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人を組み替える

2015.08.19

途中でやめる「8割仕事術」

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

成長戦略 競争

テニスの錦織の試合を見ていると、準決勝くらいで力尽きてしまうケースが多い。その前の試合を楽に勝っていても、急に別人のようになって負けてしまったりする。もちろん体力的な問題や怪我といったトラブルの影響があるかもしれないが、それとは別の要因もあるかもしれない。

人はある目的に向かっているときは気力も意欲も持続しているが、それを完遂したとき、一気にやる気を失ってしまい、次の仕事への意欲がなかなか出てこなくなる。そこには脳の重要な働きが影響している。

もう少し長い視点で見ても、若くして成功すると、その後の人生に目標を持てなくなってしまう場合が多い。オリンピックで10代のときに金メダルを取ったり、若い時に大成功したアーティストなどにそういった傾向がある。これらの原因は、意欲に関係する脳内ドーパミンの枯渇である。やり遂げ、成功を得ることで脳内ドーパミンが失われ、その後の意欲が湧かなくなるのだ。

仕事を途中でやめる勇気

これだけはやってしまおう、あるいは今日中にこれを終えようと思って懸命に仕事をした翌日は、次の仕事に集中できるようになるまでに時間がかかってしまう。やり遂げた後の疲労感が強く出たり、意欲が湧かないからだ。

“やる気物質”である脳内ドーパミンを持続的に出すには工夫が必要だ。例えば、今日中に終わりそうな仕事であっても意識的に途中でやめてしまうと良い。残り2割くらいで仕事をやめる勇気が必要になるが、そうすれば翌日もまだ意欲は持続していて、朝からすんなり仕事に入れる。ドーパミンを枯渇させないことこそが「8割仕事術」というものだ。

意識して負ける勇気

テニスの錦織の試合を考えれば、4大大会で優勝するには、その前の大会は適当に途中で負けていく必要があるのではないか。メジャー大会の前の大会で全力を出し切ってしまえば、気力もなかなか湧いてこないというわけだ。勇気ある敗退こそ、メジャーで優勝する秘訣かもしれない。全戦全勝でいく必要はないのだ。

仕事もまったく同じこと。全部うまくやろうとするのは、なかなか難しい。大きな仕事をしたいなら、別な仕事で力を抜く、どこかで放り投げてしまう。そんな勇気が必要だろう。

秋元康氏の名言に、「10戦10勝を目指すのではなく、『5勝4敗1引き分け』でいい。そう思ったら自分自身がとても楽になりました」というものがある。まさに負けることが大勝利への道というわけだ。多くの仕事を手がける人は、そういった仕事術を無意識のうちに身につけている。

やり遂げる気持ちが危ない

一気に仕事をやり遂げることは、長い目で見ればけっしてプラスにはならない。短期決戦型であればいいが、人生は長くなった。男性の平均寿命も80歳を超えてきた。いま60歳なら、実際にはあと20年以上の人生がある。長い人生の戦いで考えるなら、継続して仕事への意欲を保つことが重要になる。

短期的にも8割仕事術は有効であるが、長い人生全体を考えても、これで終わったという瞬間を持たないことである。元々、人間の脳にはそういった意欲を持続させる仕組みができているのだが、仕事に区切りがつくことで達成感という快感を得てしまうと、なかなか次の意欲を作り出せなくなってしまう。やり遂げることに危険があるのだ。

負けること、やめてしまうこと──実はこれが脳にとって、最大の意欲を作り出す仕組みとも言える。

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睡眠時間が短くなると、運転など視覚関連の仕事でミスが多くなることがわかっている。だから仕事のクオリティーを維持するためには、最低4時間半から6時間の睡眠が必要になる。睡眠が脳を休ませるというだけでなく、記憶の定着化、つまり忘れない記憶に変化させているという考え方は、わりと最近の考え方だ。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。