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モノと道具を再構築する

2015.09.09

“模倣”の利点を、脳のミラー細胞から考える

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

成長戦略 効率

2020年の東京五輪エンブレムは、他人の作品を模倣したという疑惑で大きな問題になってしまった。これを脳科学から考えると、どういうことになるだろうか。

模倣する、元にする、参考にする、パクるなど、いずれも程度の差はあれ、元のものをなんらかの形で真似て、新しい価値を生み出すということだ。小説においては、シェイクスピアですらギリシャ神話を元ネタに使うことも多かったようだ。

文化が年代を重ねれば、完全にオリジナルな作品を作り出すのは非常に難しくなる。結局、昔の物を現代の理解でリメイクしていく、あるいは改良していくことになる。模倣というのはすべてのジャンルで起こることである。

それが意識的か意識的でないかは問題となるが、人間は全くの無から新しいものを作り出すことはできない。自分の脳にしまい込まれた記憶、経験などを再構築して、新しい物を作っていると思っているだけなのかもしれない。

真似る仕組みは重要なコミュニケーション

脳にはミラー細胞という特殊な神経細胞がある。これは例えば相手がお腹を抱えて痛そうにしていれば、それを見るだけで自分もお腹が痛くなってしまうような気持ちになる。これはミラー細胞の働きである。相手の動作や態度を見るだけで、どんな気持ちなのか理解できる機能であるから、思いやりやコミュニケーションには非常に重要なものとなる。

また、真似ることで相手の技術を学ぶことができる。脳の中に同じように機能する脳のネットワークを作り出すことで、技術の伝承が早くできることになる。つまり、脳は真似るという特殊な機能を持っていて、それが人間の進化にも大きく影響してきたのだ。

素早い進化のために

人の技術を真似る、悪くいえばパクってしまうというのは、相手が費やした時間やお金を、一瞬にしてただで手に入れることになる。芸術やデザインの世界では、それは「著作権を侵す」ということになる。脳科学から見ると「脳の機能を使っただけ」だとしても、もちろん許されるはずはない。

しかし、オリジナルのデザインを期限までに考えるために、どこからか元のデザインを持ってきて、それに少し変化を加えて新たな作品を作るということは、脳科学的には合理的である。例えば科学研究も、元になるアイデアは必ず存在し、それを真似ながら新しい技術革命を起こしてきた。ただし科学の場合、ほんの少しの改良や発見が画期的な成果に結びつく。そして、そのほんの少しの改良をすることが、非常に大変な作業となっているわけだ。

真似を元にして、進歩や変化のチャンスを得ていることになる。技術革命や画期的な研究には、どうしても必要なものなのである。同じように真似るという視点で大雑把に言えば同じように見えるが、評価と結果は大きく異なってくる。デザインの世界では「上手に真似た」とは誰も言わない。

真似る脳を、うまく使っていくこと

ここまで述べてきたように、真似るという行為は時間とお金の大きな節約となり、そこから新しいものを作り出すことができる。脳が何かを見て「いいな」とか「すごい」と思う瞬間は、それが新しいアイデアや仕事のヒントになる場合が多い。

脳の中でそれを真似ようと判断するということは、それだけオリジナルに魅力があるということでもある。逆に、その魅力を発見できるだけで優れた脳と言えることもあるだろう。真似ることを否定的に考えると、進歩が遅くなってしまうし、新しい商品も生み出せなくなる。

iPhoneは全く新しい商品として世に送り出されたが、そのアイデアの元になるような商品は昔、シャープでも作っていた。ただ技術が追いついていないために、画面のタッチだけで細かな機能を作り出せないでいたのだ。

真似ることは脳が持つ重要な機能である。それをうまく使って、オリジナルのように見えるものを作り出すしかない。

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プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。