トップページインタビュー自らストレスの程度を知り、うつ病の発症を予防する
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ストレスチェック制度の導入を考える(1)

自らストレスの程度を知り、うつ病の発症を予防する

2016.01.14   国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏

国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏
国立精神・神経医療研究センター理事長 樋口輝彦 氏

長期休職者の約7割がうつ病などのメンタルヘルス不調者であり、職場で強いストレスを感じている人も6割に及ぶと指摘されている。また、精神疾患による労災認定の請求件数、認定件数は共に増加の一途をたどっている。

こうした中で、労働安全衛生法が改正され、2015年12月1日から従業員50人以上の全事業所において「ストレスチェック制度」が義務化された。これに伴い、企業は従業員に対して年1回、ストレスの程度を把握する問診票検査を行ない、高ストレス者とされた従業員は任意で医師の面接指導などを受けることとなった。制度の実施にあたっては、検査結果が企業に知られ、待遇や昇進に影響するのではないかといった不安の声が聞かれる。また、制度をビジネスチャンスと捉え、質の低いサービスが提供されることも懸念されている。

連載2回の第1回は、ストレスチェック制度の理念や適正な運用に向けての課題について、国立精神・神経医療研究センター理事長の樋口輝彦氏にお話を伺った。
(構成:21世紀医療フォーラム取材班 小池雄介 文責:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

職場健診と同様にストレスをチェック
うつ病の一次予防に役立てる

2015年12月1日から労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」が導入されました。樋口先生は、この制度の趣旨や仕組みについて、どのように評価していらっしゃいますか。

樋口 労働界、産業界では、かねてから長期休職者の増加が問題視されてきました。国も、長期休職の原因の7割を占めるとされるうつ病に対しては、早期に発見して治療し、復職してもらうため、さまざまな対策を講じています。最近、問題はもっと上流にあり、早期に対策を打たなければいけないのではないかという認識が生まれてきました。こうした認識が、ストレスチェック制度が導入された背景にはあります。

厚労省の検討会での当初の目的は、うつ病を早期発見するためのチェック制度をつくることでした。議論が深まるにつれ、早期発見以前に、うつ病の発症を防ぐことにフォーカスすべきだという意見が主流になっていったと聞いています。

例えば脳梗塞や急性心筋梗塞など、生命やQOLに大きく関わる疾患の発症を未然に防ぐことを一次予防、再発を防ぐことを二次予防と呼びます。職場の健康診断で血圧や血糖、脂質などの値をチェックし、異常があれば食事や運動に気を配り、必要に応じて服薬するなど、危険因子を管理するのは一次予防です。

うつ病についても同様に、年1回、従業員が自らのストレスの程度を知り、高ストレスでうつ病を発症するリスクが高いと判断されたら、必要な対策をとって発症予防につなげることがストレスチェック制度導入のそもそもの理念です。

私自身、ストレスチェック制度そのものは、あって然るべき、必要な仕組みだと思いますが、問題はこの制度がこうした理念に違わずに運用され、本当に実のある対策がとれるかどうかです。

面接指導によりストレスの原因を探り
職場環境の改善へ 

ストレスチェックで「高ストレス者」と評価されることで、職場での待遇や昇進に影響するのではないかと危惧する声も聞かれます。

樋口 この制度の目的は、前述したように、うつ病の患者を見つけることではなく、職場で強いストレスを感じている人たちをピックアップして必要な対策をとることにあります。ストレスチェックの結果を知ることができるのは、チェックを受けた本人、医師や保健師などの実施者に限られます。

また、ストレスチェックは強制的なものではありませんので、高ストレスと評価された人が、自発的に医師の面接指導を受け、どう対応したら良いかを相談したいと思わない限り、対策にはつながらないという懸念はあります。

一方、専門家である医師が高ストレス者から、職場でどんなストレスを受けているのかを分析することで、様々な要因が見つかってくると思います。その中で人間関係を含む職場環境の問題が明らかになれば、企業側はきちんと解決に努めなければならないということになっています。

今までなら職場でストレスを受けていると訴えても、それは個人の問題とされていたのに対し、ストレスの原因となる職場の問題も明らかにし、解決できるところは解決するという視点が加わったことが、大きなポイントといえます。高ストレス者と評価された人が、医師から単に「あなたは病気かもしれません」「単なる疲れです」「家族との関係が悪いからでしょう」などと言われるだけでは、本人にとって得るところはありません。

しかし、「職場環境や処遇の問題も取り上げ、解決に努めてくれるなら、自分が受けているストレスについて積極的に語ろう」と思う人が出てくるかもしれません。こうした機運が高まり、職場環境の改善、ひいては企業業績の向上につなげることにこそ、この制度の本当の狙いがあるのではないかと考えています。
第1回終わり(第2回に続く)

■関連リンク
5分でできる職場のストレスセルフチェック
(こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト 厚生労働省)
http://kokoro.mhlw.go.jp/tool/worker/