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特集

2015.12.28

首都近郊の都市で起こっている人口問題──横須賀市の例から

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 歴史 社会

全国で最も人口の減少している都市は横須賀市

神奈川県横須賀市の中心部である京浜急行線・横須賀中央駅を降りると、平日の日中にもかかわらず多くの人が街を歩いている。そして、駅前の街並みにも活気を感じる。この風景を見ると、いま横須賀市が抱えている問題を微塵も感じさせない。

横須賀市が抱える課題。それは、人口減少だ。

総務省が2014年1月に発表した「住民基本台帳人口移動報告」において、全国の自治体のなかで最も社会減が多かったのが横須賀市である。

横須賀市の人口は、1992年5月の43万7170人をピークに減少の一途をたどっており、2015年9月には40万4293人となっている。横浜市に次いで神奈川県2番目の市制施行地であるとともに、かつては人口数において横浜市、川崎市に次いで県内3番目の位置を担っていた時期もあったが、いまでは相模原市、藤沢市に抜かれ5番目の位置にある。

そして、この人口減少の流れには、今後も歯止めがかからないとの予測も出ている。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2020年には39万1523人に、そして2025年には37万3613人へと減少すると見られている。

さらに芳しくないことには、20歳代から40歳代、15歳未満の人口の割合が少ないという、人口構造のアンバランス感も課題だ。年少人口(0〜14歳)、生産年齢人口(15〜64歳)の構成比が減少し、老年人口(65歳以上)が増加するという姿が加速している。

いわば、日本全体が抱える人口減少、少子高齢化といった問題にいち早く直面している自治体が、横須賀市と言ってもいいだろう。

横須賀市にはいくつかの顔がある。1つ目は、軍港として栄えた歴史を背景にした顔だ。

江戸時代末期、開国にあわせて沿岸防備施設の建設が行われるとともに、フランス人技師レオンス・ヴェルニー氏を招いて建設した造船所の横須賀製鉄所により、横須賀市の軍港としての歴史は始まった。日本最大の軍港都市として発展を遂げた横須賀市には、現在でも4カ所3施設の米軍関係施設のほか、40の自衛隊関係施設がある。これらの施設を合わせると、市域の約6.4%を占める規模に達するという。

昨今では「横須賀海軍カレー」の効果もあって、軍港という顔は、より身近なものになっている。市外居住者からは「外国人と交流する機会がある街」としてのイメージが定着しているのも、軍港としての長年の歴史がもたらしたものだろう。

2つ目は、自然環境に恵まれた温暖な環境にあるという点だ。

横須賀市が実施したアンケートによると、「豊かな自然」、「温暖な気候」、「新鮮な地場産の食」が、横須賀市の魅力だという声があがっている。

横須賀市の中央を走る京浜急行線は、横須賀市に入ると急にトンネルが多くなる。丘陵部が多いことの証であるが、その一方で、市の三方が海に面しているという特徴も持つ。海や山の自然環境があり、これが横須賀市の魅力の一つとなっている。しかも、この環境が都市部から近い場所にある。

さて、横須賀市に居住していない人たちは、「職場から遠い、通勤が不便」という印象を持っている。調査でも42.5%の人がそう答えている。同様の回答を合わせると、約55%が「遠い」という印象を持っており、その比率は圧倒的だ。

だが、横須賀市に居住している人に聞くと、回答は逆になる。「大都市に近く、通勤、通学に便利である」と回答した市民は、実に43.7%に達する。

筆者も日常の仕事のなかで普段使いをしている京浜急行線だが、それでも横浜から先に足を延ばす機会は少なかった。だが、実際に横須賀市を訪れてみると、横浜から約25分で横須賀中央駅に到着。品川からでも45分という距離だ。この近さは意外だった。市民と居住者以外の認識にギャップが見られる部分とも言えよう。

そして3つ目の特徴が、先端研究都市であるという点だ。

NTT横須賀研究開発センターに隣接する形で、1997年に設立した横須賀リサーチパーク(YRP)は、電波・情報通信技術を中心としたICT技術に関する一大研究開発拠点であり、横須賀市だけでなく、日本を代表する研究開発拠点とも言える。国際的な電波・情報通信技術の発展を目指す公的研究機関や、国内外の企業の研究所および大学の研究室など、58機関が進出。基礎研究から最先端研究に至るまでの幅広い分野の研究開発活動が行われている。

