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特集

2016.10.11

「わらび座」が、地元秋田の救世主になる日(後編)

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 文化 成長戦略

事業多角化で存続の危機を脱した「わらび座モデル」

設立当初のわらび座は芸術活動に純粋なあまり、団員(社員)の経済面・生活面など、そして企業体としての安定的な均衡を欠いており、そのため一時期は倒産の危機にまで陥った。

その状態を立て直すために行ったことは、収益を安定させるための事業多角化だ。劇団わらび座の公演と施設をソフトとハードの「目玉商品」として置き、その周囲に関連事業をどのように展開するかを構築し直した。これにより、わらび座の“3つの顔”が誕生をみることになった。まずは劇団活動の見直し、観光事業への着手、そして地ビールの生産、農業事業などへの展開である。

それは1975年、宿泊施設の完成から始まる。その後、専用劇場で常設公演を行い、そして利用客には宿泊施設「ゆぽぽ」に泊まってもらうという滞在型リゾートを目指した。ここでは食事もできるし、買い物もできる。つまり総合レジャー施設「たざわこ芸術村」(現在は「あきた芸術村」)として思い切って舵を切った。そして、そのことが奏功した。現在では年間20万人の利用客がある。かねてから試掘などで温泉が出ることは分かっていたが、1992年についに温泉を掘り当て、めでたくわらび座の敷地内に温泉施設も出来上がった。

多角化の先陣を切ったこのような観光事業は、今ではわらび座の売り上げの半分を占めるほどになっている。施設としては、あきた芸術村内の温泉ゆぽぽを手始めに、男鹿桜島リゾート HOTELきららか(2004年)、川口温泉奥羽山荘(2008年)、加えて奥羽山荘離れあか松庵田沢湖高原温泉ゆぽぽ山荘も系列宿泊施設として有している。特に秋田県内に、山(田沢湖高原)と海(男鹿半島)の両方の観光事業を展開しているのが特徴といえる。

田沢湖ビールとして評判の良い地ビールは1997年に始めた。そのきっかけは、工場長の小松勝久氏(写真)が自分で作る料理に合ったビールを欲しがったことだ。ただし当初は知名度が低く、販売は苦戦した。その後、2006年のインターナショナル・ビアコンペティションにて「ケルシュ」が金賞受賞、ジャパン・ビア・カップ2006で「アルト」が金賞受賞したのを転機に、知名度は一挙に向上した。料理に合うビール作りから始めた事業だったが、こだわりの味を追求することで実力を付けてブランド価値も高まったという、わらび座らしいエピソードである。

ビール生産の責任者 小松勝久氏
ビール生産の責任者 小松勝久氏

わらび座の観光事業として象徴的な施設「あきた芸術村」は、温泉のみの利用という地元客も多いが、やはり旅行(宿泊)を通じて公演を目当てとする訪問客が多い。あきた芸術村には劇場がある、演劇がある、役者もいる、温泉も、宿泊もできる。地ビールやおいしい料理も堪能できる。この体験からリピーターを呼ぶという戦略だ。

また、最近始めた事業として面白いのが、舞台役者による演技や稽古の手法を取り入れて、コミュニケーション能力のトレーニングを学生や社会人に対して行う教育・研修事業だ。演劇の舞台役者のノウハウを一般の人にも役立たせる。仙北市役所の職員の研修もここで行われた実績がある。役者が現場へ出向いて実施する場合もあれば、宿泊する合宿研修の形でも実施できる。役者のスキルが活かせる、わらび座ならではの事例だ。

唯一無二の地方定住劇団

わらび座ほどの規模で、地方に根差して成功している劇団はない。そして劇団であり企業でもあるわらび座を働き場所として、この地、仙北市に若者が目指して来ることになれば、文字通りの地域創生につながるはずだ。事実、県外からの団員が圧倒的に多い。

前回登場した、わらび座の執行役員で公演営業部部長・小澤威氏は「芸術活動、文化産業は地域に必要なもの。それがあるから地域が元気になるもの。わらび座はそういった存在になりたいし、そうならないと存在価値を失ってしまうと考えています」と語っていた。この思いに触発されて入社する団員、社員は全国から集まる。

