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モノと道具を再構築する

2015.10.19

ロゴマークに著作権はない──企業デザインと知的財産権

木全 賢

生きのびるための中小企業デザイン

危機管理 デザイン 法律

前々回(オリジナリティーと“パクリ”)、五輪エンブレム騒動から商品デザインについて考えましたが、企業の商標・ロゴマークでもトラブルに巻き込まれる可能性があります。

デザインを導入するうえで特別な準備や知識が必要というわけではありません。しかし、商品開発の経験もデザイナーとの付き合いもない中小企業のなかには、知的財産権の知識やデザイン費用の相場がわからないために、デザインの導入をためらっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は企業のデザイン活動において重要な、商標権など知的財産権の取り扱いについて考えてみます。ただし、以下の内容は知的財産権の概要にすぎません。商標や商品の開発実務で知的財産権について疑問やトラブルが発生した場合は、必ず弁理士や弁護士にご相談ください。

商標や商品のデザインを保護するのは著作権ではない

知的財産とは「財産的価値を有する情報」のことです。しかし、「情報」は簡単に真似されてしまうものです。知的財産が保護されないと、創作意欲が失われ文化や産業の発展を損なう可能性があります。そこで、必要な範囲内で「知的財産の自由な利用(=真似)」を制限して、知的財産の創作者の権利を保護するのが知的財産権制度です。知的財産権には大きく分けて著作権と産業財産権の2つがあります。また、産業財産権には特許権・実用新案権・商標権・意匠権の4つがあり、企業や商品のデザインは主に商標権と意匠権で保護されます。

まず、著作権について簡単に説明します。

著作権は、「感情または思想を創作的に表現したもの」で「文芸・学術・美術・音楽」に発生する権利で、著作物を創作した時点で著作者に自動的に発生するとされています。特殊な状況を除いて出願・登録の必要はありません。しかし、商標や商品デザインの多くについては、上記の定義からすると企業の「思想を創作的に表現したもの」ですが、「文芸・学術・美術・音楽」ではないため「著作物」には含まれず、基本的には著作権では保護されません。

ただし、同じ定義からすると「美的な表現要素」を含む企業のWEBサイト、出版物、広告などには、創作者やデザイナーに著作権が発生します。また同様に、商品デザインでも著作権で保護される場合があります。美的鑑賞を主な目的にしているという理由で、量産品の博多人形や仏壇彫刻などの著作権が認められた例がありますし、有名なところでは、抽象画(=美術品)として描かれた「三越百貨店の包装紙」には著作権があると言われています。著作物の保護期間は原則、著作者の生存期間および死後50年間です。

ロゴマークは商標権でしか保護できない

次に、商標について考えてみます。商標とは、シンボルマーク、ロゴタイプ、ロゴマーク、キャラクター、特徴的な商品のデザイン、看板など、企業の商品やサービスを他社と区別するためのもので、「企業の業務上の信用」を視覚化したものだととらえられています。商標法により、商標権の保護対象となるもので、商標権が登録され設定されている期間、専有的にこれを使用することができます。

「商標」には種類があり、扱いが異なります。アルファベットなどの文字で構成されるロゴタイプ、ロゴマークは、基本的に著作権は認められていません(「Asahiロゴマーク事件」)。ただし、商標のうち「シンボルマーク」にはその美的表現の程度により著作権が発生する場合があり、「キャラクター」には著作権が発生するとされています。熊本県のキャラクター「くまモン」は、著作権を買い上げた県が著作権使用料を無料にしたことで、さまざまな商品に展開されました(使用には県の許可が必要です)。

つまり、シンボルマークとキャラクターを除く、ほとんどの商標のデザインは著作権で保護されません。著作権に代わり商標に込められた「企業の業務上の信用」を保護するための制度が商標権です。商標権は著作権と違って自動的に発生することはありませんが、期限はなく、何度でも更新できます。商標権の取得には特許庁への商標出願が必要で、出願には5年登録と10年登録があります。

また、シンボルマークとキャラクターの著作権は創作者に自動的に発生しますので、商標として使用するには、企業が著作権を買い取り、登録しておくべきでしょう。ただし著作権を買い取っても、著作者のみに帰属する譲渡不可能な「著作人格権」という権利がありますので、使用にあたっては十分な注意が必要です。

もちろん、デザイナーに商標のデザインを依頼する場合にはデザイン費用がかかります。企業の信用の証として長期間使用する商標のデザイン費用は、チラシなどの日常的なデザイン業務より高額です。

知的作業は信頼の上に成り立つ

商標権の概要を説明しましたが、実務ではすべて杓子定規に割り切れるものでもありません。以前、次のような相談を受けたことがあります。

ロゴマークを社内で考案して自社ブランドを立上げた企業が、外部デザイナーに販促チラシを依頼した際、その制作過程でロゴマークの修正案の提案を受けました。しかし、途中でチラシ制作が中止になり、それまでの作業費用の請求明細にロゴマークの著作権譲渡という項目があり、どう対応するべきかという相談でした。

結論から言えば、ロゴマークに著作権はありませんから、存在しない権利の譲渡請求は拒否できます。しかし、筆者は次のように考えています。販促チラシのような日常業務でも、業務の大小を問わず、デザイン業務は知的財産に深くかかわる知的作業であるため、企業とデザイナーの信頼関係の上にしか成り立ちません。従って、最終的な判断は今後もそのデザイナーと付き合うか、信頼できるかにかかっています。

今後も付き合うつもりなら、腹を割って話をして解決するべきです。信頼できないなら清算して取り引きを終了すべきです。取引中止の場合は、清算しても無用なトラブルを避けるため、デザイン案を使わないほうが紳士的と言えるでしょう。

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あるデザイナーからスケッチ1枚1万円だと提案されて依頼したところ、翌週にスケッチ100枚を描いてきて100万円の請求をされたなどという、冗談のような事例を聞いたことがあります。

プロフィール

木全 賢 (きまた けん)

中小企業デザインコンサルタント。1985年シャープ株式会社入社以来、一貫して工業デザイン分野にかかわる。日本サムスン株式会社などを経て2006年に独立。主に中小企業へのデザイン支援を行う。各種デザインセミナーやデザイン関連書籍の執筆に積極的に取り組み、デザインの啓蒙活動にも力を入れている。東京理科大学特別講師、桑沢デザイン研究所・東京デザイナー学院非常勤講師。著書『デザインにひそむ<美しさ>の法則』(ソフトバンク新書)、『中小企業のデザイン戦略 』(PHPビジネス新書)、『売れるデザインの発想法』(ソフトバンク新書)、『マインドマップ デザイン思考の仕事術』(PHP新書)、『売れる商品デザインの法則』(日本能率協会)、『デザイン家電は、なぜ四角くて、モノトーンなのか? 』(エムディエヌコーポレーション)。