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ストレスチェック制度を考える(10)

切り捨てるのではなく、本人を守るために うつ病をキャッチアップして、正しい治療へ

2016.07.27   東洋英和女学院大学教授 横浜尾上町クリニック院長 山田和夫氏

東洋英和女学院大学教授 横浜尾上町クリニック院長 山田和夫氏
山田 和夫(やまだ かずお)氏
1981年 横浜市立大学医学部医学科卒業。同大医学部附属病院神経研修医、常勤医を経て、1983年 神奈川県立芹香院常勤医。1988年 横浜市立大学医学部神経科医局長。1989年 研水会平塚病院副院長。1989年 国立横浜病院精神科医長。1993年 横浜市立大学医学部附属浦舟病院神経科講師。1998年 同院神経科部長。2000年 横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター精神医療センター部長(助教授)。2002年 東洋英和女学院大学教授・横浜クリニック院長。2013年 横浜尾上町クリニック開院

2013年5月、横浜の官庁街に開院した横浜尾上町クリニックは、初診まで1~2カ月待ちが多い精神科クリニックの中で、「患者を待たせない」という方針のもと、状態の悪い人は予約なしでも診察できる体制を整えている。
また、電話での問い合せには原則24時間・365日対応し、緊急の場合は診療中でも電話を受ける。すぐに受診できる体制を整備することで、内科開業医からの信頼も厚く、うつ病治療が一段落した後は紹介を受けた初診の内科開業医に患者を戻すなど、地域における連携が構築されている。

連載2回の第1回は、ストレスチェック制度の評価や課題などについて、同クリニック院長の山田和夫氏に聞いた。
(取材:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也 構成:同取材班 但本結子)

患者やメンタル不調者などの
弱者を切り捨てていく
効率第一主義の社会

横浜尾上町クリニックでは労働者が数多く受診すると伺っています。山田先生は働く人を取り巻く環境について、どのように捉えていらっしゃいますか。

山田 人、モノ、情報が国境を越えて自由に行き来するグローバリゼーションの波は、私たちの価値観や働き方を大きく変化させました。弱肉強食を強いられる世界との競争において、企業に求められるのは効率第一であり、役に立たない労働者は切り捨てられていく時代です。今は労働者が安易に解雇されないよう守られていますが、安倍政権が進める戦略を見ていると、その解雇権は経営側に移行しつつあると感じます。

アベノミクスの成長戦略の一つとして導入された限定正社員、それから非正規雇用者の増加は、経営側に重きを置いた便利な施策です。限定正社員は勤務地や就業時間は選択できるものの給与は減り、キャリアプランも描きにくい。また、全労働者の4割を占める非正規雇用者は短期契約で都合が悪くなれば雇用を打ち切れるため、企業にとっては便利な反面、労働者は非常にストレスフルな状態に置かれています。実際、当クリニックにも多くの派遣社員が通院しています。

25〜50歳までの独身女性で非正規雇用者の平均年収は、250万円未満が70%、その半数が150万円以下といわれ、ギリギリの状態で働いています。特に派遣社員のメンタルヘルス対策は全くなされておらず、「一億総活躍」「女性が輝く」などといわれても、絵に描いた餅です。

こうした状況の中で、うつ病患者は増えているのですか。

山田 厳しい労働環境下で疲れきり、働く人のうつ病が急増しています。福利厚生が完備されている大手企業などはまだしも、余裕のない企業では病人を切り捨てていきます。実際、うつ病で休職した人のうち48%は復職できていません。うつ病は再発のリスクが高く、復職までに時間がかかり、復職しても就業制限がかけられます。効率を重視する企業から見れば、うつ病になった人やメンタルに弱い部分のある人たちは厄介で、労働者としてふさわしくないという考え方が優勢になっていると感じます。

今回のストレスチェックにしても、検査の結果で、こうした弱者を秘かにリストラ対象にするのではないのか、日本うつ病学会でも危惧しているところです。

ストレスチェックの
メリット、デメリット目的を正しく理解し、
社員の健康管理に活用

山田先生はストレスチェック制度をどのように評価されていますか。

山田 いくつかの問題はあるものの、労働者のストレス度合いを把握し、本人の健康管理に活かすことができれば有用なものとなり得ますが、アベノミクス的な経営効率と重なって運用されるのであれば非常に危ういと思います。

ストレスチェックの結果は本人のみに通知されますが、本人の同意があれば事業者に報告しても良いことになっています。問題は、そこに何の法的罰則はないため、事業主が個別の情報を守るかどうかは未だ疑問視されているところです。前述したように、効率第一の経営の中ではタフな人だけを残し、うつ病の人は役に立たないからと、別の理由をつけて排除する可能性があるのではないでしょうか。

もう一つは、これも前述したように派遣社員を含む非正規雇用の人たちは、相当のストレスを受けているにもかかわらず、ストレスチェックが行われるかどうかわかりません。本当にサポートが必要な人たちに目が届いていないことに加えて、50人未満の企業で働く労働者をどうするのか、その対策が示されていないことも問題です。