• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

NPO尾道空き家再生プロジェクトが再生した物件の一つ「本の家」。アーティストや研究者の作業場として使われている。2009年から改修を開始したが、今でもゆっくり改修中。

モノと道具を再構築する

2015.07.31

100軒の「空き家再生」を可能にした尾道の移住者支援

大谷 悠

尾道に学ぶ「現場主義」のまちづくりと組織経営

地方 地域創生 制度

2014年、空き家率が過去最高の13.5%になったことが大きく報道されました。増加の一途をたどり、地域の活力を奪うとされる日本の「空き家問題」。しかし一方で、空き家を地域再生の手がかりとして活用する都市や、空き家を利用してあらたに事業をはじめる人々が増えています。空き家を使った地域再生の秘訣とは何か──日本に先行する縮小都市であるドイツのライプツィヒにおいて、空き家を活用した地域再生の事例を紹介してきた大谷悠氏が、今度は尾道の空き家再生プロジェクトの事例を紹介します。

人口減少が進み、空き家が増える広島県尾道で、物件探しから定住支援まで移住希望者たちを強力にサポートしている「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」。会員数は200人を超え、山手地区を中心に100軒ほどの空き家の再生にかかわり、地元に雇用を生み出してきました。NPOの特徴は、代表の豊田雅子さんをはじめ、NPOメンバーが体験した空き家探しから改修までの経験が活きていることです。

「その空き家、壊すなら私が買って直します!」

NPO代表の豊田雅子さんは尾道出身。大阪の大学を卒業後、大阪の会社でツアーコンダクターとして20代を過ごし、海外を飛び回る日々を送っていました。そのなかで、景観を守り受け継ぐヨーロッパの街に感銘をうけ、改めて自身の出身地である尾道のもつ景観の固有性と重要性に気付いたといいます。その後、尾道三山の南斜面である山手地区に空き家が増え、尾道の景観に危機が迫っていることを知った豊田さんは、なんとか空き家を取り壊しから救えないかと2000年ごろから帰省のたびに山手地区を歩きまわり、独自に情報を集めるようになりました。

NPO法人尾道空き家再生プロジェクト代表理事長の豊田雅子さん。
NPO法人尾道空き家再生プロジェクト代表理事長の豊田雅子さん。

6年ほどそんな生活が続いた後、地元では有名な西側の斜面地にある築70年の空き家、通称「ガウディハウス」が取り壊されるという情報を聞きつけます。所有者に連絡をとって内部を見せてもらった豊田さんは、昭和初期の大工が技工の限りを尽くした建築に圧倒されて一目惚れ。「この家、壊すくらいなら私が買って直す!」と即座に決意し、2007年に「ガウディハウス」を200万円で購入。その後、大工の旦那さんとともに自分たちで少しずつ直し始めました。

豊田さんが「衝動買い」したという通称「ガウディハウス」。
豊田さんが「衝動買い」したという通称「ガウディハウス」。

同時に空き家探しから購入、セルフリノベーションの過程を赤裸々にブログで発信したところ、全国から興味をもった移住希望者が1年で100人ほど連絡をしてきたそうです。豊田さんは「100人の人が1軒ずつ空き家に移住してくれれば、100軒の空き家を救えるじゃないか」と思い立ち、移住者の受け皿になるような活動を本格的に行うべく仲間を集めました。こうして2008年にNPO法人尾道空き家再生プロジェクトが発足します。

総合的に移住者の生活環境を整える

NPOの特徴は、その移住者に寄り添ったサポート体制にあります。実際に移住希望者が体験するであろうことを追ってみましょう。

尾道への移住は空き家探しから始まります。しかし、接道がなく建て替えもできない斜面地の空き家は、普通の不動産屋さんでは取り扱われておらず、情報を得ることは簡単ではありません。NPOは市が1999年から行ってきたプログラム「尾道市空き家バンク」を2009年に事業受託し、空き家の所有者と移住希望者とのマッチングを行っています。登録を行うことで、移住希望者は非公開の空き家データバンクにアクセスすることができ、条件に合う空き家を探すことができます。

登録者専用の空き家バンクのウェブサイト。空き家の状態(空き家レベル)や特徴について細かく分類されている。
登録者専用の空き家バンクのウェブサイト。空き家の状態(空き家レベル)や特徴について細かく分類されている。

ただし、オンラインで目ぼしい物件にたどり着ける人はなかなか稀です。尾道では足で歩いて情報を得たり、口コミや人的ネットワークをたどるほうが優位であることが少なくありません。NPOではゲストハウスとシェアハウスを経営していて、尾道に住みながら短期から長期まで暮らしを体験しつつ、物件探しもできるようにしています。

