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ストレスチェック制度を考える(3)

早期発見から発症予防へ、制度の目的が変わった

2016.04.20   社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授 中村 純 氏

社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授 中村純氏
社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授 中村 純 氏
1975年 久留米大学医学部卒業。1979年久留米大学大学院医学研究科博士課程修了。1979年米国テキサス大学ガルベストン校留学(2年半)。1994年久留米大学医学部神経精神医学講座助教授。1998年産業医科大学医学部精神医学教室教授。2015年3月 産業医科大学 定年退職。2015年4月 産業医科大学名誉教授、社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院勤務。同年6月より現職

ストレスチェック制度の義務化から約4カ月が過ぎた。保健同人社とヒューマネージの調査によれば、施行後2カ月半の時点で準備状況について「ほぼ完了している」と回答した企業のメンタルヘルス担当者は5%未満で、「検討中/情報収集中」と回答したのは60%を超えていたという。また、制度導入にあたって懸念される点については、トップが「高ストレス者への対応」、次いで「規定の整備」「ストレスチェック実施後のフォロー体制」と続いた。専門的な知識を要する制度への理解、運用に対応する周囲との調整や連携など、様々な課題が浮き彫りとなっている。

連載3回の1回は、「ストレスチェック制度に関する検討会」の委員を務められた社会医療法人北九州病院・北九州古賀病院院長 産業医科大学名誉教授の中村純氏に、制度導入の経緯、同検討会での討議などについてお話をお伺いした。
(取材:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也 構成:同取材班 但本結子)

ストレスチェック制度の目的は
メンタルヘルス不調者の早期発見ではない

2015年12月1日から労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」が導入されました。中村純先生は、制度の構築に深く関わっていらっしゃいましたが、内容や仕組みについてどのように評価されていますか。

中村 産業医はストレスチェック制度に対して、一次予防(発症予防)だと捉えています。エビデンスがあるかどうかは別にして、この制度は公衆衛生学の医師を主体に作成されたと理解しています。つまり制度の導入によって実現できるのは、メンタルヘルス不調者の早期発見ではなく、仕事の量や質、職場の人間関係などを軽減させ、メンタルヘルス不調者の発症を予防するのが目的です。しかし、一次予防とはいえ、すでにうつ病を発症している人もいるでしょうから、産業医の立場からすればやはり精神科医が関わるべきだと考えています。

しかし、産業医だけでストレスチェック制度に対応できると思っている人がいると聞きます。

中村 自分たちだけで対応できると思っている産業医がいることは事実ですが、一般的に産業医の中には整形外科や耳鼻科、極端な場合は外科出身の医師もいて、その多くが精神医学を専門に学んでいません。そうした産業医のうち、産業保健の問題に対して、「精神科医はいらない」という人もいます。

一方で、精神科医もこの人は重症だ、この症例は大したうつ病ではないといったように症状だけを診る傾向がありますが、たとえ軽症であったとしても、重要なのは「症例性」と「事例性」の評価です。

精神科医が診断するのはうつ病の症状や重症度(症例性)であり、一方の企業はその人の職場での立ち位置や活動量、将来性といったこと(事例性)を見ています。つまり極端に言えば、企業にとって病名はあまり関係ない。むしろ問題となるのは、無断欠勤や仕事の能率が落ちているなど、周囲が対応に困るケースです。そうなると、本来は人間関係まで把握するような繊細な職場巡視が必要で、精神科医もそうした視点を持つべきですが、そのためには今度は個人情報の問題があり、難しいところです。ただ、精神科医も「うつ病だから3カ月間の休職が必要」と、型にはまった診断書を出すことが本当に良いのかどうか、慎重に考えるべきです。