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人を組み替える

2016.02.22

“はまる”脳を老化対策に活かせ

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

成長戦略 モチベーション

私たちはある特定の行為が好きになると、それを自分が繰り返してやっているとは思わなくなってしまう。ましてや依存しているという意識はなかなか持てない。喫煙など典型的であろう。「たばこはいつでもやめられるよ」と思って毎日吸っているが、それがニコチン依存症という病気だとは思ってもいない。

仕事が好きでたまらないということであれば、それはプラスに働く。だからというわけではないが、仕事に依存しているとはなかなか考えないだろう。このように日常の生活の中では、自分が何かに依存しているという意識は少ないものだ。これが薬物依存であれば、犯罪という意識もある。そして、わかってはいるがそこから抜け出すことは難しい。

さて、依存という言葉はマイナスなイメージで語られることがほとんどだが、これは脳に作られた学習のための機能を指すものである。

薬物依存などについての脳の研究で、依存していくことと脳の報酬系に関係ある脳内物質のドーパミンとのかかわりがわかっている。依存しやすい薬物で実験していくと、同じ薬物の量では満足できなくなって、次第に要求する量が多くなってしまう。

これは脳内のドーパミンがたくさん出ないと満足できないということに影響される。ドーパミンは何かを期待しているときにもっとも分泌され、終わってしまうとその濃度が下がってしまうことがわかっている。単純にドーパミンが出ていれば満足感があるというわけではない。

最近の研究では、ドーパミンの分泌されるタイミングが脳の回路を作るのに重要であることもわかってきた。何かをやったあとの報酬が遅れてしまうと、満足感にはならず神経回路ができなくなってしまう。つまり褒めるタイミングには重要な意味があるのだ。

“はまり”は必要なのか

こういった依存のメカニズムは、私たちにとって何かメリットがあるのだろうか。

報酬系と呼ばれる脳の仕組みは、実は学習をしていくための機能とも言われている。何かを学んで、あるレベルで満足してしまえば、進歩はなくなってしまう。人間の脳は結局、死ぬまで努力していく(あるいはさせていく)仕組みになっているのだ。

金儲けも同じことで、1億円儲かっても、もっと欲しいと思うのは、脳内ドーパミンが1億円では満足できなくなってしまうからだ。その仕組みがあるからこそ、もっと努力しようと思えるのだ。

依存と努力は微妙な関係と言えるであろう。むろん、依存はドーパミンだけでは説明できない。しかし“はまる”ことは、良い面から見れば、努力を続けさせる仕組みとも言えるだろう。

抜け出せない、はまりと努力

ギャンブル依存、薬物依存であろうと一度はまってしまうと、そこからなかなか抜け出すことはできない。脳の神経回路自体が変化していくからだ。ギャンブルや薬物よりもっと楽しいこと、もっと満足度が高い(もちろん反社会的でない)ことが見つかれば、そこから抜け出せるはずだ。しかし、変化してしまった脳の神経回路はそれがなかなかできない。

私たちにとって、仕事や何かを学んでいくということが、はまるまで行かなくとも、ある種の快感となっているならば無理なく努力ができる。それは、うまく脳の報酬系が仕事と結びつき、機能している場合だ。しかし、年齢と共にいくら好きな仕事でも「意欲」が下がってきてしまう。

生涯続ける方法

若い時であれば仕事など、あることを成し遂げてしまった後でも、さらに上を目指すための努力が無理なくできたはずだ。しかし、ドーパミンの濃度が下がってくると、意欲の持続が難しくなる。そうなってしまうと努力が続けられないことになる。

その努力を年齢に関係なく続けるには、ある程度の年齢になったら小刻みな目標設定にすることだ。若いときのように大きな目標ではなく、実現可能な小さな目標で良い。それを達成していくことで、ドーパミン濃度をある程度、保つことができる。

「まだ、これができた」と思えれば、「まだ続けていこう」という気持ちになれる。もちろん、実際に褒めてくれる人がいればもっと良い。褒めてくれるのが、社員であろうと、家族であろうと、何歳になっても褒められることで脳は変わっていけるのだ。

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人間がもっともやる気がでる確率は「50%」だ。あまりに目標が低ければ簡単に実現できてしまい、いつでもできると思えば、やる気は出てこない。また極端に目標が高いと最初から諦めてしまい、真剣にやろうとしないし、むろん意欲もわかない。

プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。