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特集

2015.12.10

地方都市の未来を創る手立ては何か──松本市の例から

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 歴史 社会

産業・文化・観光と格段の好材料を揃えた松本

あずさ号が新宿駅を出て、約2時間30分。信州の山々を見ながらの車窓を十分に楽しんだところで、列車は松本駅に到着する。

2時間30分の国内移動は、東京人からしてみれば「遠い」場所だ。鹿児島でさえ、飛行機を使えば2時間で到着する。「新幹線があれば……」と思うこともあるが、それは短時間での移動を求める場合の考え方。発想を変えて、信州の山々の風景を楽しもうとすれば、この2時間30分は苦痛にはならない。むしろ、楽しい時間の過ごし方ができる。

本州および長野県のほぼ中央に位置する松本市の人口は24万2000人。長野県の県庁所在地である長野市とともに、同県を代表する自治体である。

わが国では、国鉄時代から継承されるJRの路線図を見れば、かつての「国」の成り立ちがわかるとも言われるが、松本市と長野市の関係はその典型的な例である。東京からのアクセス方法は、松本市が新宿からであるのに対して、長野市は上野が起点。その生い立ちが大きく異なることが直感的に理解できる。

松本市は、平安時代に信濃国府が置かれ、江戸時代には松本藩の城下町として栄えた場所だ。明治時代には製糸業を中心とした近代産業が栄え、第二次世界大戦中は工場疎開で多くの製造業が松本に進出。1964年には内陸部で唯一、新産業都市に指定されたことをきっかけに、電気、機械、食料品などの企業が、この街で成長を遂げた。「商都・松本」と称される。大正時代には日本銀行松本支店が開業しており、こうした経緯からも松本市が長野県内の経済・金融の中心地であることは多くの人が認めるところだろう。

そして、教育や芸術、文化の街であることも松本市の特徴だ。

明治時代には、開智学校が開校。大正時代には全国9番目の官立旧制高等学校として、松本高等学校を招致。1949年には、松本高等学校を母体の一つとした信州大学が設立された。一方で松本市では、松本音楽院によりスタートした音楽を学ぶための独自の教育法であるスズキ・メソードが生まれたほか、1992年からは小澤征爾氏が総監督を務める「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(旧 サイトウ・キネン・フェスティバル松本)」を毎年開催。音楽にあふれる街づくりが進められている。さらに、2002年には松本市美術館の開館、2004年にはまつもと市民芸術館がオープンするなど、芸術・文化が広く息づいている街でもある。

松本市では、古くから学問を学ぶ環境が整っている「学都」、日本アルプスを擁する広大な山岳風景の「岳都」、そして、音楽を楽しむことができる「樂都」という、3つの“がくと”から「三がく都 まつもと」といった表現も行っている。芸術・文化が根づく松本市の特徴を表した表現の一つと言えよう。

加えて、松本駅からも見える松本城の雄姿は、松本市を語る上で欠かせないものの一つである。

ここ数年、松本市を訪れる海外観光客も増加。2014年度には7万5000人の外国人観光客が訪れており、これは2012年度に比べて2倍以上の数となっている。松本市商工観光部商工課・柏澤由紀一課長は、「近年では飛騨高山や金沢に移動するためのルートの一つとして、あるいは地獄谷野猿公苑など、外国人に人気のスポットの拠点として多くの旅行客が訪れている。2015年度には、白馬を抜いて長野県で最も外国人観光客が多い場所になるだろう」と胸を張る。このように、松本市は観光資源にも恵まれた街だと言える。

松本市商工観光部商工課・柏澤由紀一課長

松本市では、松本市公式観光情報ポータルサイト「新まつもと物語」を公開。市民記者が松本市の醍醐味を紹介するほか、松本市商工観光部が、海外メディアに対しても積極的な情報発信を行い、松本市に興味を持ってもらうための地道な活動を行っていることも、観光客の増加に貢献しているようだ。

それでも松本は“地方都市”にすぎない

これだけの好条件が整っているにもかかわらず、日本全体が少子高齢化という課題を抱えるなか、地方都市である松本市が置かれた立場は、多くの地方都市と同じだ。

松本市総合計画における将来人口推計では、2020年の松本市の人口は23万3000人と、約1万人の人口減少が予想されている。また2005年の調査では、全人口に占める65歳以上の人口比率は21.2%となり、全国平均値の20.2%より若干高い状況にある。

そして学都と呼ばれる松本市ではあるものの、22〜25歳の就職人口は減少しているという実態も浮き彫りになる。松本市内への就職先がなく、首都圏で就職してしまう若年層が多いことが原因だ。

恵まれた環境にある松本市ではあるが、少子高齢化が及ぼす影響がジワリと表面化しつつあるというわけだ。

そうしたなか松本市では、商工会議所を巻き込んだ形で数々の支援策を用意。その成果が少しずつ出ているところだ。

例えば、2007年度から開始したIターン・Uターン支援制度では、入居可能な公営住宅を用意。「2014年度までの8年間で、92世帯199人が定住した。そのうち、30代が35%、40代が16%を占めた。半分以上が40代以下という若い世代の移住が増加している」(松本市の柏澤課長)と、その成果に自信をみせる。

教育、芸術、文化に恵まれた街であることに加えて、女性の就労率が全国4位という女性が働きやすい環境にあることも、若い世代の移住に成功した要因の一つと言えそうだ。「松本市では、子育て支援制度の充実に力を注いでいる。保育所の待機児童がゼロということも、子育てをしやすく、女性が働きやすい環境を実現することにつながっている」(松本市の柏澤課長)

そして、さらに松本市が新たな取り組みの一つとして開始したのが、総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」において採択された「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」である(プレスリリース「総務省事業、横須賀・松本商工会議所地域連携モデルの採択のお知らせ」)。

これは全国15の団体で採択された実証事業の一つであり、2015年9月〜2016年2月までの6カ月間にわたり、サテライトオフィスを活用したテレワークを推進。新規事業創出を図る地域創生モデルとして、全国の商工会議所に普及展開することを狙っている。

「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」の代表団体を務めるノークリサーチの伊嶋謙二社長は、「テレワーク環境とクラウドソーシングなどの新しいツール、仕組みを用いて、地方における仕事を創出。地域の人材の流出を防ぐとともに、首都圏などからの人材を得て、地方創生につながることを目指している」と語る。

松本市商工会議所情報事業部長の米窪英人理事も、「松本市が持つ魅力を生かして、新たな仕事の創出と、雇用の拡大、そして、移住してもらえるきっかけになることを期待している」と異口同音に語る。

次回、松本市における「横須賀・松本商工会議所地域連携モデル」の具体的な取り組みを追ってみる。

(本稿 執筆:大河原克行/インタビュー:伊嶋謙二)

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連載のこのシリーズでは、地方創生という大義を実現するための第一歩として、実証地域となっている松本市と横須賀市を通し、地方の今まで、そして地方のこれからを伝えていきたい。

プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。