• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

人を組み替える

2016.12.26

神さまからご利益をいただくには?

三橋 健

いにしえの知恵に学ぶ

宗教 文化 教養

神職として神明奉仕をしていた時、氏子の方から、

「神主さん、神さまからご利益をいただくには、どうすればいいですか」
「お賽銭は多くあげれば、それだけご利益も多いのですか」

このような質問を受けたものです。神職の資格を取得して日も浅く、どう答えるべきか、悩んだものでした。

その後、学問の道に進み、大学院に入って本格的に神道を勉強するようになりました。そのような時でも、なんとなく気になっていたのは、かつての氏子たちからの素朴な質問でした。しかし、大学院では、それらの質問に対して真剣に答えてくれる講義や演習はなく、神道の歴史や思想、あるいは祭祀や神社の研究などが主であり、それぞれの専門の先生たちが、自説を縷々(るる)述べるというものでした。

時は過ぎ、今度は私の方が教える立場となり、およそ半世紀、定年退職ということで、バトンを次代の教授たちに渡しました。大学での一切の業務から解放された日、帰宅して書斎に入って、しばらく呆然とした時間が流れ、その時の自分がわびしく感じられました。はたして今まで自分は何を勉強し、何を教えてきたのか、何のための学問だったのか、そのようなことなどが思い出されました。

私ごとになりますが、六十七歳の時、スキルス性の胃がんとなり、主治医から余命3カ月との宣告をされ、死を覚悟の手術を受けました。奇跡的に一命を取り留め、何とか定年まで生きることができました。多くの人々に助けられ、ここまで働けたのだと思い、すべてに感謝を捧げるため、神棚と祖霊舎のある小さな祈りの部屋に入りました。そして1時間ばかり瞑想にふけっていたところ、ふと神職をしていた時代が思い出され、最初に掲げた氏子たちからの質問が脳裏を横切りました。それは不思議な瞬間でした。

さらに神秘的であったのは、瞑想の途中に、わが家の床の間に掛けてある玉持ち大黒天があらわれ、次のようなお告げをなさったことです。

──常に感謝の気持ちを忘れずに、今後は神さまに好かれる生活を送りなさい。神さまを畏れ、人を恐れてはなりません。清い心をもって、正直に生きなさい。神さまは穢れたものは納受いたしません。──

お告げは、もう少し続きましたが、ここに述べたところが肝心なところでした。お告げの中でいう「納受」とは、神さまが人間の願いなどを聞き入れて下さるという意味です。私は長い眠りから覚めたような気持ちになり、あの玉持ち大黒天のお告げは、そのまま五十年前に氏子から受けた質問の回答であると思うようになりました。長い間、悩んでいた雲が晴れて、さわやかな朝を迎えたような気分でありました。

神さまからご利益をいただくにはどうすればいいのか。繰り返しになりますが、常に感謝の気持ちを忘れずに、神さまに好かれる生活を送ることです。神さまに好かれるとは、清い心をもって、正直に生きることです。そのような人の願いを、神さまは聞き入れて下さいます。

一方、嘘をつき、人をだまし、汚い言動をする人は、神さまから嫌われます。だから、とても大切なのは、神さまに好かれ、神さまに嫌われないようにすることです。

これらは簡単なようですが、実行は容易でありません。日常の生活のなかでも、つい嘘をつくこともあるものです。そのような時、神さまを畏れる気持ちが必要です。

このような神さまのお告げを信ずると、お賽銭が多い、少ないというよりも、真心からのお賽銭の大切さがわかります。たとえお賽銭を多くあげても、それが悪銭であるならば、神さまはけっして納受して下さらないのです。悪銭とは盗みや詐欺など不正な手段によって得たお金のことです。そのことをしっかりと心に刻み込んで暮らしたいものです。

併せて読みたい、編集部からのおすすめ記事
「働くこと」と「清めること」の関係

「働くこと」と「清めること」は、一見したところ関係ないようですが、実はこれが大ありなのです。そのことを、私のささやかな体験から話してみたいと思います。私は大学二年のとき、神職になろうと思って、東京の練馬区にある某神社の宮守(みやもり)として社務所に住み込みました。

プロフィール

三橋 健 (みつはし たけし)

神道学者。世界宗教博物館顧問。日本神道史学会会長。神道学博士。1939年石川県生まれ。國學院大學文学部日本文学科卒業。同大学院文学研究科神道学専攻博士課程を修了。1971年から3年間ポルトガルのコインブラ大学へ留学。帰国後、國學院大學文学部講師、助教授、教授を経て、同大学神道文化学部及び同大学院教授となる。1997年、同大学在外研究員としてフランスとイタリアへ派遣され、パリ・ドフィーヌ大学、グレゴリアン大学、ミラノ東洋学校、ナポリ東洋大学、バチカン放送などで神道・神社に関する講義・講演・放送などを行う。また国内では、東洋大学、上智大学、駒澤大学、清泉女子大学などの非常勤講師をつとめる。2010年、國學院大學を定年退職、同大学大学院客員教授となり、現在は「日本の神道文化研究会」の代表として活躍。主な著書は『国内神名帳の研究(論考編・資料編)』(おうふう)、『日本人と福の神—七福神と幸福論』(丸善)、『わが家の宗教 神道』(大法輪閣)、『神道の常識がわかる小事典』『神社の由来がわかる小事典』(PHP新書)、『図説 神道』(河出書房新社)、『伊勢神宮-日本人は何を祈ってきたのか』(朝日新書)、『かぐや姫の罪』(新人物文庫)、他多数。