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人を組み替える

2016.12.27

なぜディズニーのキャストはすごいサービスができるのか

森辺 一樹

グローバル化時代の戦略と覚悟

ブランド マーケティング 国際

企業が海外進出を検討するときに必要な「覚悟」とはどのようなものか? 様々な業界・業種の企業や人との対談を通じて、彼らのグローバル化時代の戦略と覚悟を聞く、シリーズ第5回。

今回から登場するのは、東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドの元人材トレーナー・櫻井恵里子さん。カリスマトレーナーとして10万人以上のキャストを育てた経験を持つ櫻井さんから、グローバルに通じる、現場で生きる企業理念のあり方について伺った。

櫻井恵里子さん

櫻井恵里子さん

1998年、オリエンタルランドに入社。園内店舗の商品販売を経て、商品開発、人事を経験。「キャスト」と呼ばれるアルバイトの教育を担当する。ディズニーのフィロソフィーを外部に提供する「セミナー事業グループ」で営業や講師を務めた後、独立。現在はハピネスコンサルティングとして経営者から従業員までの人材開発を幅広く行いながら、西武文理大学サービス経営学部で専任講師としても活躍。著書に『「一緒に働きたい」と思われる心くばりの魔法 ディズニーの元人材トレーナー50の教え』がある。会社ホームページはこちら

 

ディズニーの魔法をつくる行動規準「SCSE」

森辺:先日、この対談のために東京ディズニーランドに行きました。あそこには本当に「魔法」がありますね。4分のアトラクションに乗るために2時間も並ばなくてはいけない。なのに、みんな熱狂的に楽しんでいるんですよ。お土産のクオリティーも高くて、中途半端なものは売っていません。

櫻井:元々、ウォルト・ディズニーって、映画の世界で成功した人なんです。それを3次元の形にしたのがディズニーのテーマパーク。あの場にいるだけで気持ちが高揚するのは、キャストと触れ合う感覚やポップコーンの香りなどによって楽しさが五感に訴求されるように考えられているからなんですよ。

森辺一樹

森辺:キャストとの交流は確かにすごいですね。トイレの場所を尋ねるだけでも、とてもホスピタリティー溢れる対応で接してくれます。

櫻井:キャストはほぼ全員アルバイトなんですが、自身がディズニーを愛していて、ここで働き続けたいという意識が高いんです。しかも「キャスト」つまり「役者」として働いているので、役割を演じるためにホスピタリティー溢れる対応で「こんにちは」が言えるんですよ。

ディズニーにはサービスマニュアルのようなものがないんです。あるのは「SCSE」と呼ばれる行動規準だけ。優先順位が高い順に「S」がSafetyで安全、「C」はCourtesyで礼儀正しさ、「S」はShow(ショー)、「E」はEfficiencyで効率、と並んでいます。このSCSEを実現するために、キャストにも裁量権があるという点も面白いところだと思います。日本のディズニーリゾートはオリエンタルランドが100%ライセンスをもって運営していますが、目指す世界観の実現をめぐってはアメリカ側と衝突することもよくありますよ。

森辺:やはり外資のやり方ですね。核となる絶対的な基準は世界共通で決めておいて、その外側部分は現場に委ねるという方式です。外資系企業の海外展開はこの方式が多いですね。日本企業はほとんどそうではありません。

ディズニーは「絶対的な幸福」を提供するブランド

櫻井:ディズニーの基本的な理念って「ハピネスを提供すること」なんです。そして、ここで言うハピネスは「相対的な幸福」ではなく「絶対的な幸福」です。だから「ディズニーが提供するビジョンはこうだ」とはっきり言える。グローバルで長く生き残っているブランドは、そういった「絶対的な価値」を提供しているものばかりだと思います。

森辺一樹

森辺:そうですね。ひるがえって日本のメーカーは、あまりにも八方美人過ぎるように感じます。日本車もどれも似たような顔をしているので、どのメーカーが作っているのかぱっとみて分からないですよね。でもメルセデスは車から「俺たちはメルセデスだ。信念を変えるつもりはない。嫌いな人はどうぞ乗らないでくれ」というメッセージが伝わってきます。ヨーロッパの車って、総じてブランドの芯があるので、僕はそこに引き込まれます。

櫻井:今「絶対的な幸福」とお話しした「ハピネス」は、「内的な幸福」と言うこともできます。嬉しいな、楽しいな、という人間が本来持っている気持ちになること。出世とかお金持ちになりたいとか、そういう外的なものではなく、お年寄りに電車の中で席を譲ってほんわか温かい気持ちになるとか、お花を見て愛でるとか、そういう幸福感です。それを軸にしているから、ディズニーリゾートではキャストが「私たちのショーって何なんだろうね」と真剣に話し合うんですよ。理念がきちんと現場で生きているんです。

森辺:そういう軸になるようなものは、日本企業も各社が定めてはいるはずなんですが、社員1万人のうち、何パーセントがそれを言えるのかは疑問ですね。

マニュアルがないからできる、すごいサービス

櫻井:ディズニーリゾートには「伝説のサービス」として語り継がれているものがあるのですが、それはマニュアルがないからこそ実現できていると思うんです。例えば、雨の日にアトラクションが早くクローズしてしまって、お客様が寂しく残念に感じているときに、雨上がり、掃除をするキャストが水たまりの水を使って地面にミッキーの絵を描いたらとても喜ばれた、というものがあります。

櫻井恵里子

このサービスはその後「カストーディアルアート」というサプライズとして定着しましたが、それもキャストの方から「これは良い取り組みだと思うので、みんなができるようになりたい」という提案が上がってきたからこそ実現したものです。ハピネスを提供したい、という理念がキャストまで浸透しているからこそできているサービスが、とても多いんです。

森辺:ウォルト・ディズニーが考えたことが今につながっていて、それがブランド戦略とかマーケティング戦略に直結しているんですね。日本はそこから学べるものがあると思います。日本企業は「自分たちはいい人です」「この製品はいいものです」と言いますが、ディズニーのように「私たちが考えるハピネスはこういうもの」というブランドの根本になるべき理念が欠如しています。

まずは自分たちが社会に提供する価値を考え直し、ブランドやマーケティングにつなげていく。日本企業が変わるためには、そこからだと思います。

(次回はディズニーのグローバルな人事戦略について伺います)

編集・構成:大川祥子、須賀喬巳

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今回から登場するのは、公益社団法人日本経済研究センターの主任研究員・牛山隆一さん。およそ10年間、シンガポールやベトナムで新聞記者として働いた経歴を持ち、現在は日本経済新聞社系列のシンクタンクでASEANの経済を研究している牛山さんに、日本の経営者に役立つASEANの今を伺った。

プロフィール

森辺 一樹 (もりべ かずき)

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。10年で1000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』(白桃書房)などがある。