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特集

2016.07.15

松山がなくなる日!? 危機感を覚える地方自治体のいまを追う

創生する未来

〜地域支援プロジェクト〜

地方創生 制度 社会

ほどよく都会で、ほどよく田舎──中庸の都市・松山の暮らし

市の中心部にそびえたつ松山城。賤ヶ岳(しずがたけ)の合戦で有名な七本槍の1人、加藤嘉明が築城に着手した
市の中心部にそびえたつ松山城。賤ヶ岳(しずがたけ)の合戦で有名な七本槍の1人、加藤嘉明が築城に着手した

愛媛県の県庁所在地である松山市は、人口51万人を擁する四国最大の都市として知られる。四国といっても羽田から飛行機で約90分、大阪からなら約50分足らずだ。実際に訪れてみるとよく分かることだが、地方都市としては珍しく空港から市内中心部まで近距離にあり、バスで15分と地の利が大変良い。

市の玄関口であるJR松山駅からは、市内電車(路面電車)が走る。電車に乗ると、すぐに市のランドマークである松山城が見えてくる。この路線は城下をぐるりと環状に回っており、お堀端には行政を司る市役所と県庁が仲良く並ぶ。また路面電車からは、商業施設が充実している伊予鉄・松山市駅方面にも乗り換えられる。

3000年もの歴史を誇り、神々も癒したと言われる日本最古の名湯・道後温泉も、路面電車に揺られ10分ほどでたどり着く。市民のオアシスとして街に溶け込んできた道後温泉は、全国区の観光スポットとして名高く、昔から多くの文人墨客にも愛されてきた。

明治の文豪・夏目漱石は、英語教師として松山に赴任した体験をもとに名作『坊ちゃん』を生み出し、小説のなかで道後を絶賛している。また漱石と親交の深かった俳人・正岡子規は松山の出身だ。司馬遼太郎の代表作『坂の上の雲』の主人公である秋山兄弟の生家も市内にあり、観光の見どころが目白押しだ。

3000年もの歴史を誇る天下の名湯・道後温泉。日本最古の温泉であり、聖徳太子や斉明天皇など、貴人たちの行幸の記録も残る
3000年もの歴史を誇る天下の名湯・道後温泉。日本最古の温泉であり、聖徳太子や斉明天皇など、貴人たちの行幸の記録も残る

このように観光都市として栄え、商用施設が充実した松山市は、「ほどよく都会」で「ほどよく田舎」の“コンパクトシティ”と言えるだろう。はた目から見て特に問題もなく、快適に過ごせる都市に思える。ところが実際には他の地方都市と同様に、目を背けられない深刻な問題に直面しており、行政側も非常に強い危機感を募らせているのだ。

『先駆け戦略』に見る同市の並々ならぬ思いとは?

松山市が抱く危機感は、我々の想像をはるかに超えるものだ。同市は、2015年度より『松山創生人口100年ビジョン』『先駆け戦略』を策定し、さまざまなプロモーション活動に努めている。この先駆け戦略の啓蒙パンフレットを開くと、にわかに信じがたい衝撃的なキャッチコピーが目に飛び込んできた──それは「松山が、なくなる日」というものだ。

『松山創生人口100年ビジョン 先駆け戦略』の啓蒙パンフレット。「松山が、なくなる日」という衝撃的なキャッチコピーが目に飛び込む
『松山創生人口100年ビジョン 先駆け戦略』の啓蒙パンフレット。「松山が、なくなる日」という衝撃的なキャッチコピーが目に飛び込む

「大げさのように思われるかもしれませんが、それぐらい強く言わなければ、我々はこの問題を解決できないと考えています」と語るのは、松山市 総合政策部の地方創生戦略推進官である田中教夫氏だ。

松山市 総合政策部 地方創生戦略推進官 田中教夫氏
松山市 総合政策部 地方創生戦略推進官 田中教夫氏

2060年までに日本の総人口は8600万人まで減少すると予測されているが、むろん松山のような地方都市も同じ傾向からは逃れられない。2010年以降、人口は漸減しており、すでに待ったなしの課題として挙げられている。

「人口について、10代から20代の層にかけて転出超過になっています。もちろん県内から若い世代を吸収しているのですが、一方で市から出ていく人も多いため、何とか流出を食い止める必要があるのです」(田中氏)

もし、この状態が続けば、市の人口は100年後に約16万人に減ってしまうと予測されている(国立社会保障・人口問題研究所の推計手法に準拠した推定値)。そうなれば経済も縮小し、市民の暮らしは活気を失い、便利で暮らしやすい松山はなくなってしまうだろう。

