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特集

2016.10.06

「わらび座」が、地元秋田の救世主になる日(前編)

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 文化 社会

全国で数多くの自治体が消滅の可能性を指摘される中、秋田県はその代表格として知られる。秋田は、資源や産業や文化などの面を見れば、むしろ潜在的には豊かといえる。なぜ、それらをうまく生かした展開ができないのか?

そんな秋田県に、注目すべき活動を行っている劇団がある。風光明媚な仙北市に拠点を置く、地元に根差した地域発の劇団「株式会社わらび座(以下、わらび座)」だ。わらび座は現在、全国そして国際的にも評価されている。文化芸術活動に加え、農業や食品加工、観光業、教育事業などの多角的な経営を図り、大きな事業体としての実績も注目されている。

そして、これを地域創生というキーワードで捉えると、秋田県ではわらび座のような文化産業をもって、秋田を盛り上げるための起爆剤にしよう、との期待が高まっている図が見えてくる。今回は、そんなわらび座を取り上げた。

わらび座 企業概要

株式会社わらび座

本社所在地:〒014-1192 秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430
設立:   1971年3月22日(劇団創業は1951年)
代表者:  代表取締役社長 山川龍巳

売上:   21億円(2015年度)
内訳:   劇団収入30%、観光事業(ホテル、レストラン)50%、農業・教育・ビール生産ほか20%
従業員:  240名 資本金:4900万円
企業理念: 衆人愛敬(しゅにんあいぎょう)「私たちは心を育てるビジネスを通して広く社会に貢献します」

事業内容
1. 興行 わらび劇場、国内海外での公演を年間約1,200ステージ実績
2. 「あきた芸術村」の企画運営
3. 男鹿国定公園 男鹿桜島リゾート「HOTELきららか」の運営
4. 真木真昼県立自然公園 川口温泉「奥羽山荘」及び「太田ふれあいの里」「モリボの里」の運営
5. 秋田駅ビルトピコ内「えきのビアバルMANMA」の運営
6. 提携劇場「坊っちゃん劇場」(愛媛県東温市)への作品制作協力

わらび座

日本発のオリジナルミュージカルを全国で年間1000回も行う、孤高の劇団

今回の取材日、わらび座劇場では「ハルらんらん♪」が公演中だった。秋田県初の女性衆議院議員・和崎ハルの生涯を描いたミュージカルだ。舞台すべてが秋田弁で演じられている。この地で2016年4月から来年の1月までの長期公演だ。

まずもって不思議なのは、なぜ秋田県の仙北市に、宝塚歌劇団、劇団四季に次ぐとまで言われるわらび座があるのか。まず、そこから説明しよう。

わらび座は、創業者である原太郎氏が、1951年に戦後の日本を元気にすることを掲げて、東京で旗揚げしたものである。戦後、多くの人が人間らしくなるためには、文化・芸術が必要と考えたのだ。1953年、劇団は地方への移転を計画し、いくつかの地域を回ったのち、地域芸能の宝庫と言われる秋田県仙北市に落ち着いた。秋田を候補に選んだのは原氏の支援者がいたことも背景にある。そして旅回りの巡業をしているだけではなく、劇団の創造拠点が必要と考え、専用の劇場も持った。

当初、劇団の公演スタイルは旅回りの巡業が中心だったが、現在は地元仙北市のあきた芸術村専用劇場で定期的な公演も行う。同時に、3つの班を組んで全国巡業を行う。その数、年間1000回に及ぶ。ほとんどが日本の人物・文化を題材にしたオリジナルミュージカル仕立てという変わり種の劇団である。公演内容は別途ウェブサイトで確認されたい。

「ハルらんらん♪」の舞台
「ハルらんらん♪」の舞台

得体の知れない「よそ者」の集まりがわらび座だった

仙北の地に移転した当初、わらび座は、東京からやってきた得体の知れない若者集団であった。地元では、わらび座はよそ者であり、独自のコミューンを形成しており、必ずしも歓迎された存在ではなかった。当時、子供が聞き分けが無いことを言えば、親が「おめ、わらび座さ、やってしまうど」とまで言っていたという(ほとんど、なまはげの脅しと一緒)。

