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ストレスチェック制度を考える(5)

精神医学に精通した産業医を 精神科医がバックアップする仕組みの構築を (2/3)

2016.05.11   社団医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授 中村 純 氏

ストレスチェック制度の実施マニュアルを見ましたが、1日では見切れないほどの量です。

中村 その通りです。マニュアルは160ページを超えるものですが、それほど膨大な補足を付けなければいけないほど無理があるともいえます。

ストレスチェックの項目自体は、もともとあったものがベースです。20年程前に、東京医科大学公衆衛生学教授の加藤正明先生、下光輝一先生らのグループが数十万人を対象にストレス測定研究を行い、開発されたのが57項目からなる職業ストレス簡易調査票です。国は、これをストレスチェック制度の標準版として推奨して、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」、この3項目がなければストレスチェックとは言わないと決まったのです。

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(厚労省)

状況に応じて設定できる基準
職場改善につながるか疑問

実施マニュアルの中に高ストレス者の選定方法が記載されていますが、これもまた難しそうです。

中村 奇妙なことがあります。下図は、「心理的な負担の原因」と「労働者への支援」を重ね合わせたものですが、高ストレス者のポイントは動かせるのです。基準点AとBとCはそれぞれの事業所の状況に応じて設定することができる。つまり作為的にできる。

高ストレス者選定のイメージ(クリックすると拡大)

それでは基準とはいえないのではないでしょうか。

中村 職場によって、ストレスの程度が異なるためです。高ストレス者を選定するには、評価点数の合計が高いことが前提としてあります。但し、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上あって、かつ「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に対する項目」および「職場における他の労働者による支援の項目」の評価点数の3つが著しく高い人を高ストレス者といいますが、高い、低いという評価点をそれぞれの職場において変えられるわけです。

これを自動的に計算できるソフトは厚労省から提供され、速やかに集団分析できるようになっています。そして、この部署はストレスが高いから職場改善をしようという話になります。

数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法
(厚労省 ストレスチェック制度実施マニュアル40〜43ページ)

トップの意識変革が鍵を握る
メンタルヘルス不調者を出さない会社へ

中村氏

職場改善を求められた場合、企業はどう対応するのか。このあたりも課題になりそうですね。では、制度をうまく活用するために、企業はどう対応すべきでしょうか。また、産業医や産業保健チーム、企業に求められることは何でしょうか。

中村 これまで企業では、身体の病気についてはメタボ検診で生活習慣病等の予防には努めてきたものの、こころの問題は置き去りにされてきました。今回のストレスチェック制度は、仕事の量や質、長時間労働、職場の人間関係など、過重労働対策と同じスタンスで並べて書かれてあるように、これらの問題を把握することが目的だと思いますが、重要なのは企業トップの意識を変えてもらうことです。メンタルヘルス不調者が1人でもいると、会社の生産力が低下することを理解し、そうした人が出ないような社風をつくっていく。あるいは悩んでいることがあれば、健康管理室に気軽に訪ねていけるような仕組みをつくるなどしなければ、精神疾患に対する偏見から問題を改善することは難しいと思います。

ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、看護師、精神保健福祉士と定められており、外部委託も可能とされています。多くの企業では、ストレスチェックを外部委託せざるを得ないと聞きますが、この現状についてはいかがでしょう。

中村 ストレスチェックまでは外部委託でも構いませんが、事後措置をする医師の問題が残ります。面談する精神科医が足りなくなり、それさえも外部委託する可能性はあります。ただ、その精神科医が企業の中のことまで理解できる、要するに産業保健について詳しい医師でなければ意味がありません。一方で、産業医も今までの産業医ではだめで、精神医学を学ばなければならないし、精神科医も産業医学を学ぶことが必要です。

精神科医が産業医学を学ぶ場はありますか。

中村 東京などの医師会の精神科医の場合は職場の人たちを診ていますし、徐々にその機会は増えてきていると思います。また、医師会主催の勉強会も様々に行われています。