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ストレスチェック制度の導入を考える(2)

職場環境の改善により、適応障害のうつ状態の人の減少へ

2016.01.21   国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏

国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏
国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏

長期休職者の約7割がうつ病などのメンタルヘルス不調者であり、職場で強いストレスを感じている人も6割に及ぶと指摘されている。また、精神疾患による労災認定の請求件数、認定件数は共に増加の一途をたどっている。

こうした中で、労働安全衛生法が改正され、2015年12月1日から従業員50人以上の全事業所において「ストレスチェック制度」が義務化された。これに伴い、企業は従業員に対して年1回、ストレス程度を把握する問診票検査を行ない、高ストレス者とされた従業員は任意で医師の面接指導などを受けることとなった。制度の実施にあたっては、検査結果が企業に知られ、待遇や昇進に影響するのではないかといった不安の声が聞かれる。また、制度をビジネスチャンスと捉え、質の低いサービスが提供されることも懸念されている。

連載2回の第2回は、ストレスチェック制度の理念や適正な運用に向けての課題について、国立精神・神経医療研究センター理事長の樋口輝彦氏にお話を伺った。
(構成:21世紀医療フォーラム取材班 小池雄介 文責:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

安易な外部委託は制度の理念を歪め
形骸化につながりかねない

ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚労大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士と定められているほか、外部委託も可能とされています。さらに、ストレスチェック実施者の補助業務として、質問票の回収、データ入力、結果送付など個人情報を取り扱う業務についても外部委託が可能としています。多くの企業では、ストレスチェックそのものを外部委託せざるを得ないと聞きますが、こうした現状について、樋口先生のお考えをお聞かせください。

樋口 ストレスチェック制度は、従業員50人以上の職場に義務付けられた制度であり、50人未満の職場は努力義務とされています。中小企業の多くは、厳しい経営環境の中で、この制度を運用するための実施者、実施事務従事者を選任する余裕がないのが実情でしょう。

実際、東京労働局が従業員100~149人の事業所を対象に調査した結果、ストレスチェック制度を「知っている」と答えた事業所が94.4%に上る一方で、メンタルヘルスの推進担当者を選任している事業所は53%、休職者の職場復帰支援プログラムを作成している事業所は47%にとどまっています。

中小企業の多くはストレスチェックに大きな関心を寄せているにもかかわらず、自社でこの制度を運用していく人も時間も金もない。制度の運用にあたっては国や自治体から補助金が出ますが、ならば実施者、実施事務ともに丸ごと外部委託したいと考える事業所が出てくるのも避けがたいことだと思います。

外部委託を受ける企業の中には、企業のメンタルヘルス改善に誠実に寄与しようという意思を持って業務にあたるところもありますが、残念ながらビジネスチャンスと捉えておざなりなサービスを提供する企業も少なくないようです。

こうした事業者に外部委託してしまえば、繰り返し申し上げたような「早期に高ストレス者を見出してうつ病の一次予防に寄与し、ストレスのない職場づくりを目指す」といった理念が失われ、この制度自体が形骸化しかねないと危惧しています。

一方、大企業の中には、すでに産業医として機能しうる精神科医である「精神科産業医」の指導のもと、質の高いメンタルヘルス対策を講じているところもあり、こうした企業ではストレスチェック制度を導入すると屋上屋を重ねることになるばかりか、かえって対策が後退しかねないという懸念も示されました。