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人を組み替える

2016.12.28

グローバル化しても品質が落ちない ディズニーの人材育成の秘密

森辺 一樹

グローバル化時代の戦略と覚悟

ブランド 教育 国際

企業が海外進出を検討するときに必要な「覚悟」とはどのようなものか? 様々な業界・業種の企業や人との対談を通じて、彼らのグローバル化時代の戦略と覚悟を聞く、シリーズ第5回。

今回は東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドの元人材トレーナー・櫻井恵里子さん。カリスマトレーナーとして10万人以上のキャストを育てた経験をもつ櫻井さんに、人材育成とブランディングについて伺った。

櫻井恵里子さん

櫻井恵里子さん

1998年、オリエンタルランドに入社。園内店舗の商品販売を経て、商品開発、人事を経験。「キャスト」と呼ばれるアルバイトの教育を担当する。ディズニーのフィロソフィーを外部に提供する「セミナー事業グループ」で営業や講師を務めた後、独立。現在はハピネスコンサルティングとして経営者から従業員までの人材開発を幅広く行いながら、西武文理大学サービス経営学部で専任講師としても活躍。著書に『「一緒に働きたい」と思われる心くばりの魔法 ディズニーの元人材トレーナー50の教え』がある。会社ホームページはこちら

 

アルバイト用の研修ビデオでも、ディズニークオリティーを追求する

森辺:前回、ウォルト・ディズニーの理念がキャストまで浸透していることがディズニーの強さだと伺いましたが、それは並大抵のことではないと思います。理念を浸透させるために、どのようなことをしているのでしょうか。

櫻井:ディズニーでは理念を、手を変え品を変え、繰り返しキャストに伝えています。社内用のビデオ一つとっても手を抜かない。キャストが「この会社で働いてよかった」と思えるよう、ディズニークオリティーを絶対に落とさないんです。

私も研修の際は、「受講生はお客様」というスタンスで接します。目の高さを合わせて「ゲストに対する態度というのは、こういうものなんですよ」と手本を見せる。価値観も姿勢も、徹底して一貫させるんです。もちろん現場のトレーナーも同じようにします。

森辺一樹

森辺:理念が明確なんですよね。ユニリーバやネスレ、P&Gといった欧米の先進的グローバル消費財メーカーもそうですが、理念が明確だから、まずトップがそれを本気で信じているし、それがあるからこそ社員にも浸透しています。

アップルはビジョンに共感しない人は入社させないと聞きます。アップルのCMがかっこいいのは広告代理店やデザイナーがいいからだけではないんです。スティーブ・ジョブズの理念が表されているからですよね。今の日本企業にはそれがない。

櫻井:本国のディズニーの経営陣も、ウォルト・ディズニーの遺志を継いでいますね。「ディズニー人って何ですか」と聞くとパッと答えが返ってきます。「他人ではできないことをやろうとする人、リスクが取れる人です」って。「うちの会社はこういう会社ですよ」ということをすぐに言えない企業はグローバル化はできないと思います。出て行った先であっという間にグラグラしてしまいますから。

ブランディングはコモディティー化を抜け出す手段

櫻井:ディズニーの理念を体現し、創業者ウォルト・ディズニーの遺志を継ぐ者という意味では、ミッキーの存在も重要です。ミッキーは子どもの頭身でみんなに愛される無垢な存在です。ディズニーが目指す価値観の「ハピネス」が無垢なものであることが伝わるように、ミッキーというキャラクターを通じて、ハピネスのあたたかさ、無垢さを表現しているんです。

櫻井恵里子

ウォルト・ディズニーはミッキーの前にオズワルドというキャラクターを作ったのですが、版権のトラブルに巻き込まれて取られてしまう。その苦い経験があるので、ディズニーは版権に厳しいんです。ミッキーはそのあとに生み出したキャラクターなので、ウォルト・ディズニーにしてみたら大事で大事でしょうがない。だから、ミッキーの声も自分で吹き込みました。ミッキーはまさしくウォルト・ディズニーの分身で、彼の心情が伝承されていると感じますね。

森辺:今や、技術力の差がなくなり、食品も自動車もアミューズメントもコモディティー化してきてしまいました。だからこそ、変わらない一貫性や理念に消費者が引きつけられる時代になってきた。

例えば、ダイソンは掃除機に社運のすべてを賭けていることが消費者に伝わりますよね。でも、その他のメーカーの掃除機はそうでないから、中国との価格競争になってしまう。言い訳として、技術だ品質だとアピールするけれど、そんなものを消費者は求めていない。「魂はどこに入っているんだ」ということを見抜かれている気がします。

20年前に比べたら、中国の製品クオリティーも上がってきている。日本人がバカにしていた自動車も、ずっとかっこよくなっています。そうすると、ディズニー、ダイソン、アップル、そういったブランドにコモディティー化を抜け出すヒントがあるような気がします。

グローバル化を成功させる「世界標準化」

櫻井:世界中で通用するブランドを築くためには、それを支える人たちに、国を超えて、理念を共有してもらう必要があります。でも、日本の企業は人事システムの導入を業者に丸投げする傾向があるんですよ。だから通常、グローバル化するときにはシステムをつなぐだけで、莫大なお金がかかります。人事制度は評価も賃金も国ごとに違うから、なかなかグローバルに展開できないというのが日本企業の人事の悩みだそうです。

一方で、ディズニーは中枢のシステムの設計を全部社内で整えています。肝心なプロセス設計は全部自作でディズニー側がやって、サーバーだけITメーカーに頼むというように、自分たちに合ったシステム作りをしているんです。だから拡張するときはとても楽にできるんです。

森辺一樹

森辺:なるほど。日本企業はビジョンも戦略も、システムも一本筋が通っていないですよね。「いいものを作ったから、これが売れるところはどこだ」とバラバラに展開するだけで標準化ができない。世界標準化ができないまま、商品を海外に持って行って、現地に裁量権をもたせて現地適合化と言っても無法地帯になるだけなんです。

櫻井:ディズニーでは、日本でブランドがぶれないように、各カウンターパートがアメリカから送り込まれます。アメリカで考え抜かれた軸がぶれそうになると「ちょっとオリエンタルランドさん、違いますよ」と警鐘を鳴らすんです。

森辺:かといってアメリカの社員がすべてを管理するのではなく、大切なことをインストールするのが目的ですよね。基本は現地の日本人のリーダ―にやらせる。外資企業はどの業種でもそうです。現地の人に統治させているように見えるけど、実は裏で牛耳っている。うまくいく方法が、かつて西欧が植民地支配で成功したやり方と同じというのは皮肉ですが、日本は今でも、いつまでも現地で駐在員が直接管理しようとして失敗する企業が多いんです。

海外進出してもぶれない軸があること、そしてそれをインストールしたら、あとはその国のスタッフに任せながら、ちょうど良い距離で見守ること。この点でも、ディズニーに学ぶことは多そうですね。

(次回はディズニーのホスピタリティーについて伺います)

編集・構成:大川祥子、須賀喬巳

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今回から登場するのは、東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドの元人材トレーナー・櫻井恵里子さん。カリスマトレーナーとして10万人以上のキャストを育てた経験を持つ櫻井さんから、グローバルに通じる、現場で生きる企業理念のあり方について伺った。

プロフィール

森辺 一樹 (もりべ かずき)

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。10年で1000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。