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ストレスチェック制度を考える(10)

切り捨てるのではなく、本人を守るために うつ病をキャッチアップして、正しい治療へ (2/2)

2016.07.27   東洋英和女学院大学教授 横浜尾上町クリニック院長 山田和夫氏

では、有効な制度とするためにはどうしたら良いでしょうか。

山田 事業主に報告する意味を考えると、ストレスチェックの結果、例えば、ある部署に高ストレス者が多い理由として、「上司のパワハラやセクハラ」「同僚との人間関係の悪化」あるいは「労働時間が非常に長い」といった職場環境の問題が明らかになったとします。これを事業主が改善してストレスを減らす方向に動いてくれれば、労働者のメリットになります。

一方で、チェックを受ける労働者側が悪用する可能性もあります。例えば、異動を希望しているのにそれが通らない場合、あえてストレスが多い方にチェックをし、「こんなにひどい環境だから異動させて欲しい」と言うこともできます。逆に、うつ病を隠したい人は全くストレスがないように装うこともあるでしょう。

すでに実施された人の話を聞くと、本人は部署を変わりたいほどのストレスを感じているのに、チェックを受けたらストレスはないという結果が返ってきて、その判定の厳しさに落ち込んだそうです。主体的・客観的な基準がまだ明確ではなく、どこまで正確な情報なのか、実効性はあるのか、微妙なところがあります。

重要なのは、実施するに当たって、その目的と意義、正直に回答することの必要性、そして秘密は守られることをきちんと説明してスタートすることです。近年、労災で企業を訴える人たちが増えてきたため、企業の防衛的な側面もありますが、会社の中でメンタルヘルス不調者を防ぐことが、ストレスチェック制度本来の理念です。

排除ではなく、
労働者本人を守るうつ病をキャッチアップして
正しい治療へ

そもそもストレスチェック制度によって精神疾患の発症予防はできるのでしょうか。また、うつ病患者を減らすことにつながりますか。

山田 ストレスチェックの結果を見て、本人がどの程度うつ状態になっているのか、うつ病的なリスクをどの程度抱えているかといった判断は難しいと思います。だからこそ高ストレス者の場合は、何らかの形で精神科医も関与していく体制づくりが必要です。

その反面、うつ病か否かの判断が難しいからこそ、私はストレスチェックには一つの期待を持っています。今、うつ病と診断されて治療を受けている人は10%で、残り90%はうつ病と気付かず、体の疲れや痛みといった身体的な疾患として内科で治療を受けています。つまり抗うつ薬を服用している人はわずか10%で、それ以外の多くの人がうつ病でありながら正しい治療が受けられていません(図1)。そうなるとさらに症状を悪化させ、本人にとっても辛い状況が続き、仕事を続けることは難しくなります。

ストレスチェックの目的は一次予防(発症予防)ですが、その後ろにあるのは二次予防(早期発見・治療)です。チェックの中から少しでもうつ病が発見され、きちんとした治療を受けることが、残り90%のうつ病患者を救うのです。これは切り捨てではなく、本人を守るという意味において非常に重要なことです。うつ病をキャッチアップして正しい治療につなげることこそ、ストレスチェックの正しい活用法だと考えています。

図1 うつ病の主要症状

第1回終わり(第2回に続く)