一方、お客である来場者は修学旅行の学校や県外観光客だけではなく、県内の人も非常に多い。そもそも公演内容は、秋田県内をテーマにしたものも多い。秋田弁で、秋田ゆかりの内容をテーマにし、その内容にかかわりのある団体に営業を行っている。

普段は演劇などあまり見ない人に対して、演目のかかわりで営業して劇場へ誘引する。あきた芸術村は確かに温泉施設やレストラン・地ビールなど、一般の宿泊利用でも十分に楽しめる施設だが、それは副次的な価値である。仙北市には田沢湖、角館、乳頭温泉などがあって、宿泊施設自体は他にも多くある。だから、単なる宿泊施設としては差別化しにくいが、わらび座には舞台芸術で呼べる強みがあるのだ。

あきた芸術村 全景
あきた芸術村 全景

秋田の活性化の旗手と目されている中での、今後の展望

現在の課題は、県外からの利用者を増やすことにある。秋田は交通の便が良くないために、バスなどを使って団体客を集めるのが一つの方法だ。わらび座では旅行業の資格も取得して、ツアー企画含めて県外への営業展開を図っている。

さらに言うなら、海外からのインバウンドの拡充がある。まだ海外利用客は数%でしかない。そのため秋田県と仙北市は協力してインバウンドの増加を図る施策を進めており、わらび座としては、演劇というソフトとあきた芸術村という宿泊施設のハードで、この流れに乗りたいと考えている。

地域密着の活動を行っているわらび座は、仙北市など自治体の経済活性化、地域創生の取り組みを重要な課題として位置付けている。地域自治体と一体となって貢献する責務を感じているのは確かだろう。

地域にとって活性化の起爆剤となり得るのは、地域に根差しながら周りの企業と人を巻き込んでいける、求心力を持った存在が1社でもあるかどうかである。机上で考える地域創生プランが突破できにくいのは、具体的なコアが不在だからだ。

仙北市、そして秋田県にとって、芸術・文化的な企業として全国から集客できて、ブランド力があり、若者の働き手を秋田に呼べることができるわらび座は、まさに救世主として期待されている。地域活性化に必要とされることは、直接的な経済効果だけでなく、地元を盛り上げ、元気づけることだ。わらび座が目指したことは、創設当時の思いそのままに、今後も生き続けていくといえよう。

文:創生する未来事業 事務局 代表 伊嶋謙二

文化を産業(お金)にする。

こう言えば少し荒い印象の言葉だが、わらび座をイチオシしている自治体・仙北市の門脇市長は強く語る。

仙北市長 門脇光浩氏

「角館にあるわらび座は、舞台芸術活動をもとに、今では複合化した大きな産業まで昇華させている企業として、仙北市の施政の手本として見習っています。

仙北市は田沢湖、角館の観光資源が強みで、国内だけでなく、海外からも多くの観光客が訪れます。その観光と合わせ、文化産業としてのわらび座の実績と貢献を、国際化・インバウンドで観光客を呼び込む力として、大いに期待しています。

文化産業として企業を発展させているわらび座は、全国でも稀有な存在です。地域創生には文化の力が必要であり、文化・芸術を産業として発展・拡大しているわらび座は、まさに身近にあるもっとも頼りになる手本であり、リーダー企業とも言えます。その意味で本年、仙北市とわらび座が包括連携協定を締結しているのは、その証左なんです」(仙北市長 門脇光浩氏)

仙北市では、わらび座のもつ文化的な産業・観光事業などの強みを、県外や海外からも人を呼び込む、地域活性化のためのパートナーとして認めたということになる。わらび座は仙北市だけでなく、秋田県や秋田市とも劇団活動を中心とした連携を深めている。このように秋田県にとってのわらび座は、地域創生の大きなエンジンとして大きな期待を担っているのだ。

「わらび座と仙北市との包括連携協定」
仙北市とわらび座は2016年3月に「包括連携協定」として、門脇光浩仙北市長と小島克昭わらび座代表取締役会長とで協定書に調印した。内容は「小さな国際文化都市〜市民が創る誇りある町」の実現に向けて双方が寄与することを目的とし、仙北市の文化振興、国際交流、移住定住、観光振興、健康増進、災害対策などで連携協力するものだ。

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。