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人を組み替える

2015.05.14

象徴のマネジメント──case 2「技術者を呼び寄せる技術」

藤原 和博

社長の[よのなか]科 つなげる力 3分講座

人事 組織 技術

「つなげる力」をキーワードに、新しい時代のマネジメント、リーダーシップ、イノベーションを指南する3分間動画の連載です。講師は、元リクルートフェローで、東京の杉並区立和田中学で義務教育初の民間人校長を務めた藤原和博さん。経営者としてのコミュニケーション力を研き直せるだけでなく、アイデア溢れる人材の獲得、育成につながる知恵が、ホワイトボードを使った解説とショートエクササイズを通して、自然に身に付きます。

 

“ツボ”を押して一点突破。社員の意識をガラリと変える「象徴(シンボル)のマネジメント」と題して、一つ目のケースでは「人事がいちばん重要な経営課題となる場合」についてお話しした。

今回の二つ目のケースでは、「これからはレベルの違う技術者を、うちの会社で取りたいんだ」という場合について考えてみよう。これもやはり、よく要望が出るケースだろう。前回の「人事」の場合では、最高に優秀な営業課長を人事・採用課長に任命するという施策をご紹介した。しかし今回の場合、営業本部長を技術本部長にしたところで結果は期待できないだろう。何か別のマネジメント手法、たった一つの経営的アクションを、15秒ほどで考えてみてほしい。

 

もちろん予算を技術本部に集めるなり、有名な建築家に立派な研究所を設計してもらうなり、いろいろな考え方があるだろう。何が正解というわけではない。ここでご紹介するのは、リクルートで実際に採用された納得解だ。その昔、同様の課題に対してリクルートが何を行ったかというと、まだ日本では誰も使っていなかったクレイ社のスーパーコンピューターを2台買うことにした。1台20億円近いマシンだ。それを購入し、リクルートのチーフデザイナーであり役員でもあったグラフィックデザイナーの亀倉雄策先生が、“象徴”的なオレンジ色に塗り上げた。

これによって「リクルートが最先端のスーパーコンピューターを導入した」ということが、あちこちの研究所や大学の研究室などで広く噂されることになる。東大でも東工大でも阪大でも、そういった工学部でコンピューターを研究していた人たちにとっては、使いたくて仕方がない代物だったのだ。それまでNECや富士通やIBMにしか興味がなかった教授や学生たちがリクルートに吸い寄せられることになり、後に東工大ではコンピューターを学ぶ学生の半分ほどがリクルートを志望するという事態まで起き、教授会で大騒ぎになったという。人が大騒ぎするようなことを仕掛けなければ、流れというものは変えられない。

ちなみに、この話には後日談がある。2台買ったうち、実は1台はまったく使い道がなく、使われないまま廃棄されることになった。時同じくして、私はメディアファクトリーという出版社とメディアデザインセンターという研究機関をリクルートで立ち上げていた。そのスーパーコンピューターは筒型でベンチのような形をしていたので、廃棄するぐらいならばメディアデザインセンターの目玉の一つとして、お客様に待っていただく際に座ってもらったらどうかと提案した。しかし、その高性能マシンは運ぶだけでも1,500万はかかると言われて断念した次第だ。

2台あわせて30億から40億円。当時のリクルートの経営陣は、それを採用費として考えていた。人を惹きつけ、技術者を引きつける意識改革のためのPRとしてスーパーコンピューターを買い、実際、新聞記事の一面を飾るほどの効果を上げた。技術の象徴(シンボル)に投資したことで、十分に元が取れたはずだ。会社によって規模の差はあったとしても、最近は人材採用について、ここまで思い切った投資ができる経営者はなかなか見当たらないような気もする。いかがだろうか。

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プロフィール

藤原 和博 (ふじはら かずひろ)

1955年東京生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、93年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事の特別顧問、14年~佐賀県武雄市の教育政策特別顧問に。キャリア教育の本質を問う[よのなか]科が『ベネッセ賞』、新しい地域活性化手段として「和田中地域本部」が『博報賞』、給食や農業体験を核とした和田中の「食育」と「読書活動」が『文部科学大臣賞』をダブル受賞し一挙四冠に。著書に『人生の教科書[よのなかのルール]』『人生の教科書[人間関係]』(ちくま文庫)など人生の教科書シリーズがある。ビジネス系では『リクルートという奇跡』、情報編集力の本質を和田中での改革ドキュメントとともに解説した『つなげる力』(ともに文春文庫)。人生後半戦の生き方の教科書『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は12万部を超えるベストセラーに。最新刊は『もう、その話し方では通じません』(中経出版)。詳しくはホームページ「よのなかnet」に。