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ストレスチェック制度を考える(6)

重要なのは、個人のチェックより組織分析 そこで何が起きているのかを知り、改善に導くこと

2016.06.22   メディカルケア虎ノ門 院長 五十嵐良雄 氏

メディカルケア虎ノ門 院長 五十嵐良雄 氏
メディカルケア虎ノ門 院長
五十嵐良雄 氏

1976年 北海道大学医学部卒業。1976年 埼玉医科大学精神医学教室助手。1984〜85年 イタリア・ミラノ大学、オランダ・ユトレヒト大学留学を経て、1988年 秩父中央病院理事長院長。2003年メディカルケア虎ノ門院長。2008年 うつ病リワーク研究会代表世話人
○公職
日本デイケア学会副理事長 日本産業精神保健学会理事 日本外来臨床精神医学会常務理事 など

メディカルケア虎ノ門では薬物療法に加え、デイケアやカウンセリング、リワークプログラムなどにより、心身療法面から復職を支援している。特にリワークプログラムでは、産業医としても豊富な経験を持つ精神科医をはじめ、保健師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士らの多職種がチームとなり、総合的な視点からサポートしている。

連載2回の1回は、職場のメンタルヘルスに関して専門的なスキルと見識を持つ同クリニック院長の五十嵐良雄氏に、ストレスチェック制度の内容や評価、活用のポイントなどについて、お話を伺った。
(取材:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也 構成:同取材班 但本結子)

高ストレス者の発見だけでなく、
いかに減らし、
会社の安全対策に活かせるかかが重要

まず、昨年12月から義務化されたストレスチェック制度について、五十嵐先生の評価をお聞かせください。

五十嵐 この制度は仕組みが複雑でわかりにくい。皆さんが共通して感じていることでしょうが、そうなってしまったのは労働者の個人情報を守ることを優先させた結果です。また、通常の健康診断と同様、全員受ける制度とすれば良かったものを自由意思で受ければいいとしてしまった。その点については、制度の根幹のセンシビリティーをかなり弱めるのではないかと考えています。

「ストレスチェック制度に関する検討会」の委員を務められた社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授の中村純先生から、当初、この検討会に精神科医は参加されていなかったと伺っています。そのあたりについてはいかがでしょうか。

五十嵐 これは厚生労働省の縦割り行政の問題です。元々、厚生省と労働省は別の組織で、それが今でも内部は別々になっているため、きちんとしたコミュニケーションが取れていない。後で詳しく触れますが、今回は労働省マターで厚生省は関係がないように見えるものの、そうした構造的な問題が制度の構築にも影響したように思います。

精神科医として患者を診るお立場からは、この制度はどのように映りますか。

五十嵐 精神疾患を診る立場から言うと、チェックを受けただけでは診断治療が必要なのに、臨床のところまで到達しない労働者が多数出るのではないかと危惧しています。また、高ストレス者の面接指導はいわゆる診療行為ではないので、診療報酬では請求できません。自費での請求となって、診療側から見ると極めてやりにくい制度です。

2015年12月1日から2016年11月30日までの間に、ストレスチェックを1回行うことになっていますが、企業の導入状況はいかがでしょうか。

五十嵐 ストレスチェックをすでに終わらせた企業は半数にも満たないと思います。他の企業は様子見の状況で、ピークは7月以降になると見ています。それから中小企業、特に小規模の会社では何をどうしたら良いのかわからない、あるいは困っているところも多いのではないかと思います。

中小企業が困り事を相談できる場はありますか。

五十嵐 相談は労働局や労働基準監督署で受けてくれるのではないでしょうか。

中小企業をはじめ多くの企業では、ストレスチェックそのものを外部委託せざるを得ないと聞きますが、この現状についてはいかがでしょう。

五十嵐 これまでメンタルヘルスに携わったことがない人たちも、ビジネスチャンスとばかり様々な業界から参入してきています。しかも、そのバックグラウンドは医療に関係あるなしを問わない。そうなると、単にチェックをしただけで終わってしまうので、委託先はしっかりと選ぶべきですが、依頼する企業側にはそのあたりがなかなか見えません。

重要なのは、その後の下流工程です。上流でただチェックをして結果を本人に返して終わりという業者さんは多数いますが、高ストレス者の面談まできちんと面倒を見てくれるところはそれほど多くないと思います。

高ストレス者を発見するだけでなく、その後どうするかがこの制度のポイントですね。

五十嵐 その通りです。企業にとってはいかに高ストレス者を減らすかが大事で、そこに予算を注ぎ込むのですから、高ストレス者を減らす対策が出せないようではストレスチェックを行う意味がありません。

最終的には組織分析の結果を生かして、対策を練ることが大事です。分析されたデータをもらって、会社の安全対策にどう落としていくか。何かが起きているサインかもしれないし、仮に何かが起きていればどうやって改善していくのか。組織分析の読み解きは会社と産業医、あるいはコンサルタントと相談しつつやるべきですが、何らかの手を打つための重要な資料になります。そして、それこそがこの制度の根幹であると考えています。