これ以外にも、日産自動車をはじめとする大手企業が研究開発拠点を設置。横須賀地域の研究諸機関などの協力連携を促進するために横須賀地域研究機関等連絡協議会が存在するのもユニークな取り組みだ。最先端の研究が横須賀市で行われている。

いま、横須賀市は何をしようとしているか

田舎にある過疎地域に比べれば遥かに良い条件が整いつつも、「通勤に不便」と思われているがゆえに、人口減少の歯止めがきかない横須賀市。市では「横須賀市都市イメージ創造発信アクションプラン」を策定。市内外の結婚世代、子育て世代から「住むまち」として選ばれるための方針を掲げるとともに、それを実現するための具体策を示している。

ここで打ち出しているのが、「子どもが主役になれるまち」という都市イメージの創造発信だ。

市外居住者に便利な街とイメージされていない状況があるなかで、「子育て・教育環境」「不動産環境」の充実における施策を強化。2017年度までの第2次実施計画においては、小児医療費助成の拡充、待機児童ゼロを目標とした保育所定員確保、学童クラブへの助成支援、横須賀こども学力向上プロジェクトの推進、子供が楽しめる公園施設に向けた整備などに取り組んでいる。これによって、横須賀市の魅力を、子育て世代に発信していこうというわけだ。

こうした「子ども」を主役に据えた横須賀市が目指す方向にあわせて、官民学が連携した形で、様々な取り組みが始まっている。

例えば横須賀商工会議所では、よこすかキャリア教育推進事業として、「中学生“自分再発見”プロジェクト」をスタートしている。

一般的に商工会議所は地域の総合経済団体としての役割を担うための各種活動が中心だ。中学生を対象にした活動には違和感があるとも言える。

だが、横須賀商工会議所の菊地匡文専務理事兼事務局長は、次のように語る。

横須賀商工会議所の菊地匡文専務理事兼事務局長

「横須賀市に住む子供たちが、横須賀市には働く企業がないというイメージを持っている。中学2年生を対象に実施する『中学生“自分再発見”プロジェクト』では、横須賀市の企業を訪問したり、実際に働いている人の話を聞いたりすることで、働くことに対する意識を高め、横須賀市にも魅力的な企業が数多くあることを理解してもらうことを狙っている。横須賀市の企業には大きなポテンシャルがある。長い年月をかけたプロジェクトだが、こうした取り組みの一つひとつが、子どもたちが横須賀市に居住し続け、若い世代の定着や子育て世代の人口を増やすことにつながる」

2008年度から始まった同プロジェクトは、「よこすかで働く大人は、みんな子どもたちの先生」をスローガンに、横須賀市および横須賀市教育委員会と連携。地域で働く大人が子どもたちの教育にかかわることにより、「職業に対する興味」や「働くことの意味」を考えてもらうとともに、横須賀の未来を担う産業人を育成し、将来の横須賀を活性化させる狙いがある。

約400社の地元企業の協力を得て、地元で働く大人を「MTT(マイ・タウン・ティーチャー)」と呼び、子どもたちと直接対話を行うことで、子どもだけでなく、大人自身も「働くこと」に改めて向き合うきっかけをつくることができるという。

すでに市内にある23校の全中学校で実施。第1期生ともなる2008年度の同プロジェクトに参加した生徒のなかには、横須賀市の企業に就職した例も出ているという。企業を巻き込んだ子育て環境の実現は、まさに商工会議所ならではの取り組みだと言える。

「8年を経過して、横須賀市内の企業に就職した事例が出たことで、この長年のプロジェクトが成功したと言える段階に到達した」と菊地専務理事は手応えを示す。

そして、こうした様々な取り組みのなかで、横須賀商工会議所が新たに挑んでいるのが、総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」における「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」である(プレスリリース「総務省事業、横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの採択のお知らせ」)。

次回、横須賀市における同実証事業への取り組みを紹介する。

(本稿 執筆:大河原克行/インタビュー:伊嶋謙二)

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。