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カネを活かす

2015.04.13

マイナンバー制度と徴税の関係

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

制度 法律 IT

前回、多少問題があると思われるマイナンバー制度について整理してみました。今回はマイナンバー制度と徴税の関係などを、少し掘り下げていきます。

脱税防止のためのマイナンバー制度

脱税防止の場面で、マイナンバー制度はどのように機能するのでしょうか。各自治体で賦課課税を行っている個人住民税の場合を考えてみましょう。

現在、各自治体は住民税賦課業務において、国税庁・税務署、企業、年金保険者、住民から提出された確定申告書、勤務先からの給与支払報告書、年金支払報告書などから、その申告書の氏名、住所などの情報に基づいて名寄せを行い、住民税賦課にあたって必要な情報を把握しています。

この名寄せ作業において、結婚などによる氏名の変更、引越しによる住所変更、漢字の字形の差異(例:「高」と「髙」の字形の差異)、住所の記載内容の違い(例:「○丁目○番○号」と「○-○-○」の差異)などによって、同一人であることの識別に多大な作業時間がかかるようです。マイナンバー制度導入により、各機関から提出される申告書に個人番号が付記されることから、各申告書が同一人であることの識別作業が容易にできることになります。その点においてはマイナンバー制度の導入により、住民税の支払いを怠っている個人などについて、その所得の把握がかなり容易にできるようになるものと思われます。

ただし脱税防止に関していえば、単に番号制を導入したからといって個人の正確な所得情報が把握できるというかというと、そのような万能の特効薬ではないとも考えられます。

例えば、国税当局が正確に個人の所得情報を把握するには、必要な資料や情報の提出を個人に求めることのできる、資料情報制度の充実に向けた制度変更が必要となります。

また、給与所得者の場合、国および地方自治体が給与の支払内容を把握するためには、個人が番号を勤務先企業に提出し、企業は番号付きの給与情報を所得税・住民税の源泉徴収票に国・地方に提出することによって、税務当局が個人の給与所得を正確に把握できることになります。その際、個人がマイナンバーを抵抗なく企業側に提示するかについては、マイナンバー制度の持つ危険性もあり、法的強制力は必要となってくるものと思われます。

また所得税に関して政府は、「扶養控除の申告などで不適切な案件があぶり出せる利点がある」としていますが、マイナンバー制は個人や法人のお金の出入りを照合するシステムではないので、自営業者や農家など個人事業主の「正確な所得捕捉」には現実的には難しいのではないかと思われます。そこで「正確な所得の捕捉」のために「共通番号(マイナンバー)の利用を金融や医療分野にも拡大させる共通番号法改正案を閣議決定した」のだと推測されます。

ただし、今回の閣議決定について問題なのは、納税や社会保障受給の公平性が高まる可能性はあるにしても、利用者(個人)側のメリットが見当たらないというところです。何か便利になることがあるのかどうか不透明であることは否めません。それどころか、課税の公平性や脱税防止を盾に、政府が個人の財布の中身をいつでも覗ける制度をつくろうとしているのではないかとの懸念も生じてきます。

最後に

共通番号制は「諸刃の剣」であり、一面では公平・公正な社会の実現、国民生活の利便性の向上、行政の効率化というようなメリットが考えられますが、現実的に多くのデメリットも内在しています。個人情報の漏洩や不正利用などの懸念はあるとしても、個人情報が際限なく行政に集中するような状況は、国民の一人ひとりの人権やプライバシー権からみて、とても許されるものとは言えません。

またマイナンバー制度は、その法律自体がプライバシー権を保障した憲法13条に抵触するという根強い声もあります。日弁連は3月、「個人データを生涯不変の一つの背番号で管理し、名寄せや統合して利用することを可能にする制度で、最も枢要な人権の一つのプライバシー権が危機にひんする」と反対声明を出しています。

行政サイドからみると、マイナンバー制度は国民に納税や社会保険などの義務を履行させるために有用なデータベースであり、この仕組みを拡大して最大限に利用しようとするのは「為政者の常」ということなのかもしれません。しかし、共通番号制が幾度も国会で議論を重ねられながら導入できなかったのは、情報管理に対する行政への国民不審が根強くあるからと思われます。

2016年1月からの利用開始前にもかかわらず、利用範囲を拡大しようとしているのは、明らかに安倍政権の暴走と言わざるを得ません。法案が成立している状況で実現すべきマイナンバー制度は、単なる行政の効率化のための「マイナンバー」、国民に義務を課すための「マイナンバー」ではなく、国民の目線に立ち、生活者の利便性を高めるための「マイナンバー」でなければならないと思います。

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その導入にあたってはなかなか国民の理解が得られず、何度も廃案になってきた経緯があります。行政運営の効率化が求められるのは当然のことですが、利便性と危険性も十分考慮に入れたうえで、マイナンバー制度(共通番号制)のあり方を検討していかなければいけないと思います。

プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。