• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

時間を味方につける

2016.07.15

社長をなかなか辞められない理由

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

モチベーション リーダー

60歳になったら現役から身を引いて、若い人に経営を任せよう。55歳くらいになってくると、そんな思いになるものだ。特に会社が安定して、このまま次の世代に引き渡しても大丈夫だろうと思えるなら、自分の老後のことが頭をよぎる。

ところが実際に60歳になって、まだ若い頃と同じような決断力もあり、アイデアもいろいろ出てくると本人が感じている場合、あれだけ道を譲ろうと思っていたにもかかわらず、現役のままで仕事を続けようと思うようになる。これもまた、脳の報酬系による働きなのだ。

満足できない脳

欲望に「キリ」というものがあれば、今の社会は進化を止め、同じことを繰り返していくはずである。しかし、それでは地球規模の変化に対応できず、どんな組織も個人も存続していくことは難しい。

例外があるとすれば、菓子などの老舗かもしれない。何百年と同じことを継続して存在しているように見える。しかし、同じことを繰り返しているように見えても、販売方法などを戦略的に変化させてきたからこそ継承できているはずだ。やはり変化は求められるのだ。

私たちの脳に「もうこれでいい」と思う時がないのは、脳が永遠に満足できない仕組みを持っているからだ。脳内物質であるドーパミンによって作り出された欲望は、常に今まで以上の刺激を受けないと満足できなくなる。

新しい商品を開発し、売り上げを伸ばし、企業を拡大しても、常に右肩上がりの大きな刺激でないと満足できない。社長業をもうこれで辞めにしようと思っても、脳の中では満足していないのだ。

次の世代に引き渡したのでは達成できないと思えば、やはり社長を続けていくしかない。オーナー社長が多くの場合、最終的に健康問題で働けなくなるまで仕事を続けるのは、もちろん本人に能力があるからという理由もあるだろうが、満たされないまま引退したくないという欲求も強い。

次世代が台頭しないと変化はできないか

しかし、社長が仕事を続けていくと、革新的な変化を起こしにくいという問題も起こる。

脳は二つの方法で目の前の出来事に対処している。経験したことと未経験のことだ。新しい体験では右脳を使い、慣れてくると左脳に変化していく。年齢を重ねると新しい経験に拒絶的になるのは、右脳の働きが落ちてきた証拠である。

未経験であるにもかかわらず、それを自分が今までにやったことと結びつける傾向もある。さらにセロトニンが加齢によって減少していくので、新しいことに不安を感じやすくなり、結果として拒絶的になってしまう。

それは、責任ある決断をしなければいけない立場において、積極的な決断ができないということになる。若い経営者の場合、セロトニンの量も多いので大胆な決断につながっていく。高齢の社長が辞めないときは、そういったリスクを伴っているのだ。

社長が辞める時期

オーナー社長が年齢に関係なく現役でいることは、本人の脳にとっては仕事が刺激になって良いかもしれないが、会社組織にとっては次第に問題となっていく。大手企業であれば定年制が設けられ、社長業を続けることができない。それは長期政権ではダメになるということを経験してきた故の制度である。

しかしながら、長寿で健康になってきた現代において60歳、あるいは65歳での社長定年という設定にも問題があるだろう。脳の若さを保っている社長であれば、70歳を過ぎても問題はないのかもしれない。ただし、脳の若さを計測する信頼度の高い尺度は存在しない。

やはり会社を守るためには、ある時期における社長の勇退こそが、最後の大きな決断となるだろう。

併せて読みたい、編集部からのおすすめ記事
“はまる”脳を老化対策に活かせ

私たちはある特定の行為が好きになると、それを自分が繰り返してやっているとは思わなくなってしまう。仕事が好きでたまらないということであれば、それはプラスに働く。だからというわけではないが、仕事に依存しているとはなかなか考えないだろう。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。