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ストレスチェック制度を考える(14)

メンタルヘルスの問題の多くは病態ではなく、職場にある。 精神科医との協働でこれを改善し、患者の減少へつなげる。

2016.08.31   新日鐵住金 君津製鐵所 総括産業医 宮本俊明 氏

宮本俊明 氏
宮本 俊明(みやもと としあき) 氏

新日鐵住金株式会社君津製鐵所 総括産業医

1990年 産業医科大学医学部卒業。1990年新日本製鐵入社。千葉労災病院での臨床研修を経て、1993年 君津製鐵所に産業医として赴任。2012年より会社統合で現職。医学博士 労働衛生コンサルタント 日本産業衛生学会理事 日本産業ストレス学会理事 産業医学推進研究会会長 産業医科大学産業衛生教授 2014年〜過労死防止対策推進協議会委員 2013年に緑十字賞受賞(中央労働災害防止協会)

近年、「健康経営」という概念に注目が集まる中で、生活習慣病をはじめメンタルヘルスや過重労働など、企業が取り組むべき健康管理対策の範囲は広がっている。その背景には、安全配慮義務上、事業者の責任として健康管理対策が求められることに加え、従業員が健康を損なうことによる生産性の低下など、健康管理を経営的な視点から捉えるようになったことが挙げられる。

こうした状況の中で、存在感を増しているのが産業医である。新日鐵住金株式会社君津製鐵所 総括産業医の宮本俊明氏は、産業医への認知度が低かった1990年に専属産業医として入社し、「産業保健とは何か」「産業医は何をすべきか」を自ら切り開き、実績を積み重ねてきた。

連載3回の第3回は、ストレスチェックからうつ病の早期発見はできるのか、スクリーニングと捉えた場合、そして、ストレスチェックの本来の目的などについて、宮本氏にお話を伺った。(取材:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也 構成:同取材班 但本結子)

面接は保健師が行っても良いことになっていますが。

宮本 いいえ、ストレスチェックの結果に基づく面接は「医師による面接」と決められています。労基署に報告するのも、いわゆる正規ルートとされる、この医師面接数です。

「保健師が行なって良い面接」というのは、ストレスチェックを行った結果、高ストレス者が例えば社員の10%に上った場合、医師面接のキャパシティが社員数の3%だった場合、10%の社員全員を医師面接にセットはできないので、保健師が全員と会って面接し、医師面接対象を絞っても良いという、現実的な実行可能性を考慮した逃げ道が用意されているのです。もちろん、この先に本人からの申出という要素も入ります。この場合はストレスチェックの途中とみなされるのであって、高ストレス者=面接対象者ではないと明言されています。

このあたりは労働基準監督署の中で誤解している人が多く、高ストレス者を全員面接するように努めるよう指導する監督官もいるようです。これはベースとなった過重労働者面接との混同だと思いますが、ストレスチェックの場合は全員面接を推し進めると、誰が高ストレス者なのかを事業者が知る可能性を高めてしまうので、不適切な指導と言わざるを得ません。

また、正規の医師面接に申出を行うと、事業者に高ストレス者だと知られてしまうことを回避したい人は、図2に示したように、事業場の通常の健康相談の一環として本人が保健師面談や心理職面談や産業医面談を希望して行なえば、それは正規の医師面接実施には該当しないのです。これはいわば別ルートであり、この面接はストレスチェック以外の理由で健康相談を希望した人との区別がつかないはずなので、こちらの面接人数は労基署に報告してはいけません。

図2
図2(出典:厚生労働省 説明用資料)クリックで拡大します

但し、さすがに就業措置が必要な人には、本人に説明して正規ルートに乗せ換えることが推奨されています。正規ルートに乗った者は報告対象としてカウントして良いのです。

ストレスチェックによって
“本物”のうつ病が新たに見出されることは少ない

ストレスチェックはうつ病の早期発見が目的ではないのですね。

宮本 そうです。繰り返しになりますが、ストレスチェックの主目的は労働者のメンタルヘルス不調の未然防止という一次予防であり、高ストレス者といってもストレス反応が強く認められる人だけでなく、周囲の支援が少ない、職場のストレス要因が強い人も含まれます。

したがって、この検査でうつ病が特異的に見つかるとは誰も言っていません。私も産業医研修会では、「本物のうつ病がこの検査で見出されることは多くないので自信を持ってやってください」とお願いしています。このような面接は医療機関で行なうわけではないので、「医行為」に該当するかどうかは微妙なところです。しかし、何かあった時に一方的に訴えられても困るため、日本医師会の会員に限ってですが、医師賠償責任保険が2016年7月1日から産業医活動全てに適用されることになりました。これも、「この面接は産業医が行うことが望ましい」ということだと思います。

ストレスチェックは、うつ病をあぶり出す検査だという誤解があります。

宮本 困りますよね(笑)。そんなに凄い検査ではありません。しかし誤解が多いようなので、その問題に対して、あえてうつ病のスクリーニングと捉えて実行可能性を考えてみましょう。ここで、集団の有病率と検査の感度と特異度(※)という3つの要素で簡単に考えてみます。

感度と特異度について
「感度」と「特異度」とは、スクリーニング(振るい分け)検査の有用性を評価する指標。ある集団に対して検査を行ったとき、疾病がある者を検査陽性とする割合が「感度」で、疾病がない者を検査陰性とする割合が「特異度」。見逃しを防ごうと感度を高めると特異度は下がるため、過剰診断による要精密検査が増える。一方、特異度を高めると無駄な精密検査は減るが、感度が下がるので見落としは増える。感度と特異度は、片方を上げると、もう片方が下がると言うトレードオフの関係