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トップページ医療コラム矢部武の「孤立死」から「自立死」へ「定年後の就業」は健康維持に役立つ

矢部武の「孤立死」から「自立死」へ Vol.74

「定年後の就業」は健康維持に役立つ

2017.12.18 ジャーナリスト 矢部 武

仕事はストレスの原因になるかもしれないし、ストレスがたまると健康を損なうかもしれない。特に40年以上もずっと働き続けてきた人は定年退職したら、もう働きたくないと思うかもしれない。しかし、定年後も自分の都合に合わせて、パートタイムでもいいから働き続けた方が健康を維持できるという研究調査が最近、日本と米国で発表されている。高齢者にとっての就業は社会的な繋がりや生きがい感をもたらし、自信、自尊心、幸福度を高め、いつまでも活動的に自立して生活するのに役立つというのだ。

定年後の就業が健康に与える影響について具体的に明らかにした研究調査はまだあまり多くないが、これまで発表されたものをもとに定年後もずっと働き続けた方が良いのかどうかについて考えてみよう。 

やることがない人はうつ病になりやすい

大正生まれの90歳を超えた作家の佐藤愛子さんが自分に起こったこと、考えたことを描いたエッセイ集『九十歳。何がめでたい』(小学館/2016年8月)が100万部を超えるベストセラーとなっている。「いちいちうるせえ」の精神とユーモアのある表現で、様々な社会事象を縦横無尽に切りまくる痛快さが高年齢層から若年層まで世代を超えた共感を集めているという。

しかし、実はこの作品は佐藤さんが「作家として幕を閉じる」と決めた後、予期しないことが起きたために書き始めたのだという。

佐藤さんはその時の状況を、月刊誌とのインタビューでこう語っている。「2014年に最後の長編小説『晩鐘』を書き上げて、しばらくぼーっとしていたんです。何もせずに3、4カ月したらちょっとうつ状態になって、頭も錆びついてきた気がした。ちょっとまずいことになったなぁと思っていたら、ひょこっと女性セブンの編集者が現れて、『何がめでたい』の連載が始まりました。そうすると張り合いも出て、仕事もなく人も来ない状態は私にとって理想的ではないとわかったんです。割に働き者なんですね」(『新潮45』/2017年12月号)。

佐藤さんが経験した状況は、定年退職して毎日やることがなくなり、暇な生活に苦痛を感じ始めた会社人間タイプの男性に似ているかもしれない。

私は以前、定年後の自由で自立した生き方を提案した拙著『60歳からの生き方再設計』(新潮新書/2014年8月)の執筆のために、多くの定年退職者に取材した。彼らの話で共通していたのは、定年前に抱いていた「自由で楽しい生活」のイメージと、定年後の現実は全く異なるということだ。

つまり、定年退職したら趣味や旅行、ボランティアなどを楽しもうと考えていても、いざ退職すると、毎日何をしたら良いかわからなくなってしまう人が少なくない。そして、毎日やることがない、出かける用事もない、会う人もいないという生活が延々と続くことが苦痛となり、家に閉じこもってしまったり、うつ病状態になってしまったりする。

その防止策としてこれまでよく言われてきたのが、地域社会でボランティアなどをして繋がりをつくり、生きがいを持つことだ。

しかし、東京都健康長寿医療センター研究所で「社会参加と地域保健研究チーム」の研究部長を務める藤原佳典氏によれば、高齢者の社会参加を促進する方法として、ここ数年でひときわ注目されるようになったのは「就業」だという。特におおむね元気で自立した日常生活を送ることができる健康な高齢者にとって、就業は社会貢献の場になり、生きがいづくりの場にもなる。さらに高齢者自身の経済的な余裕にも繋がるなど、様々なメリットがあると主張する。

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コラムニストプロフィール

矢部武 ジャーナリスト

1954年、埼玉県生まれ。米アームストロング大学大学院修士課程修了。1974年に渡米。「ロサンゼルスタイムス」紙 東京支局記者などを経て、フリーランスに。現在は、日米を行き来しながら、高齢者、雇用、健康、社会問題などをテーマに、取材・執筆活動を続けている。著書に『60歳からの生き方再設計』、『ひとりで死んでも孤独じゃない~「自立死」先進国アメリカ』、『携帯電磁波の人体影響』、『日本より幸せなアメリカの下流老人』など多数。