わらび座は都会から来た、芝居のような地に足の着かないことをしている集団で、ある意味、地元住民とは一線を画したような存在であったし、つまりはネガティブな存在と見られていたわけだ。そんな初期の苦労を経て、実際に地元の劇団として認知・定着したのは、1953年の入植以来、約30年も過ぎてからだ。

劇団をルーツに、3つの顔を持つわらび座

わらび座の執行役員で公演営業部部長・小澤威氏は、営業先でわらび座を紹介する際、劇団という説明だけでなく、相手によって3つの企業ペルソナを言い換えて使うということだ。

「営業的な面でわらび座を説明するときには、まずは劇団としてのわらび座。そして企業体としての株式会社わらび座。最後に総合レジャー施設としてのあきた芸術村わらび座。この3つを使い分けています」(小澤氏)

あとで触れるが、わらび座が劇団だけでなく、事業を多角化するに至ったことで、同社は芸術・文化的な側面だけでなく、地域経済に大きな影響を与える存在になっている。

わらび座の上記の3つのペルソナにはそれぞれ微妙な違いはあるが、「秋田県仙北市にある」「地元の言葉で語る」「歌う劇団活動」ということがすべての根底にある。劇団のモットーは「舞台が、芸術が人を元気にする、地域を元気にする」。企業理念は「衆人愛敬(しゅにんあいぎょう) 私たちは心を育てるビジネスを通して広く社会に貢献します」である。

株式会社わらび座 執行役員/公演営業部部長 小澤威氏
株式会社わらび座 執行役員/公演営業部部長 小澤威氏

小澤氏の略歴:1978年7月22日生まれ。北海道江別市出身。中央大学文学部卒。2002年4月に株式会社わらび座に入社。全国公演営業部北海道事務所長、九州事務所長を経て、2010年8月にわらび劇場支配人/本社営業部部長、2016年1月より執行役員/公演営業部部長。

人間を元気にすることが、わらび座の使命

「人間が、人間らしく生きて行くために、演劇はなくてはならないと思っています。そのためには、より多くのお客さんとの接点を増やさなければなりません。地元に劇場を作るだけでなく、全国を巡業するのもそのためです。人が元気になれば、世の中も元気になる。そして地域が元気になる。輝いている人は元気だし、そういう人は発信力もありイノベーションを起こす。この連鎖を目標に、わらび座の事業を展開することが使命だと感じています」(小澤氏)

これが、わらび座の根底にある考え方、また存在意義だといえる。つまり、地元の人に芸術を通じて元気になってもらうこと。地元の言葉で、地元に発信する。地元の人に地元の良さを理解してもらう。これがわらび座の優先的な使命でもある。そこから全国へ、そして海外へ広がることになる。

秋田由来の地味な題材でも意味がある

地元秋田の文化を作品の題材として取り上げることの多いわらび座だが、その際、意外に秋田の良さを秋田の人が知らないことに気付かされると言う。例えば、秋田の地元の人がよく知らない著名人・藤田嗣治の美術品が秋田県立美術館にある。大壁画「秋田の行事」(1937年制作)である。

この壁画を題材にしたのが「政吉とフジタ」。秋田市の美術収集家・平野政吉と洋画家・藤田嗣治の出会いを描くミュージカルだ。この公演は秋田市において、2015年8〜12月の4カ月公演で2万3086人の来場実績を持つ。ちなみに脚本は秋田市出身の内舘牧子だ。

筆者も秋田生まれだが、秋田にいた当事はこの壁画を見たことが無かった。実は、女優の吉永小百合がJR東日本のテレビCMでこの藤田の作品「秋田の行事」を宣伝している(2013年)。ところがこのCMを流していたにもかかわらず、残念ながら秋田ではいまいち知られていない。

このような秋田が持つ素晴らしさを知ってもらい、盛り上げることが、この演目の「政吉とフジタ」が果たす役割であった。現在ロングラン公演中の「ハルらんらん♪」も、秋田ゆかりの題材であるにもかかわらず、秋田の人はよく知らないはずだ。地元の人に見てもらって、秋田の宝物を再確認してもらい、そのにぎわいをつくる。秋田の人が秋田を素晴らしいと思えるよう、手助けになることを役割と考えているがゆえの演目なのだ。

ここまで劇団わらび座についてご紹介してきたが、続く後編では、株式会社わらび座について詳しく述べる。

文:創生する未来事業 事務局 代表 伊嶋謙二

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。