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モノと道具を再構築する

2016.12.28

ユニバーサルデザインの視点から製品開発を考える

木全 賢

生きのびるための中小企業デザイン

デザイン 社会 消費者

近年のデザインにおける重要なキーワードに「サステナブルデザイン」や「ユニバーサルデザイン」という概念があります。これらの言葉がデザインを分かりにくくしている一因かもしれませんが、現在、商品を開発する立場においては無視できない潮流でもあります。今回はユニバーサルデザインについて考えてみようと思います。

ADA法とバリアフリー

ユニバーサルデザインの源流は、アメリカの障害者権利運動が促進した法整備のなかから生まれました。時代背景としては人種差別撤廃を掲げた公民権運動と連動しています。障害者の権利保護をめぐって重要な位置を占めるのが1990年制定のADA(Americans with Disabilities Act)法です。同法は公共施設・店舗など人の集まる場所ならどこでも障害者が利用できることや、雇用機会均等から商品サービスまで、障害者に対して広範囲なアクセス権を保障し、障害者・高齢者など生活弱者の権利保護を定めました。

ADA法は、生活弱者がどこにでもアクセスできることを目指し、アクセスを阻む様々なバリア(障壁)を問題と捉え、それを具体的に解決すること、すなわちバリアフリーを推進させました。

しかし一方で、法律が作られバリアフリーが行政主導で進められていく中、法規制では解決できない問題もあることが分かってきました。その問題を解決しようと提唱されたのが、ユニバーサルデザインです。

ユニバーサルデザインの理念

障害者や高齢者だけでなく、誰でも怪我や病気などで一時的に障害を抱えてしまうことがあります。例えば、怪我で松葉杖生活を強いられたり、海外旅行先で言葉が通じなかったりすれば、行動を制限され、つらい思いをすることでしょう。ユニバーサルデザインとは、そのような事例も程度は別として、障害として捉えようという考え方です。長い人生の中で、人は一時的または長期的に何らかの障害を持つのです。

したがって、バリアフリーが生活弱者にとってのバリアという問題の解決を目指したのに対し、ユニバーサルデザインは「長い人生の中では、すべての人が何らかの障害を持つ」ことを問題とし、障害の有無、年齢、性別、国籍、人種などにかかわらず多様な人が快適に暮らせるよう、商品や建築や空間のデザインによる解決を目指しているのです。

ユニバーサルデザインの7原則

ユニバーサルデザインは米国ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイスによって提唱された概念です。自らも障害を持つメイスが提唱したユニバーサルデザインの7原則は次の通りです。

ユニバーサルデザインの7原則
1)誰でも公平に利用できる
2)使う上で柔軟性に富む
3)簡単で直感的に利用できる
4)必要な情報が簡単に理解できる
5)単純なミスが危険につながらない
6)身体的な負担が少ない
7)接近して使える寸法や空間になっている

バリアフリー、ユニバーサルデザインのどちらも、これからの商品開発において重要な概念です。しかし「車椅子で通れるか」「段差がないか」など、想定するターゲットや場面が明確なバリアフリーに対して、「多様な人が快適に暮らせる」ことを目指したユニバーサルデザインの基準は、あいまいなところがあります。上記の7原則に関しても、公平性の範囲、柔軟性の程度などの設定次第で評価が変わってしまいます。

ユニバーサルデザインと選択肢の拡大

筆者は、ユニバーサルデザインは「選択肢の拡大」と密接に関係していると考えています。

例えば、東京の飲食店の料理の種類の多さはどうでしょう。安価な牛丼店から客の好みに合わせた料理を提供する和洋中の専門店まで、あらゆる選択肢があります。「障害の有無、年齢、性別、国籍、人種などにかかわらず、多様な人が快適に暮らせる(食事ができる)」というユニバーサルデザインの問題意識で見てみると、東京の飲食店はその問題を解決していると言えるのではないでしょうか。

では、商品デザインでその問題を解決するにはどうすればいいでしょうか。例えば、最近の駅にはエスカレーターとエレベーターが整備されていますが、これもユニバーサルデザインの好例だと考えています。

