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トップページ医療コラム矢部武の「孤立死」から「自立死」へ世界最高齢の女性が死去 〜100歳過ぎまで健康に生きるための秘訣〜

矢部武の「孤立死」から「自立死」へ Vol.71

世界最高齢の女性が死去 〜100歳過ぎまで健康に生きるための秘訣〜

2017.06.15 ジャーナリスト 矢部 武

2014年4月15日、ギネス記録で世界最高齢と認定されていたイタリア人女性のエマ・モラノさんが自然に息を引き取った。117歳だった。彼女は1800年代生まれの最後の人物として注目され、110歳を過ぎた頃からよくメディアの取材を受けていた。記者から長寿の秘訣について聞かれると、彼女は夫と離婚したことでストレスから解放されたこと、1日3個の卵とクッキーを食べるのを習慣としていたことなどをあげた。

ただ長生きをすればいいというものではなく、いつまでも健康で楽しく生きることが大切ではないかと思う。そこで今回は100歳過ぎまで生きた人たちの食事や生活スタイルなどを明らかにしながら、健康長寿の秘訣を探ってみたい。

夫と離婚してストレスがなくなった

117歳の誕生日を約1カ月後に控えたエマ・モラノさん(The Express Tribune)
117歳の誕生日を約1カ月後に控えたエマ・モラノさん(The Express Tribune)

ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、モラノさんは物をたくさん持つ物質主義や、携帯電話でメールを頻繁にやり取りするような忙しい生活とはかけ離れた、非常にシンプルな生活を好んだという。

寝室のベッドテーブルには両親と兄弟姉妹の写真が並べられ、引き出しにはアンチエイジングクリームが入っていて、毎晩寝る前に塗っていたそうだ。十代の頃はダンスが好きで、姉妹たちと一緒に夜こっそりと家を抜け出し、踊りに出かけたという。

モラノさんの家はイタリア・ミラノ北西のマッジョーレ湖近くの小さな町、ベルバニアにあったが、この地域は年間を通して温暖な気候で、地中海の植物や外来の植物がたくさん育ち、自然に恵まれて空気が新鮮だ。十代の頃、体があまり丈夫でなかったモラノさんを心配した両親が医師に相談した結果、この町に引っ越すことになったそうだが、彼女はそれ以来ずっとそこに住み続けた。

世界最高齢の女性が住んでいるということで世界中のメディアが取材に駆けつけ、「おかげで、ベルバニアの町はすっかり有名になった」と町長が感謝しているそうだ。

モラノさんの長寿の秘訣については研究者の興味の対象になっているが、小さい頃から空気が新鮮で、温暖な気候のもとで暮らしたことが健康長寿に繋がったのではないかとの指摘がある。しかし、もしそれが本当なら、この町の住民の平均寿命は他よりも高くなければならないが、そのような話は聞いていないので、単なる偶然か、あるいは他の要因と重なってそうなったのかもしれない。

2つ目に指摘されているのは食生活だが、彼女は100年近くも1日3個の卵(生卵2つ、ゆで卵1つ)を食べ続けたという。卵はタンパク質の他にビタミン・ミネラルが豊富で、「栄養価の優等生」と呼ばれ、しかも消化吸収されやすい。コレステロールが比較的多く含まれているが、1日3個くらいなら問題はなさそうだ。実際、メタボリック症候群患者の減量食に卵を加えたら、脂質バランスやインスリン抵抗性(糖尿病の原因となる)が改善されたとの研究結果もある。

一方で、彼女はクッキーが大好きでよく食べていたようだ。子どもの頃は他の人に食べられないように、いつも枕の下にクッキーを隠しておいたという。卵と違って、クッキーの食べ過ぎは健康的とは言えないが、細かいことはあまり気にせずに好きなものを食べるというのが、彼女のスタイルだったのかもしれない。

3つ目は、夫と離婚して精神的な解放感を得られたことが健康長寿に繋がったのではとの指摘だが、これは当たっているようだ。というのは、モラノさんの葬儀に参列した友人が「(故人は)夫に従順でなければならないことを屈辱と感じ、ずっと我慢していたが、離婚したことで精神的に解放されたようだった。自分の人生を誰にも支配されたくないという気持ちが強かったのです」と話していたからだ(2017年4月20日付 ニューヨーク・タイムズ紙)。

モラノさんは39歳の時、幼い一人息子が亡くなったのをきっかけに離婚した。それから自分で働き始め、経済的に自立し、充実した毎日を送ったようだ。75歳まで仕事を続け、リタイア後はずっと元気で暮らし、牛挽肉のパスタ料理が得意でよく作って食べた。身の回りのことも、亡くなる2年くらい前までずっと自分でやっていたという。

そして110歳を過ぎた頃からメディアの取材を受けたり、お客さんが訪ねてきたりするようになったため、時々一人で美容院へ行き、髪を整えていたそうだ。

このように自分の好みとスタイルを優先した、自由で自立した生き方が健康長寿に繋がったのかもしれないが、大切なのはそれが全ての人に当てはまるわけではないということだ。

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コラムニストプロフィール

矢部武 ジャーナリスト

1954年、埼玉県生まれ。米アームストロング大学大学院修士課程修了。1974年に渡米。「ロサンゼルスタイムス」紙 東京支局記者などを経て、フリーランスに。現在は、日米を行き来しながら、高齢者、雇用、健康、社会問題などをテーマに、取材・執筆活動を続けている。著書に『60歳からの生き方再設計』、『ひとりで死んでも孤独じゃない~「自立死」先進国アメリカ』、『携帯電磁波の人体影響』、『日本より幸せなアメリカの下流老人』など多数。