• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

特集

2015.12.11

テレワークは地方の人口を支えてゆくか──松本市の例から

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 IT 制度

テレワークが地方にまく種

総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」に採択された「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」(プレスリリース「総務省事業、横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの採択のお知らせ」)は、サテライトオフィスや自宅でのテレワークの推進によって、新たな事業を創出する地方創生モデルを確立し、これを全国の商工会議所に普及・展開することを狙うものだ。

松本市における取り組みでは、会計・給与・販売仕入管理などの統合業務システムサービスをクラウドで提供するスマイルワークス(本社 東京/坂本恒之社長)が、2016年2月末までの実証実験期間中、松本市内にサテライトオフィスを開設。本社から社員を移住させるとともに、業務管理のクラウドソーシングシステムを開発し、地元のテレワーカーに向けて、伝票入力などの会計業務やマイナンバーの確認業務を、クラウドベースで行う仕事を提供することになる。

また、富士通の100%子会社であり、民需市場向けのICT機器販社として展開する富士通マーケティング(本社 東京/生貝健二社長)が、首都圏で受託したクラウド開発案件を、松本市に在住するSE経験者に発注。テレワークによって開発する新たな仕事のスタイルを創出する実証実験を行う。

こうした動きに対して、松本商工会議所が移住者のために生活直結サービスのシステム構築を行いながら、移住者をサポートする。

松本商工会議所 情報事業部長の米窪英人理事は、「雇用創出のアイデアはあっても、それをどう具体化していくのかという点で頭を悩ませていた。今回の横須賀・松本商工会議所地域連携モデルは、その点でも良いきっかけになった」と語る。

松本商工会議所 情報事業部長の米窪英人理事

テレワークの特徴は、インターネットとそれに接続されたデバイスがあれば、いつでもどこでも働ける環境が整うという点だ。首都圏では、通勤をせずに仕事を行うことができる在宅勤務を導入することで、時間を有効に活用し、介護や育児のために出社時間が限られる社員の雇用を維持するための仕組みとしてもクローズアップされている。また、非常時におけるBCP(事業継続計画)の一環として、テレワークを取り入れる企業もある。だが、今回の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」における横須賀・松本商工会議所地域連携モデルのように、地方の優秀な人材を確保するという手段においてもテレワークは効果を発揮する。今回の取り組みが注目を集める理由はそこにある。

実証実験への反応は、当初の予想を大きく上回るものとなった。

例えばスマイルワークスの場合、簿記2級の資格を持ち、会計事務所に勤務経験のある者を募集。富士通マーケティングのテレワークにおいても、前提はSEとしての経験者が対象。2015年10月19日に行われた説明会には34人が参加した。当初以上の反応に、松本商工会議所の米窪理事はうれしい悲鳴をあげる。資格条件のハードルが高いだけに、5人程度が集まれば良いのではないかと想定していたのだが、それを遥かに超える反応だった。

スマイルワークスでは募集枠を当初の3人から6人へと倍増。富士通マーケティングでも2人の採用枠を4人に広げることになった。

米窪理事は、「募集期間中には電話による問い合わせも数多くもらった。実際に話をしてみると、この制度に期待する真剣な声が数多く聞かれた」と語る一方、「地元に多くの優秀な人材がいること、そうした人たちが働く場を求めていることが、今回の実証事業によって浮き彫りになったとも言える。まだまだやるべきことが多いという反省とともに、テレワークなどの新たなツールを活用した雇用機会創出の可能性を感じた」と語る。

松本市内には、都心の企業で勤務していたものの、結婚を機に夫の勤務先の関係で転居したり、親の介護のために戻ってきたりという人たちも少なくないようだ。

今回の実証実験の応募でもそうした人たちの姿が見られたという。

「親の介護などを理由に松本市に戻ってきた人たちの就労機会を確保するとともに、過ごしやすく、子育て環境にも適している松本市に移住してもらうため、あるいは学校を卒業した優秀な人材を地元に留めておくためにも、テレワークの活用は有効だと考えている」と松本市商工観光部商工課・柏澤由紀一課長も異口同音に語る。

松本市や松本商工会議所にとっても今回の実証実験の取り組みは、新たな気づきを得るきっかけになったのは間違いないようだ。

テレワークの利用は広がるか

だが、その一方で課題も浮き彫りになっている。

一つは、テレワークを活用した勤務体系がまだ一般的ではないこともあり、松本市内の地元企業や、首都圏から進出している企業においても、この仕組みを採用するケースがまだ少ないという点だ。

今回の実証実験の状況を見ても、採用人数を急きょ増員したとはいえ、応募人員の3分の1の人を雇用できたに留まった。働きたい人に対して、雇用する側の数が少ないというのが実態だ。

松本商工会議所の米窪理事は私見としながらも、「松本市でテレワークやサテライトオフィスを行うために進出する企業に対して助成金制度などを用意することで、拠点進出や仕事の創出を支援するといった仕組みも必要ではないか」と指摘する。

生活しやすい松本市の環境を生かす一方で、テレワークやサテライトオフィスの活用を視野に入れた、企業が進出しやすい環境をつくることがこれからの課題といえそうだ。

もう一つは、現状のテレワークによる業務だけでは生計が成り立ちにくいという点だ。今回の実証実験でも、伝票入力などの会計業務から得られる賃金は、月数万円程度になりそうだという。首都圏に比べて物価が安い地方都市とはいえ、これでは生計が成り立たない。生活費の補助的な意味合いか、あるいはほかに仕事を探す必要がある。介護や育児の関係で自宅にいなくてはならない環境の人たちにとっては、すべてをテレワークによって賄うことが難しいのが実態だ。

横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの代表団体を務めるノークリサーチの伊嶋謙二社長は、「松本市内に雇用の受け皿が非常に少ないことが若者の流出につながったり、子育てや介護のために戻ってきた人たちの雇用機会がなかったりといったことにつながっている。課題を認識するとともに、2016年2月の実証実験終了後に、この成果をどう生かしていくのかといった点も、今後は重要になってくるだろう」と語る。

いくつかの課題を認識しながらも、その可能性に手応えを得ることができた今回の実証実験は、松本市の地元雇用の創出において新たな動きを促すものになりそうだ。

(本稿 執筆:大河原克行/インタビュー:伊嶋謙二)

併せて読みたい、編集部からのおすすめ記事
地方都市の未来を創る手立ては何か──松本市の例から

あずさ号が新宿駅を出て、約2時間30分。信州の山々を見ながらの車窓を十分に楽しんだところで、列車は松本駅に到着する。「新幹線があれば……」と思うこともあるが、それは短時間での移動を求める場合の考え方。発想を変えて、信州の山々の風景を楽しもうとすれば、この2時間30分は苦痛にはならない。

プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。