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人を組み替える

2016.06.27

テレビ会議の向き不向き

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

コミュニケーション 感情

ある大手企業の本社を見学させていただいた。最新の機器や働きやすそうなスペースに驚かされた。しかし一点、おやっと思うところがあった。週に一回、傘下にある世界中の会社を含めて会議を行うという。もちろん、社内の人間を全員参加させられるスペースはないし、海外の社員はネット経由によるものだ。映像を通じて参加するしかないという事情がある。

テレビ会議は出張経費削減にもなるし、会社にとっては有効な手段だととらえられている。しかし、そこには落とし穴もある。自分たちが合理的だと思って行っている当たり前の習慣を見直すことは、社員との新しい関係を築くきっかけになるだろう。

例えば、少人数のテレビ会議であれば、それぞれが意見を言える。しかし大人数であれば、そうはいかない。社員はただカリスマ社長を映像で見るということになる。とても意見を言えるような場ではない。社長が自分の意見を部下に伝えるには良い形式であるが、現場からの声を拾うことはできない。

テレビ会議の問題に気が付いた社長

日立製作所の中西宏明会長は、以前いた会社のテレビ会議で、従業員からの反応が全くなかったことを反省し、経営陣に世界中の営業所を回らせて直接対話する「タウンホールミーティング」を行ったところ、現場の意識が全く変わってきたという。日立の社長になったとき、同じように各事業所に出かけていき、1時間の質疑応答によって従業員の意識改革をしたという。

大人数でのテレビ会議は形式が重要な場合にするものであり、現場の声を吸い上げるためのものではない。そのことに早く気が付き行動したことは、やはり直接対話のすばらしさを理解していたということだろう。

なぜ直接対話でなければいけないか

ネットがこれだけ普及すると、人と直接会う機会が減るのではと考えてしまうが、決してそんなことはない。結局、最後は人に会い、直接話し合う必要がある。特に営業などでは、まず直接会ってもらえるかどうかが仕事の成功の鍵になってくる。

私たちが人と話をするとき、脳は非常に刺激を受けている。相手の表情、身振り、目線、声の強さなど、相手に会うということで、単に話をするだけではなく、相手の熱意や思考を感じとることができる。テレビ会議の世界では、やはり相手の心を感じるほどの情報は汲み取れない。対面することで五感を使い、相手を解析できるのだ。

さらに会話はタイミングが非常に重要であり、相手の話が終わりそうだと判断して、自分の脳で作り出した言葉を使うという複雑な行動を、ほぼ無意識のレベルで行っている。的確な会話ができるのは、脳のタイミングを測る機能がうまく作用している証拠である。それが狂ってしまうと、不快な相手という判断をされてしまう。気持ち良く会話ができること自体、仕事がうまくいくチャンスにもなる。テレビ会議では、とてもそこまで望めない。

テレビ会議が教えてくれる、人に会う大切さ

AIなどが進んでくれば、医者も機械任せで病気の診断が可能になる。それはもうすぐ実現するだろう。ただし基本的には、医者と患者が対面しなければ、お互いに満足できる診療はできない。

物を買うには、人と対面せずにネットで購入するのが普通のことになっている。しかし、すべてがそれで済んでいるわけではない。八百屋さんでちょっとした会話があれば、野菜にストーリーが生まれ、味が違ってくるものだ。おいしい寿司も、なじみの店に足を運び、大将の軽妙な会話とともに味わってこそ味わいが出てくる。

むしろIT化が進めば進むほど、対面での会話の重要性が認識されるのではないだろうか。

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労働(仕事)の中核にあるものは作業ではなく感情である。従って、様々な仕事が「自動化」されていくと、最後は感情だけが残る(剥き出しになる)ということになる。感情労働それ自体が仕事そのものになる時代になるだろう。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。