そこで同市は、中・長期視点に立ち、生き残りをかけた前出の『松山創生人口100年ビジョン』を掲げ、目指すべき将来の方向性と展望を市民に提示。さらに地域の実情に応じた5カ年の目標や施策をまとめた『先駆け戦略』を策定したというわけだ。

田中氏は「100年後の未来を本気で考えているため、国の「まち・ひと・しごと創生法」だけでなく、市としても独自に人口減少対策推進条例を3月に公布しました。自治体として条例を出すのは、全国でも稀なことだと思います」と、並々ならぬ意気込みを示す。

この先駆け戦略では、2019年度までに以下のような5つの具体的な目標を掲げている。

【1】やりきる「3つの礎」(条例制定、推進会議設置、コミュニケーション活動推進)を構築する[基盤づくり]
【2】つながる未来を応援する[少子化対策]
【3】松山への定着と新しい人の流れをつくる[移住定住対策]
【4】魅力ある仕事と職場をつくる[地域経済活性化]
【5】住民の暮らしと経済を守る[暮らしと経済まちづくり]

これらの基本目標をベースに、具体的な施策を体系化したうえで、各施策ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルを回しながら推進状況を管理していく方針だ。

年代別移住・定住ガイドや、松山発オリジナルロードムービーも!

松山市 総合政策部 シティプロモーション推進課 主査 千海克啓氏
松山市 総合政策部 シティプロモーション推進課 主査 千海克啓氏

松山市の本気度は、先駆け戦略のみならず、積極的なプロモーション活動からも伝わってくる。シティプロモーション推進課 主査の千海克啓氏は「松山市は、東京・大阪といった大都市の若者世代で認知度が特に低いのです。そのため、セカンドライフを希望するシニア世代はもちろん、UIターンを検討中の若者に向け、漫画やデータで松山の暮らしやすさを分かりやすくアピールし、移住定住の受け入れ準備を進めているところです」と説明する。

シニアと若者向けに、ターゲット別の移住・定住ガイドを用意。若者向けは漫画を取り入れ、松山の魅力を強くアピール
シニアと若者向けに、ターゲット別の移住・定住ガイドを用意。若者向けは漫画を取り入れ、松山の魅力を強くアピール

UIターンを考える世代にとって一番気になるのは、やはり仕事面のことだろう。当然のことだが、気に入った現地企業の雇用がなければ、定住には結び付かない。そこで地方創生加速化交付金を活用し、創業・経営・就労支援などの幅広いサービスをワンストップで提供する拠点「未・来(ミラクル)Jobまつやま」もリニューアルオープンしたばかりだ。

松山市にある仕事自体の数は多い。とはいえ収入面を都心などと比べると、どうしても見劣りしてしまう。そのあたりは松山の生活環境を発信することで、納得してもらうように努めているそうだ。

松山市 総合政策部 企画戦略課 主査 松村克彦氏
松山市 総合政策部 企画戦略課 主査 松村克彦氏

企画戦略課 主査の松村克彦氏は「例えば通勤・通学のしやすさ、近所で何でも揃う利便性、物価や居住費の安さなどでメリットがあるため、東京23区の家計と比べると、逆に松山市で暮らすほうが1カ月あたり約3万5000円のゆとりが生まれるのです」と“いい暮らし。まつやま”を強調する。

現在、同市の魅力を伝えるオリジナルロードムービー「移住お遍路Moving☆5」も公開中だ。理想の移住先を求めて旅をする、一風変わったお遍路姿の5人衆がたどり着いた松山市。その魅力を、笑いあり、涙あり、恋愛あり、人情たっぷりに紹介するストーリーだが、公開から3カ月ですでに10万アクセスを突破するほどの人気ぶりだ。

松山発オリジナルロードムービー「移住お遍路Moving☆5」もユニークなプロモーション活動だ。アクセス数は3カ月で10万を突破
松山発オリジナルロードムービー「移住お遍路Moving☆5」もユニークなプロモーション活動だ。アクセス数は3カ月で10万を突破

とはいえ、移住・定住による人口増加の数字は、すぐに跳ね上がるものではないだろう。100年ビジョンで認識されているとおり、じっくりと腰を据えて、手を緩めずに施策を打っていかねばならない。松山市の今回の取り組みが、同じ悩みを抱える地方都市のモデルケースとして成功することに期待したい。

次回は商工活性化の立場から、松山商工会議所の企業支援や人材育成などの取り組みについて紹介しよう。

(インタビュー:ノークリサーチ 木村知司/執筆:井上猛雄)

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。