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特集

2016.01.04

就業機会とコミュニティーを並行して育む──横須賀市の例から

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 IT 制度

子どもが成人して働く時期を見据え、子育て世代を支援する

総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」の一つとして、横須賀市で行われているのが「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」である(プレスリリース「総務省事業、横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの採択のお知らせ」)。

横須賀商工会議所が主体となり、同実証実験に参加している。2016年2月までの6カ月間、クラウドワークス(本社・東京、吉田浩一郎社長)が提供するクラウドソーシングを活用し、地域の女性コミュニティーと連携することで、子育て期の女性や、要介護家庭の主婦などに対して、フレキシブルワークが可能な「新たな働き方」を創出するものである。

ノークリサーチの伊嶋謙二社長

横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの代表団体を務めるノークリサーチの伊嶋謙二社長は、「子育て世代の女性は、技術を持っていても働く場がなかったり、働く時間が合わせられなかったりといったケースのほか、働きたいと思っていても働くためのスキルがないといった環境にある。そうした女性たちが、仕事に参加しやすい環境を実現するのがテレワーク。新たな働き方によって、子育ての隙間時間を有効活用して働くことができる」と、今回の実証実験の狙いを語る。

そして、この実証実験を推進する中核が商工会議所であることに大きな意味がある。

同商工会議所の菊地匡文専務理事兼事務局長は、「子育て世代の女性たちは、働きたいと考えていても、なかなか踏み出せない状況にある。特にテレワークのように、まだ一般的に広がっていない仕事の形態については、はたしてどんな仕事をするのか、どんな企業と仕事をするのかという点で大きな不安を持っている。商工会議所が後ろ盾となることで、子育て世代の女性たちが、安心してテレワークの仕事に参加することができるようになる」と語る。

横須賀商工会議所の菊地匡文専務理事兼事務局長

商工会議所がこの実証実験に参加した背景には、横須賀市の課題となっている「転出超過人口の歯止め」や、全国規模での課題となっている「女性の活用」といった理由が挙げられる。しかし、それ以上に注目したいのが「子どもが主役になれるまち」という、横須賀市が目指す都市イメージの創造発信に関する取り組みを連動させている点である。

「子育て世代が安心して暮らせる街を実現することが、子どもたちがのびのびと暮らせる街づくりにつながる。そして母親の姿を見て、横須賀市で仕事をする魅力を知り、横須賀市の企業に就職する子どもたちが増えることが、横須賀市の力になる」(菊地専務理事兼事務局長)

子どもたちが就労する時期までを見据え、長期的な視点における活動の一つとして、この実証実験を位置づけているのだ。

既存のコミュニティーを活用し、支援する

もう一つ、今回の取り組みで興味深いのが、すでに活動実績があるコミュニティーを活用した募集形態としたことだ。実証実験ということもあり、その実験を実りあるものにするために、確実に参加者が集まる仕組みを選択している。

ここに参加したのが「お母さん大学横須賀支部」「お母さん大学」は、全国に展開しているコミュニティーで、2008年春のスタート以来、「子どもたちの未来を描き、笑顔で子育てができる社会を一緒に考える」ことを目的に、活発な情報交換や活動を行っている。

お母さん大学では「お母さん業界新聞」を地域ごとに発行しており、これからお母さんになる人や、子育て中のお母さんのほか、子育て卒業者や子育て応援者まで、幅広い参加者によって構成されている。

横須賀支部も、「お母さん業界新聞 横須賀版」を発行、地域の子育て世代を核としたコミュニティーを形成しているのが特徴だ。横須賀市内在住の、同じ価値観や課題意識を持った人たちが集まっていることは、今回の実証実験の対象としては最適なコミュニティーだと言えよう。

横須賀商工会議所では2015年9月、お母さん大学横須賀支部の会員を対象に、PCを活用した仕事ができるようにするためのスキルアップ支援セミナーを開催。8人の女性が参加して、実際にデータ入力やウェブを通じた開発支援などの仕事の様子を体験し、テレワークを活用した仕事を受注する仕組みなどを理解した。その後、第2回セミナーを11月に実施。このときには28人が参加したという。初めてテレワークを体験する人たちが、この実証実験に参加しやすい環境を作り出している。

さらに、この実証実験には見逃すことができない、もう一つの特徴的な点がある。

それは横須賀商工会議所がリアルな交流の場を提供することによって、郷土意識の醸成や地域交流、人的交流を含めた形で、実証実験を展開しているという点だ。

テレワークの仕事の場合は在宅勤務が中心となるが、それだけにとどまらず、定期的に「サロン」と呼ばれる場を用意し、月2回程度、参加者同士が交流できる環境を作り上げている。

前出の菊地専務理事兼事務局長は、「テレワークというと、個人で仕事を受注して、自宅で仕事をするといった、いわば“内職”のような形になりがちだが、今回の実証実験では参加者同士が集まって、仕事に関する情報交換だけに留まらず、子育て情報などを共有して、つながりを作ることも重視している。個人で仕事を受注するというよりも、チームで仕事を受注するというスタイルにこだわっている」とする。

チームとして情報交換をすることができるリアルなネットワークを活用してテレワークの輪を広げていくのは、横須賀市における実証実験ならではのユニークな取り組みだと言える。これによってテレワークに参加しやすい環境を構築するほか、仕事以外の情報交換も行ったり、コミュニティーに参加したりといった、子育て世代が求める価値の創出にもつなげていくというわけだ。

「テレワークはあくまでも手段。これを通じて仕事をすることも大切だが、楽しく仕事をしてもらったり、子育てに対して、新たな気づきを感じてもらうことが大切だと考えている」(菊地専務理事兼事務局長)

今回の横須賀・松本商工会議所地域連携モデルでは、その成果をもとに、商工会議所を中心に進めるテレワーク環境実現のためのパッケージプランとして、全国の商工会議所に普及展開し、テレワークの推進による新規事業創出を図る地方創生モデルの一つへと位置づけていく考えだ。

ここでは、横須賀商工会議所独自とも言える、サロンを活用したコミュニティー重視型モデルの成果も注目を集めることになりそうだ。

また、横須賀商工会議所では2016年3月以降、テレワークに参加する対象をお母さん大学横須賀支部の参加者以外にも拡大。同様にコミュニティーを重視した形で、テレワーク環境とクラウドソーシングなどの新しいツールや仕組みを用いた就労機会の創出につなげる考えだ。

そして、地域の人材流出や子育て世代の女性に対する就労機会の創出といった点に留まらず、子どものための街づくりを進める上での取り組みと位置づけている点も評価されることになりそうだ。

(本稿 執筆:大河原克行/インタビュー:伊嶋謙二)

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。