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特集

2016.11.08

「小さな国際都市」を目指す仙北市──若者が達成する未来(前編)

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 文化 成長戦略

田沢湖駅って、仙北市にあるんですよ

仙北市と聞いて、すぐにどこにあるかを理解する人は少ない。ここから始めよう。筆者は秋田県生まれであるが、恥ずかしながら今回の一連の取材で明確に理解した。角館、田沢湖があるのが仙北市だということを。仙北市役所は、秋田新幹線田沢湖駅から徒歩10分のところにある。

仙北市役所庁舎
仙北市役所庁舎

この田沢湖駅で降りると、駅舎に観光地らしいジオラマや観光案内などがあるが、それよりも目立つのが「アイリスミュージアム」(2011年12月にオープン)である。

田沢湖駅アイリスミュージアム
田沢湖駅アイリスミュージアム

アイリスとは、数年前に話題となったイ・ビョンホン主演の韓流ドラマ「アイリス」のことで、そのロケ地となったのが秋田県。なかでも田沢湖が視聴者の印象に残り、多くの韓国人観光客が田沢湖に訪れた。それを記念して、アイリスミュージアムが今も駅舎の2Fに年中無休の常設スペースとして営業されている。

このような仙北市の玄関口から、もう仙北市が現在置かれている状況が察せられる。韓流ブームのような一過性の動きだけに頼っていたわけではないだろうが、市の表玄関に他国メディアのスペースが大きく割かれているというあたりに、状況が表れていると言えるだろう。

無くなりつつある地方都市では、本質的な経済の巻き返しや地元の人の流出を防ぐような、より根治的な施策を打つ必要があるはずだ。今回はその秘策を打ち出した仙北市長にインタビューしてきた。わらび座の記事で「文化を産業(お金)にする」と言った当人である。

スローガンは「小さな国際文化都市」〜市民が創る誇りあるまち

仙北市は2006年に田沢湖町、角館町、西木村の2町1村が合併して、約3万2000人の人口でスタートしたが、現在は約2万7000人となっている。仙北市だけが人口減少しているわけではないが、仙北市としては減少をこのまま座視できない状況だ。産業としては、林業やその加工品などの産業と観光を中心とするサービス業が主体で、製造業の割合が低い。

仙北市を俯瞰した地図(仙北市公式ホームページから)
仙北市を俯瞰した地図(仙北市公式ホームページから)

仙北市を特徴付けるものは自然環境と文化である。自然環境では、田沢湖や秋田駒ヶ岳を中心とする観光地と上質な温泉として世界的に著名な乳頭温泉、玉川温泉などを持ち、全国各地はもちろん海外からの観光客も少なくない。

また、民族文化である民謡の宝庫ともなっている。もともと農作業や林業の働くなかで生まれたのが民謡であり、秋田県の全民謡の6割以上が仙北市から生まれたと言われる。前回取り上げたわらび座が劇団の活動とともに民族芸能の保存と整理活動を行っているのも、仙北市がそのルーツとなっているからだ。歴史的にも佐竹藩の城下町として、特に角館は武家屋敷が有名で、深い歴史を持ち、全国的にも広く知られている。

このように、極めて優れた付加価値としての文化、歴史財産を有していることが分かる。歴史、文化、自然を併せ持つ自治体が仙北市なのだ。しかし、そのアドバンテージとしてのツールをうまく使えていない。

門脇市長
門脇市長

「先人の残した遺産を我々は食い潰しているのです。これからの世代のために、現在の世代である我々が引き継いで、新たなステージとして展開していかなくてはなりません。これは、仙北市としての責任です」(仙北市長 門脇光浩氏)

言い換えると「商売が下手だ」ということなのだ。自然、文化などをうまくアピールすれば、既存の産業をさらに拡大する方法はあるという。

その中身については後編で記すが、実は近未来技術実証特区としてドローンを活用した産業を創造することで、既存産業に新たな産業を重ねて展開する「重層的な戦略」を打ち出している。

日本の人口が減っているなら、海外から観光客を増やすしかない

仙北市は、北東北の観光拠点都市と言われているが、実際、仙北市の財政的な基盤は観光業・サービス業である。しかし、日本の人口が減少しているなかで、国内からの観光客だけを対象にしていけば漸減していくことは明らかであり、海外からのインバウンドを獲得することは極めて重要である。田沢湖駅に設置してあるアイリスミュージアムも海外からの観光客を集めるための仕掛けではあるが、賞味期限もあり(韓流ブーム)、変わりゆく時代を反映した様々な感性で外部に働きかける必要がある。

仙北市を訪れる観光客は2015年で514万人となっており、県内では秋田市に次ぐ観光客の多さだ。ただし、そのうち宿泊客は2015年で53万人と、訪れる観光客の1割程度に過ぎない。一方、海外からの宿泊者は秋田県全体で4.7万人、仙北市は約2万人と少ない。国内の観光客の減少は、ある程度仕方ないにしても、海外からの観光客をもっと増やすことは重要だと考えられている。

そのため2015年には、訪日外国人旅行者や国内観光客の利便性向上と、来訪者への観光情報発信を目的に、仙北市「Senboku City Wi-Fi」事業に取り組み、2015年12月中旬より市内観光施設70カ所において本格運用を開始している。

持っているツールをうまく活かすことが仙北の課題

風光明媚で山に囲まれたこの地区の目玉は、田沢湖や角館を代表とする自然環境や町並みを中心に据えた観光産業であることは誰の目にもあきらかだ。

「地方の問題は仙北市だけではなく、秋田県全域として考えるべきです。つまり個別の自治体だけではなく、県内の他の自治体、男鹿市や大仙市、大館市などとともに“オール秋田県”の視点が重要です。つまり、外部から秋田県に人や企業を呼び込むことを連携しながら行うことが肝要です。その意味で、仙北市が進めている取り組みが、県内の他の地域へ展開できるようなモデルになれば良いし、仙北市も他の自治体の良さを積極的に吸収しています」(仙北市長)

仙北市は観光地や資源など、アピールできる要素は一級品であるのに、うまく展開できていない。それは商売下手なのもあるが、より問題なのは展開するための人材が欠けているからとも言える。要するに、「持っている人」のほかに「展開する人」が必要なのだ。観光資源などを持っているのはシニアの人たちだが、それを引き渡す相手が不足している。若い人たちに渡すことが不可欠と見ているが、その若い人たちが特に不足していることが課題なのである。

前編は既存の産業を中心とした現状と課題を踏まえて書いたが、後編では、この課題に立ち向かうべく新たに仙北市が踏み出した、最先端技術をベースとした新規産業創出の事業について述べる。

文:創生する未来事業 事務局 代表 伊嶋謙二

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全国で数多くの自治体が消滅の可能性を指摘される中、秋田県はその代表格として知られる。秋田は、資源や産業や文化などの面を見れば、むしろ潜在的には豊かといえる。なぜ、それらをうまく生かした展開ができないのか? そんな秋田県に、注目すべき活動を行っている劇団がある。

プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。