• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

人を組み替える

2016.05.27

なぜ正しいことをしたいのか

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

感情 信用

政治資金の私的流用などのニュースを見ると、そんなことをすれば大きな問題になることは分かっていそうなものを、どうして頭のいい人がそんな馬鹿なことをするのか理解できないと思ってしまう。

芸能人が不倫などすれば、SNSなどで一斉攻撃を受けてしまう時代になった。そこには正義感があり、正しいことをしなければいけない、反社会的な行動は許せないという非常に強い見方がある。

正当化したい脳

高級ブランドバッグを購入すれば、その理由をあとから考えて自分を納得させている。高いけど長持ちするから、買っても損はしないとか。衝動買いしたあとに、後付けで何らかの購買理由を自分で考え出し、自己正当化をする。

つまり自分の行動は、“あとの考え方”に影響してくるのだ。社会心理学者フェスティンガーによれば、自分の行動に矛盾があるとき、人はその緊張を低減させて自己の考えを適応させようとするという。

政治資金で私物を買っても、その理由の後付けで自分なりに納得感を得ることで、精神的なストレスを消しているというわけだ。それができないときには、無視あるいは逃避して回避していく。つまり人は自分が正しいと思えないと、行動できないというわけだ。

他人を不道徳なくらいに強く口汚く非難して、非難している対象よりも不道徳な感じになってしまっても、自分の行動にもそれなりの理由があるという後付けによって矛盾を感じないでいる。結局、自分だけは正しいということで納得しているのだ。

喫煙がからだに悪いことは誰でも理解している。しかし「ヘビースモーカーでも長生きしている」「ストレスを解消するには喫煙しかない」などと自分なりの行動理由をつけて、喫煙がからだに悪いというストレスを回避しているのだ。

さらに「自分は長生きしたくないから喫煙する」というような、逃げの言葉を発することもある。診察室では患者さんのこういった行動や発言をよく経験するが、結局は自分の行動の正当性を保ちたいということが基本になっている。

正しい生き方とはなにか

昔の作家は破天荒であり、家庭崩壊、不倫など何でもあったが、それが間違った生き方だとは非難されず、世間もそんな自由な生き方ができる作家をむしろ羨望の眼差しで見ていた。

しかし、現代では不道徳、反社会的行動は非常に非難されやすく、SNSなどで誰でも簡単に非難しやすい環境にもなった。正しい行動、好まれる行動とは、現在は道徳的で社会のルールに沿ったものと思われるが、それは時代とともに変化していくものでもある。

結局、自分自身の中では、自分らしい生き方ができることが正しいということなのだろうが、世間がそれを受け入れにくくなってしまった。あるいは「正しい」の定義が非常に狭くなっているのが現代社会ではないだろうか。

価値観の多様性があってこそ人間は進化していくものであるが、ネット社会になって皮肉にも価値観の多様性が失われてしまい、同じ価値観であることが重要であると考えやすくなってしまったように見える。自由な生き方ができなくなってきたのが、ネット社会と言えるかもしれない。

正しいことをしているという意識

どんな行動を取ったにしても、どこかに説明可能な理由を求めてしまう。おいしい料理を食べても、「最近、うまいものを食べていなかったから」「おいしい料理を作るには、おいしいものを食べないと」というような理解可能で正しいと思える理由が必要なのだ。

人の行動は「世間の通り」に合ったものが必要だと考える。デパートの地下の食品売り場で味見をすれば、味見したのだから買わないといけないという「世間の通り」を実現させようとして、購買という行動を起こすのだ。

そんな時に脳の中では、もちろん報酬系のドーパミンの分泌が起きているはずだ。自分の行動が「世間の通り」を満足させたときに、ドーパミンの分泌も起きて、納得と満足感を得ている。正しいことの定義自体が時代と共に変化しているにもかかわらず、私たちは常に正しいことをやりたいと思いながら行動しているのだ。

併せて読みたい、編集部からのおすすめ記事
浮気の虫は抑えることができるものか──浮気の脳科学

人間の欲望のままにまかせれば、暴力や犯罪が起きてしまい社会が成り立たない。だから先進国では一夫一婦制という結論に達しているということだろう。そんなことは十分にわかっていても、浮気は起きてしまう。社会的なリスクも高いはずなのに、なぜ浮気をしてしまうのだろうか。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。