評価者には「説明責任」(アカウンタビリティ)があると、よくいわれます。結論からいうと、この事例企業の大方の評価者(上司)は、この説明責任を十分果たせていなかったということになりました。

 人事制度の導入には、制度的インフラの整備が必須です。要するに、まずは制度として形を作るということです。しかし、多くの企業では、この制度的インフラの整備ができると少し安心してしまい、制度導入後の運用まできちんとフォローできない企業も数多く見られます。

 人事制度についてはできるだけ透明度の高いものを作る。そして、その制度を公正に運用する。ここまでは、この事例の企業にもできていたと思われます。しかし、この2つの視点を実践できていたにもかかわらず、最後の最後で納得性の確保につながらなかったということです。この中小企業の事例は、制度設計にとどまらず、現場における当事者の運用スキルの重要性を再確認した事例であったともいえます。

上司のマネジメント行動の一環として位置づける

 評価制度の運用の難しさは、それが、さながら年に1度か2度といった頻度でしかやってこない定例業務であるというところにあります。仮に日常レベルで実施される通常業務であれば、日々の習熟を伴ってスキルを高めることができます。しかし、評価スキルについては、そうした性格のものではないということです。

 しかし、視点を変えてみると、また違った見方が出てきます。つまり、目標管理などに最たるように、日々の業務の積み上げの延長線上に一定期間での業務目標の達成があるとすれば、日々、評価を意識しながらマネジメントを実践していくことで、評価スキルは格段に向上させられるとの見方です。

 とかく評価実務と日々の業務のマネジメントとは、別物として語られることが多いのですが、むしろ、これらはコインの裏表の関係にあるという認識が重要なのです。つまり、上司の日常レベルでのマネジメント行動の一環として評価実務を位置づけ、日々の業務の中でも常に意識しながら実践するということが、人事評価の結果を受け止める社員の側の納得性の確保につながっていくということです。

 さて、それではこうして一定レベルの人事制度が導入されると、どんなメリットがあるのでしょうか? 次回は、人事制度の導入がもたらす効果について、触れてみたいと思います。

吉田 寿(よしだ・ひさし) ビジネスコーチ株式会社
常務取締役チーフHRビジネスオフィサー
BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ
吉田 寿

1959年生まれ。
早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。
富士通人事部門、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・プリンシパルを経て、2015年1月より現職。
“人”を基軸とした企業変革の視点から、人材マネジメント・システムの再構築や人事制度の抜本的改革などの組織人事戦略コンサルティングを、中小企業から大企業までグループかつグローバルに展開している。
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

主な著書として、『世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門』(日本実業出版社)、『リーダーの器は「人間力」で決まる』(ダイヤモンド社)、『企業再編におけるグループ人材マネジメント』(共著、中央経済社)、『ミドルを覚醒させる人材マネジメント』、『人事制度改革の戦略と実際』、『人を活かす組織が勝つ』(以上、日本経済新聞出版社)、『社員満足の経営』、『仕事力を磨く言葉』(以上、経団連出版)、『人事超克』、『未来型人事システム』(以上、同友館)など。その他論文、新聞・雑誌への寄稿、講演多数。

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。