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ストレスチェック制度を考える(14)

メンタルヘルスの問題の多くは病態ではなく、職場にある。 精神科医との協働でこれを改善し、患者の減少へつなげる。 (2/2)

2016.08.31   新日鐵住金 君津製鐵所 総括産業医 宮本俊明 氏

宮本俊明 氏

うつ病を疑った場合、診断に何かの質問紙を用いるとしても、それだけで診断を下すことはあり得ず、臨床の場では精神科医が全員と面接をするはずです。しかしストレスチェックでは原則として医師面接は、高ストレス者と判定した人への精密検査の扱いとなります。

厳密に言えば、経年履歴や普段の対応などから高ストレス者全員を要医師面接とはしなくても良いことになっていますが、複雑になるのでここでは考えないことにします。また、忘れてはいけないこととして、この検査の回答率と、高ストレス者、つまり陽性と判定された者のうちどのくらいが医師面接を受けるのかも考えなければいけません。

図3は、感度70%、特異度90%という、うつ病の診断補助として用いられる質問紙検査と同等の数字を入れました。うつ病の有病率は2%とし、検査の回答率は90%としています。これを1000人に行った場合の検査陽性者の数を注目してください。ちょうど最初の集団の10%程度が陽性になっていますので、実際の例に近いかもしれません。この例では、1000人中20人がうつ病で、そのうち2人は未受検者に含まれ、残り18人のうち13人は検査陽性となったとします。検査陽性者は全部で101人います。この101人のうち、どの13人が本当に有病者なのかは現時点では不明です。陽性者101人に面接勧奨したところ、20人が面接に申出をしたので、産業医が何とか日程調整して全員と面接しました。

図3
図3 ストレスチェックをうつ病のスクリーニングと考えた場合のシミュレーション(宮本俊明氏による)クリックで拡大します

すると、過重労働者面接の際に使うBSIDという問診法で大うつ病が否定できない2人と、職場の人間関係や仕事内容等に不満の大きい4人の合計6人を、近隣の精神科医に精神疾患の疑いで紹介状を書いて受診勧奨したところ、結果として、このうち1人が就業制限を要し、計2人が内服開始となった、というシミュレーションです。陽性者が医師面接に申出を行うと、事業者に対して「自分が高ストレス者であることが知られてしまうことになる」とアナウンスされていると、申出への躊躇もあるでしょう。また、自覚症状がなければ面接勧奨に応じることも少ないと思います。

事業者に高ストレス者と知られたくない人たちは
自主的相談窓口で対応

実際には人手がかかることを考えると、特異度を高めるほうが現実的なようですが、その分感度が下がると見逃しも増えますね。

宮本 その通りですが、質問紙だけで病気を診断する精神科医はいないので、そもそも病気のスクリーニングとは言えないから、見逃しという言葉も当てはまらないといえます。もとよりストレスチェックは保健師がやってもいいとされているので、医行為ではありません。医行為であれば見逃したら問題ですが、もともと職場の集団の状況を評価・診断するためのツールなので、個人の二次予防については見逃すのだから医行為にしていないということもあるでしょう。職業性簡易ストレス調査票は、うつ病や不安障害との関係で、感度や特異度が計測されていないものです。

面接も101人全員は無理でも20人くらいなら何とかできるでしょうが、見逃しも未受検者もいるため、対策として自主的な相談窓口を用意しておくことが求められています。今回のストレスチェックは検査で引っかかった人、あるいは引っかからなくても日常的に相談できるところをつくっておくという裏の意図があり、そこを強調しているわけです。

結局ストレスチェックを実施しても、高ストレス者であることに気づかせておいて、本人が申し出て初めて面談ができるというのであれば、クリニックで患者を待つ医者の姿勢でしかなく、これを二次予防(早期発見・治療)に使おうという方が間違っています。

ストレスチェックの目的を二次予防だと勘違いしている人は多いと聞きます。

宮本 制度設計上、あまり重要視していなかった話になっているのでややこしくなっているのでしょう。当時の厚労大臣が最初に言った二次予防が呪縛として残っているため、どうしても入れざるを得ない。そこで、本人申出に応じる個別対応の二次予防が絶対義務で、集団対応の一次予防が努力義務という建て付けになりましたが、そこから生じる誤解だと思います。

この制度は、あくまでも一次予防が主目的ですが、いわゆる落ち穂拾いのように二次予防対応が出てきてしまうので、産業医や保健師は精神科医を頼りにしています。精神科医は産業医を助けてやるという感覚であっても構いません。ただ、精神科医も産業現場の実情を知ってもらえると助かるので、こうした連携はストレスチェックを機に強化されると良いと思います。

また、本人の同意は必要ですが、精神科医から産業医に患者情報や職場情報をフィードバックして再発防止に役立てるなど、本来趣旨の一次予防の手助けになるようなサポートをしてもらえればありがたいですね。

第3回終わり(連載3回)