現場の職務実態に合わせてきちんと整備する必要が出てくるのです。

 ここで注意しなければならないのは、一通り評価基準を整備した評価制度ができたとしても、それだけでは社員の公正な処遇の実現にはつながらないということです。人事の領域で「処遇」というと、多くの場合は昇給、昇格、賞与の3つを指していいます。つまり、人事評価の結果が正しく社員の昇給や昇格、賞与の支払いに反映される環境整備が重要ということになります。

 そこで重視されるのが、評価者のスキルです。評価者研修の名目で、筆者自身も数多くの企業の評価者研修の講師を担当してきました。しかし、この際に非常に悩ましいのが、人事評価とは、人が人を評価するという行為だという事実です。つまり、どんなに評価基準が実態に即して精緻に作られていても、評価者の思惑や偏見、評価基準に対する間違った解釈が介在した場合には、評価制度の運用や評価結果自体の公正性が担保されないということです。人事評価の公正性が担保されなければ、結果を受け取る側の社員の納得性が確保されることはありません。

 そんな理由から、多くの企業では、地道に、愚直に、徹底的に評価者研修を実施して、評価者同士の視点の擦り合わせに努力しているのです。