生活弱者もそれ以外の人も使える点ではエレベーターが優れています。車椅子の人ばかりでなく、怪我で一時的に松葉杖をついている人、子供を乗せたベビーカーを押す母親、重い旅行鞄を抱えた海外旅行者にとっても、エレベーターはありがたい存在です。

一方、少しずつたくさんの人を乗せられるエスカレーターは、急いでいる高齢者にも、生活弱者でない人を大量に運ぶのにも便利です。さらに階段も、急ぐときやトラブル時、地震などの緊急時にはないと困ります。階段、エスカレーター、エレベーターにはそれぞれの良さがあり、組み合わせることで全体としてユニバーサルデザインを実現しています。

「長い人生の中では、すべての人が何らかの障害をもつ」という問題を解決するには、生活弱者かそうでないかを問わず、なるべく多くの人たちの状況に応えられることが求められます。障害に限らず、一人ひとりの人間は一生のうちに様々な状況に直面します。それらの状況次第で、必要なものも、要求の度合いも多種多様です。ユニバーサルデザインとは、それらの多種多様な要求にできるだけ応えられるよう、選択肢を増やそうとする運動だと筆者は考えています。

ユニバーサルデザインから考える中小メーカーの製品開発

自らも障害を持つロナルド・メイスは、障害者ばかりが配慮されるバリアフリーに嫌気が差してユニバーサルデザインを提要したと言われます。生活弱者もそうでない人も、誰もが互いに気兼ねなく利用できる。彼が見たかったのは、そんな幸福な光景なのだと思います。

生活弱者向けを意識することがユニバーサルデザインではありません。エレベーターだけではバリアフリーではあってもユニバーサルデザインではなく、階段、エスカレーター、エレベーターという選択肢を用意することが、全体としてユニバーサルデザインとなるのです。

一つの商品で全ての要望に応えることばかりがユニバーサルデザインではありません。階段、エスカレーター、エレベーターにそれぞれの良さがあるように、一つのものにさまざまな機能を持たせるのではなく、異なるものを組み合わせることで、多くの選択肢を用意できることもあるのです。その場合、個々の商品で取り組まなければならないのは、特定のユーザーの特定の状況での要望にしっかり応えてゆくことです。

大量生産には、安くて誰もが食べられる牛丼店のような良さがあります。しかし、特定のユーザーの特定の状況での要望に応えて選択肢を増やしていくという考え方は、大量生産にはなじまないところがあり、中小のメーカーが勝負できる領域です。牛丼店も大切ですが、中小メーカーが和洋中の専門店のようにユーザーの好みを知り尽くした商品を開発して選択肢を増やすことで、全体としてユニバーサルデザインが実現していくのだと考えています。

ただし、むやみに選択肢を増やせば良いということではありません。以前ご紹介した、母親のために車椅子を開発した中小企業の事例のように、関係者とユーザーの笑顔を具体的に想像しながら進める商品開発こそ、すべての人の幸福のために中小企業が貢献できることではないでしょうか。

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プロフィール

木全 賢 (きまた けん)

中小企業デザインコンサルタント。1985年シャープ株式会社入社以来、一貫して工業デザイン分野にかかわる。日本サムスン株式会社などを経て2006年に独立。主に中小企業へのデザイン支援を行う。各種デザインセミナーやデザイン関連書籍の執筆に積極的に取り組み、デザインの啓蒙活動にも力を入れている。東京理科大学特別講師、桑沢デザイン研究所・東京デザイナー学院非常勤講師。著書『デザインにひそむ<美しさ>の法則』(ソフトバンク新書)、『中小企業のデザイン戦略 』(PHPビジネス新書)、『売れるデザインの発想法』(ソフトバンク新書)、『マインドマップ デザイン思考の仕事術』(PHP新書)、『売れる商品デザインの法則』(日本能率協会)、『デザイン家電は、なぜ四角くて、モノトーンなのか? 』(エムディエヌコーポレーション)。