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患者が複数の痛みや不眠を訴えたら
内科医は心療モードに切り替える

藤田保健衛生大学医学部精神神経科学教授 内藤宏氏
宮崎医院院長 宮崎仁氏

セミナー最後のプログラムは、内藤氏と愛知県・宮崎医院院長の宮崎仁氏によるトークセッションが行われた。宮崎氏は、2007年から内科医のための精神医学プログラム「PIPC(Psychiatry In Primary Care)」を主催し、愛知県では2011年からPIPCをかかりつけ医のための恒常的な研修会とし、年に3回のワークショップを開催している。

宮崎氏は、「うつ傾向のある方は疲労倦怠感や頭痛を訴えて内科に、首や腰の痛みを感じて整形外科を受診する。その人たちは自分がうつ病だとは思っていないので、精神科にはかからない」という。同氏は、複数の痛みを訴える患者の問診票を「黒い問診票」と呼んでおり、痛いところに印をつけるようにいうと、患者は全ての臓器の上に印をつけるという。「昔はこうした症状を自律神経失調症と呼んでいたが、これは日本だけの病名で米国の医学書にはそうした病名はない」と指摘する。これを国際的に見ると、医学的に説明できない症状という意味で、MUS(Medically Unexplained Symptoms)と呼ばれているが、「実はプライマリ・ケアの外来患者の3割がMUSで、原因のわからない症状だ」と宮崎氏は驚きを隠さない。

こうした症状は、「風邪の次に多く、高血圧も多いMUSの患者がいる」という。MUSの原因にどのような疾患が考えられるかについて、「未知の疾患、身体疾患の見落としも考えられるが、一番多いのは精神疾患、中でもうつ病だろう。複数の痛みや不眠といったキーワードを聞いたら、心療モードに切り替えてもらいたい。そのとき、内科医が精神科の患者を診るために役立つのがPIPCだ」と宮崎氏は強調する。

このPIPCとは、バージニア州立医科大学 精神科・内科 家庭医科准教授のRobert.K.Schneider氏が考案したもので、内科医が精神科的対応ができるようになるための教育訓練システムである。日本では2007年に鎌倉・信愛クリニック院長の井出広幸氏がSchneider氏のセミナーに参加し、PIPC研究会を発足させた。第1回のセミナーは宮崎医院で行われ、その当時は15人だったメーリングリストのメンバーも現在では2000人近くまで増えたという。

内科医がフォーマットに従って
精神科的評価ができるPIPCの活用を

PIPCは、背景問診を行うところから始まる。問題を引き起こしているのが「職場」なのか、「家庭」なのか、「プライベート」のどこなのかを突き止めた上で、MAPSOシステム(mood:気分障害、anxiety:不安障害、psychosis:精神病群、substances:物質関連障害、organic/other:器質性/その他の頭文字をとったもの)で分類する。

PIPC研究会では、「背景問診・MAPSO問診チェックリスト」を作り、初心者でもフォーマットに従って記入するだけで精神科的評価ができるようにしている。これを記入後、精神科に紹介をするかどうか決めることになる。

宮崎医院のような内科を受診するうつ病患者は、自分がうつ病だとは思っていない。一方で、内藤氏の元を訪れる患者は、自分がうつ病だとわかってやってくる。宮崎氏は、「同じうつ病でも層が違う。これは内科医と精神科医が話し合ってわかったことだ」という。内藤氏も、「精神科を受診する患者の方が重症というわけではない。前面に出ているのが精神疾患か内科疾患かによって内科に行ったり、精神科に行ったりしている」と続けた。

内科医と精神科医の連携により
隠れたうつ病の発見も

内藤氏は、「生涯、うつ病にかかる比率は16.2%(女性20%以上)、平均罹病期間は16.2週間と、ほぼ2カ月で終息する。但し、再発しやすいという問題がある。かかりつけの医師が早く気づくことで再発を未然に防ぐことができる」と言う。そのためには、精神科と内科が顔の見える関係が大切になる。内科医は患者にとって相談しやすい、話しやすい存在であるはずだ。「しかし、内科の診察で『死にたい』と訴える患者はなかなかいない。患者の不調に気づいたら『死にたいと感じることはありますか』等、問診チェックリストに従って聞き、隠れたうつ病を発見することも、かかりつけ医の役目だ」と宮崎氏は強調する。

最後に内藤氏は、「医師への早期の相談が症状の悪化や治療の長期化を防ぐ。不調を訴える患者が相談しやすい環境を作ること、精神科と内科等の身体科との連携構築が重要だ」と結んだ。