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ストレスチェック制度を考える(12)

メンタルヘルスの問題の多くは病態ではなく、職場にある。 精神科医との協働でこれを改善し、患者の減少へつなげる。

2016.08.10   新日鐵住金株式会社君津製鐵所 総括産業医 宮本俊明 氏

宮本俊明 氏
宮本 俊明(みやもと としあき) 氏

新日鐵住金株式会社君津製鐵所 総括産業医

1990年 産業医科大学医学部卒業。1990年新日本製鐵入社。千葉労災病院での臨床研修を経て、1993年 君津製鐵所に産業医として赴任。2012年より会社統合で現職。医学博士 労働衛生コンサルタント 日本産業衛生学会理事 日本産業ストレス学会理事 産業医学推進研究会会長 産業医科大学産業衛生教授 2014年〜過労死防止対策推進協議会委員 2013年に緑十字賞受賞(中央労働災害防止協会)

近年、「健康経営」という概念に注目が集まる中で、生活習慣病をはじめメンタルヘルスや過重労働など、企業が取り組むべき健康管理対策の範囲は広がっている。その背景には、安全配慮義務上、事業者の責任として健康管理対策が求められることに加え、従業員が健康を損なうことによる生産性の低下など、健康管理を経営的な視点から捉えるようになったことが挙げられる。

こうした状況の中で、存在感を増しているのが産業医である。新日鐵住金株式会社君津製鐵所 総括産業医の宮本俊明氏は、産業医への認知度が低かった1990年に専属産業医として入社し、「産業保健とは何か」「産業医は何をすべきか」を自ら切り開き、実績を積み重ねてきた。
連載3回の第1回は、産業医の業務、ストレスチェック制度の評価などについて、宮本氏にお話を伺った。 (取材:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也 構成:同取材班 但本結子)
 

どこで、どんな負荷がかかっているのか
測定できない部分を職場巡視で把握

はじめに産業医の業務、役割について教えてください。

宮本 働く人の健康管理といわれますが、産業医は病気になった人を治すのではないということが特徴です。つまり臨床医の主業務である治療が含まれないのです。主な活動対象は病気になっていない人です。病気ではない社員を病気でないまま保つ、あるいはより健康にすることが特に重要です。また、もし病気があっても社会的に健康であるために、本人がしたい仕事を存分にしてもらうようにすることも大切な業務です。もう一つ、一般の実地医療家との大きな違いは、その活動対象に「事業者」も含まれることです。労働者に対する健康管理の責任は事業者にありますが、会社の管理職といえども専門家ではないため、実際には何をやっていいかわからない。そこで、私たち産業医が労働者の健康管理に対する指導・助言を行うのです。

また、個々の労働者に対しては、健康診断の結果に基づく保健指導、作業の有害要因への対応アドバイス、過重労働者やストレスを自覚する者への面談、病気で休んでいる人が復帰する際のサポート、あるいは禁煙指導や肥満解消指導あるいは運動実践指導など、病気が顕在化する前に予防する健康増進活動なども実施しています。

健康診断は外部委託ですが、自社の健康管理システムに乗せるため、判定をするのは私たち産業医です。この判定には所見の有無や医療要否判定のほか、就業上の措置の要否や内容、保健指導の要否など様々な要素が入ってくるため、これを総合的に判断することが求められます。そのためには社員が働く職場の環境と仕事内容を知ることが不可欠です。鉄鋼業の作業現場は広大(注:君津製鐵所で東京ドーム220個分の敷地)なので、私たちは前後のミーティングを含めて1回2〜3時間、年間約40回の職場巡視を行っています。

具体的に、職場巡視では何を見ているのですか。

宮本 ポイントは、“どこで、どんな負荷がかかって仕事をしているのか”です。例えば、どんな姿勢で作業しているのか、どこにどんな有害要因があり、この環境下で何人がこの作業に取り組んでいるのか。職場の上司は誰で、どんなタイムスケジュールで進めているのか等を重点的に見ています。

粉塵量や温度などは作業環境測定で把握できますが、測定結果に出てこない個人への「ばく露」の部分を見ることが重要です。怪我をするかしないかといった安全面は結果がすぐにわかるため対策がしやすい一方で、衛生は長期間を経ないと影響が出てこず、影響が出たらもはやどうしようもない。その最たるものがアスベストですが、それはリスクを知っている者が指摘しないとわかりません。

君津製鐵所の産業保健チームの体制を教えてください。

宮本 新日鐵住金の直営側として、専属産業医3人と産業医研修で勉強に来ている若手医師1人のほか、健康情報管理や階層別健康教育、健康増進施策の仕組みづくりと社内展開を担当している直営保健師2人、個別の保健指導や健診結果へのコメント記載や職場への出前健康教育を担当する委託保健師4人がいます。これが狭義の産業保健チームと言えます。また、衛生管理者は操業ライン単位で置き、事業場での専任者1人を含めて計26人を選任しています。このスタッフで新日鐵住金の社員4200人程を担当しています。