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人を組み替える

2015.12.28

なぜシニア市場で失敗するのか

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

マーケティング 老後

私は神経内科が専門なので、日常診療の多くがお年寄り相手である。高齢者というと医学的には65歳以上を指すが、実際に高齢として感じられるのは80歳を過ぎてからだ。70代は、健康であれば特別に高齢者としてみる必要はない。

しかし、多くのマーケティングでは70代をシルバー産業のターゲットとして捉えている。逆に、70代の当人はシルバーと言われることに抵抗感があり、自分とは関係ないと思っているのだ。多くの企業はそれに気がつけないでいる。

本音は言わない

高齢者を対象にマーケットリサーチしても役に立たないことが多い。その理由は、彼らが建前の回答しかしないからであり、本音が見えないからだ。

ロボットとともに介護施設を訪問して、一緒に体操をして楽しませるというようなことが行われている。インタビューすれば「こんな新しい器械と遊べて」と答えるが、本当は「わざわざこういうことをしくれているのだから、感謝しなければいけない」という義務感、あるいはそんな演技をしているものだ。ロボットを持っていったほうはそれを理解できないので、お年寄りに喜んでいただけたと勘違いするわけだ。

どう考えても、お年寄りの相手に必要なのはロボットではなく、人間の話し相手であるはずだ。本音を言わない高齢者の態度を誤解してまう典型である。

技術者の目線から見えない世界

技術者には、自分たちが便利だと思う機能のほとんどが、高齢者に必要とされていないということがわからない。技術者はどうしても便利さや機能を増やしてしまうものだ。

しかし、高齢になってくれば行動は限られ、パターン化したものになる。例えば、最近のテレビリモコンは地上波、BS、ケーブルテレビなどの切り替えをしてからチャンネルを選ぶ必要があるが、それをできない人が多い。しかしダイレクトにBSのNHKを選択できるようなボタンはない。だから高齢者はBSを見なくなってしまう。

そのあたりのことを、なぜ技術者は理解できないのだろうか。マーケティングでは見えない、高齢者の行動を理解しなければいけないが、その情報はアンケート調査などでは決して見えない部分であり、実際に自分たちが高齢者の行動を見なければ理解できない。臨床現場へ足を運ぶ技術者は少ないので、いつまでも現実が見えない。

想像と現実の違いを現場で体験しない限り、シニア市場におけるヒット作は現れないだろう。

新しい機能は高齢者を幸福にしない

便利なことは、高齢者にとって迷惑なことが多い。彼らは自分たちの経験、あるいは既存の知識や習慣で対応できることを望む。

例えばスマホでは、スワイプすること自体できないことが多い。だから高齢者向けにタブレット型の端末を使ってもらおうなどというプランは、そもそもかなり無理がある。つまり、そこにマーケットはないのだ。

彼らはボタンを押した感覚がはっきりわかるものでないと使えないということだ。同時に物事を処理しづらくなるのが高齢者の脳である。であれば、機能はできるだけシンプルでないと、結局は使われることがない。

監視や過度のコミュニケーションを望まない

子供や孫とつながるための様々なIT機器があるが、ほとんど使われることはない。親は子供にいちいち生存確認などして欲しくないし、孫と長い時間、コミュケーションを取ることも面倒なのだ。もっと自由に、制約なく生きていたい──当たり前で誰もが持っている感覚を活かすIT機器や、サポートするメカが必要である。

買い物へ行くための手押し車は、なぜか重心が低く、腰が曲がってしまうものが多い。最も使いやすいのはスーパーの店内にあるショッピングカートだと多くのお年寄りが言うが、いまだにそんなタイプの手押し車は目にしない。

高齢者と一緒に考えて商品を開発するには、十分すぎるほどの温かい目と、本音を聞き出すための仕組みが必要である。高齢者マーケットは、まだまだ未知の市場であるとしか言いようがない。

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プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。