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人を組み替える

2016.12.22

「手抜きをさせない」という発想はズレている

社長の処方箋

エレガントな〈手抜き〉

効率 教育 成長戦略

エレガントな〈手抜き〉
「手抜き」なんてまず許されなさそうな製造業。しかし、「手抜き」をした方が良い結果をもたらす可能性があるとしたら……? 20人規模の町工場でありながら、全国47都道府県に1600社以上の取引先を持つ、群馬県のばね専業メーカー・中里スプリングの中里良一社長に「手抜きの効果」を聞きました。

語り:中里良一/文:大川祥子 構成・写真:須賀喬巳

中里 良一

中里 良一(なかざと りょういち)

1952年群馬県高崎市生まれ。1974年立正大学経営学部経営学科卒業後、東京都内の商社に勤務。1976年有限会社中里スプリング製作所入社。1985年同社代表取締役社長に就任。2代目社長として、社員のやる気を引き出す社内改革や下請け体質からの脱却を行い、当時苦境にあった同社の経営を立て直す。現在同社は「群馬県1社1技術企業」「群馬県IT推進モデル企業」に認定され、2009年には「元気なモノ作り中小企業300社」に選定された。「ビジネス・イノベーション・アワード2012」にて優秀賞を受賞。

 

100%の力でやれないなら遊んでいる方がいい

うちの工場には、調子がいいときは青い作業着を、悪いときは黄色い作業着を着るルールがあるんだよ。青い作業着を着ているときは100%の力で仕事をする。それができないときは遊んでいた方がいいという考え方なの。集中力が上がらない状態で嫌々仕事をしたって、効率は上がらないし、何より危ないでしょう。

嫌なことが次々と起きるようなときは、誰だって仕事が嫌になってしまう。そのまま消耗戦で疲弊するよりは、一旦呼吸を整えて、装備を締めてから出直した方がよっぽどいいよね。

浮いた残業代はみんなで山分け

ちゃんと働いているかどうかを時間で測るのは、形式ばかりを気にする公務員の発想だよ。ものづくりの現場はそうじゃない。モノが売れていた時代は大量生産ができればそれで良かったけれど、今は金太郎飴のように同じものをたくさん作ったって仕方がない。仕事の成果は時間の長さでなくて密度で評価されるべきなの。

僕が社長に就任する前は、社員みんなに毎月50時間くらい残業が発生していたんだけど、僕が社長になったときにそれをすぱっとやめた。もちろん、最初は不満の声が上がったんだけど、3カ月も経てば、残業なしでもそれまでと同じ量の仕事ができるようになったんだよ。時間あたりの仕事の密度を濃くすればできるということなんだよね。

全員で残業がなくなったから、会社としては残業代は浮くし、機械を動かす電気代も浮く。それで同じ成果が出るようになったんだから、成果はみんなで山分けしたよ。それまで会社が支払っていた残業代の半分を社員の頭数で割って基本給に乗せた。頑張ったときに社員に「損をした」と思わせてはだめだね。

密度が濃ければ経験の差はすぐに縮まる

時間あたりの密度の濃さは、もう少し長く見たときでも重要だよ。密度が濃くなれば、30年働いている人の技術に3年で追いつくことができる。僕がうちで働き始めたとき、長年勤めている社員は全然言うことを聞いてくれなかったし、仕事も教えてくれなかった。職人たちには、社長の倅だからって特別扱いはされなかったということだよね。

中里スプリング

だから、なんとか言うことを聞いてもらおうと、まずは実力で一番になることを目指したの。毎晩こっそり静まり返った工場に忍び込んで、機械を見ながら一人でネジを作るシミュレーションをした。実際に機械を動かすわけにはいかないからね。それを続けたら、技術で認められるようになって社内で意見が通るようになってきたんだよ。職人気質の人が多いものづくりの現場でも、ただ長く働いている人だけが偉くなるわけじゃないってこと。

社長の仕事は手抜きをさせないことではなく、やる気にさせること

社員に給料以上に働いてほしい場合は、本人が頑張りたくなるような環境を作らないと。「北風と太陽」みたいに、締め付けるばかりじゃ社員は頑なになってしまう。会社が時短をさせたいなら、時短をさせたくなる制度にしないといけないよ。

だから、うちでは社員みんなと「夢会議」をしているの。一人ひとりにどんな夢があるのかを聞いていく。そうして夢や目標が明確になると、そこへ向かって頑張れるじゃない。社員が好きだと思う取引先としか仕事をしないのもそのためだよ。嫌いな客相手じゃ頑張れないことも、好きな取引先が相手なら頑張れる。社長の仕事は、手抜きをさせないようにコントロールすることじゃなくて、「頑張りたい」と思える環境を作ることなんだよ。

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社会はますます“手抜きを許さない”方向へと進み、絶え間なくリスク回避のストレスに追われています。逃げ道はないのか。小さな組織の未来学では別の選択肢を検討してみます。成果を上げるプラスの「手抜き」とは何か、ヒントが見えてくるかもしれません。この特集の終わりには「エクセレントな手抜き」にまつわる調査報告をメールマガジンでお届けする予定です。

プロフィール

社長の処方箋

各界の専門家、経営者が、実戦で培ってきたノウハウを提供する一編一解決のコラム。視点・習慣・道具・技術などを切り換えれば、結果が変わる。