NPOの発行している「尾道ぐらしへの手引書」という可愛らしい冊子は、坂の町で暮らすヒントがカルタ風に示されている。これは移住希望者に坂の暮らしの覚悟を促す意味もある。
NPOの発行している「尾道ぐらしへの手引書」という可愛らしい冊子は、坂の町で暮らすヒントがカルタ風に示されている。これは移住希望者に坂の暮らしの覚悟を促す意味もある。

良い物件とめぐりあい、いざ移住となっても、建物の状態によっては補修・改修が必要になることが多々あります。工事を外注するのが予算的に厳しい場合、自分の手で直していくことになりますが、素人には手出しできない場合もあります。NPOはリノベーションの技を職人から教えてもらえるワークショップを企画したり、工具・器材の貸し出し、引っ越しやリノベーションのお手伝い、人員の派遣を通じてサポートします。また、リノベーションにかかる費用を補助する市などの補助金を紹介しています。

空き家再生合宿。実際の空き家を改修することで、プロの職人から直接、技術を学ぶことができる。2015年も募集中。
空き家再生合宿。実際の空き家を改修することで、プロの職人から直接、技術を学ぶことができる。2015年も募集中。

無事に引っ越しを終えて尾道での生活が始まると、人との繋がりが鍵となります。NPOは空き家を改装した子育て支援のための空間や井戸端サロン、カフェ、バーなど、移住者と旧住民の双方が利用できる施設を生み出してきました。また、移住者自身も自分でビジネスを立ち上げたり、店を持ったりと、様々な活動を行っています。こうして移住の「先輩」が次の世代の生活の受け皿になっています。また、建築や都市に関する調査研究を行う研究機関や、同じく空き家問題を抱える全国の地域など、尾道以外の地域とのつながりもNPOを軸に育まれています。

NPOがリノベーションした「北村洋品店」の二階には、子供服や育児グッズのバザーが常設され、子連れ家族の情報交換の場所となっている。
NPOがリノベーションした「北村洋品店」の二階には、子供服や育児グッズのバザーが常設され、子連れ家族の情報交換の場所となっている。

豊田さんらの経験が活きた移住者支援

「私自身、空き家探しに苦労したので、移住者がぶち当たる問題や、必要としていることがよくわかります」と豊田さん。豊田さんを始め、NPOメンバーたち自身の経験をもとにした「かゆいところに手が届く」移住者サポート体制が行われているのです。

2008年に東京から尾道の空き家に引っ越してきた漫画家つるけんたろう氏が、尾道で悪戦苦闘するさまを描いた作品『0円で空き家をもらって東京脱出』。こちらも移住に関する情報満載だ。
2008年に東京から尾道の空き家に引っ越してきた漫画家つるけんたろう氏が、尾道で悪戦苦闘するさまを描いた作品『0円で空き家をもらって東京脱出』。こちらも移住に関する情報満載だ。

これが功を奏し、2009年からの6年間で、「空き家バンク」によって62軒の空き家が再生され、100人以上の移住者が尾道にやって来ました。NPOが独自に再生した物件も含めると、これまでに山手地区を中心に約100軒の空き家が再生されてきました。NPOの役割も徐々に大きくなり、市が大型の空き家の再生を依頼してくるようになってきます。こうなってくると、補助金に頼っていたそれまでの経営手法では非効率で、NPO自身が採算性のある事業を行う必要が出てきました。そこで2012年、NPOはそれまで全く経験がなかったゲストハウス事業に乗り出したのです。

次回は、補助金に頼らない「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」の経営手法についてご紹介します。 

併せて読みたい、編集部からのおすすめ記事
尾道の「空き家」はなぜ若者をひきつけるのか

空き家を地域再生の手がかりとして活用する都市や、空き家を利用してあらたに事業をはじめる人々が増えています。空き家を使った地域再生の秘訣とは何か──ライプツィヒにおいて空き家を活用した地域再生の事例を紹介してきた大谷悠氏が、今度は尾道の空き家再生プロジェクトの事例を紹介します。

プロフィール

大谷 悠 (おおたに ゆう)

2010年千葉大学建築学科修士課程修了。大学院卒業と同時にドイツに渡り、ラオジッツ産炭地域の地域再生公社にて褐炭露天掘り跡地の再生計画と住民参加型芸術祭「Paradies 2」にかかわる。その後2011年5月ライプツィヒの空き家にて「日本の家」を立ち上げ、2012年2月より同登記社団共同代表。2012年夏から日独の都市再生と空き家・空き地問題に関する交流・提案・実践のワークショップ「都市の『間』」を行っている。2012年9月よりライプツィヒ大学博士課程所属。日欧の市民のボトムアップによる地域再生と都市コモンズをテーマに研究中