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時間を味方につける

2016.08.29

努力すればイチローになれるか

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

成長 競争

野球のイチロー選手がメジャーリーグでの3000本安打を達成した。私たちは、ああいった選手を見て「天才だから」と、自分たちには関係がないと思ってしまうものだ。

ところが、最近の研究では「いわゆる天才はいない」という。生まれつき頭の良い脳や才能がある脳というものはないというのだ。神童と呼ばれるようなことはあるにしても、まったく努力なく、そんな脳になることはできないとされる。しかし、努力をすれば誰でも天才になれるというわけでもない。

少なくとも、脳は鍛えることで変化をしていくことがわかっている。では、がんばれば私たちはイチローになれるのだろうか。

努力による脳の変化

努力で変わっていくという脳の変化には、いろいろな面がある。

一つは、脳の神経の細胞が増えるということ。子どもであれば余分な神経細胞が刈り込まれて、必要な神経細胞だけになっていくことになる。また、鍛えたプロの脳になると、脳の興奮する場所が変わってくることもわかっている。専門性を強くすると脳の機能自体が変化するということだろう。

究極的には、神経細胞そのものが変化して、数で機能を果たすのではなく、神経細胞が特別な機能を果たす場合もある。総論的に“天才脳”と呼ばれるが、実際にはこういったいろいろな脳の変化がまとまって専門的な脳になるということである。

鍛えれば誰でも天才になれるのか

生まれ持っての天才はいないということになると、努力すれば誰でもその域に到達できるのでは、と誤解をしてしまうが、二つの問題がある。

一つには、こういった研究の対象となる人自体が、ある程度限られてしまうということだ。例えば、楽器を演奏できる人の中で、さらに1万時間の練習を重ねて超一流になるということが言われているが、そのレベルに達していない脳では、鍛えても無理である。

大雑把に考えれば、スポーツに向いているのか、楽器演奏に向いているのか、それぞれにある程度は脳の素質がある。そこを見抜いた上での努力が必要になってくる。さらに、努力をしたと言っても一般的な努力ではプロの脳になることはできない。限界を突破できるレベルの努力が必要となる。

また努力をする場合、スポーツ選手であれば、日本の代表になりたいと思うのと、オリンピックに出場して金メダルを取りたいと思うのとでは、努力レベルは変わってしまう。世界一を目指していない人は、いくらがんばっても世界一レベルにはなれない。最初の努力目標が違ってしまうと、いくら努力しても世界レベルには到達しない。

努力次第で登り詰める可能性はあるが、平等ではない

従来は、なんでも努力すれば一流になれる、できないのは努力が足りない、そんな見方をされてきた。脳科学から見れば、それはある意味正しく、ある意味間違っていることになる。

可能性を秘めていることは間違いないが、上にも記したように、単に努力するというだけで成功することはできない。努力目標の設定によって脳がそのレベルを決めてしまう危険があるし、自分の脳が何に向いているのか、どこかで見極めも必要になる。

さらに、努力をスタートする年齢によって結果も違ってくる。身も蓋もないが、可能な限り若いときに専門性の高い練習を重ねることが天才脳に近づく方法である。しかし、それには様々な環境も影響してきてしまう。

年を取ってからでも天才になる可能性はある?

50歳を過ぎてからピアノを習っても超一流のピアニストにはなれないが、人に聴かせるレベルのピアノは弾けるようになるはずだ。

子供のときのピアノ練習に比べれば、脳の変化量が違ったり、脳の鍛えられる場所が変わってくるので、同じ時間の努力をしても名演奏家にはなれない。しかし、ピアノを弾けるようにはなる。つまり脳は年齢に関係なく、努力によって変化させることは可能だ。

現在の脳科学としては、変化は才能ではなく努力によって生まれるものだ。しかし、競争の世界で結果を出すためには、その努力をいつ、どのように行うか──という過程についても意識しなければならない。

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「自分の子には才能がない」「自分の会社の社員には資質が足りない」といったことを口にする人も多いだろう。そして才能や資質は天性のものであり、それを持ち得る人間だけが努力によって開花すると。ところが、そうではないという研究をまとめた一冊の本がある。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。