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カネを活かす

2015.04.09

マイナンバー制度は国民に何をもたらすか

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

制度 法律 危機管理

3月10日の毎日新聞によると政府は10日、年金や納税の情報を一元的に管理する共通番号(マイナンバー)の利用を、金融や医療分野にも拡大させる共通番号法改正案を閣議決定したとのことです。マイナンバー制度は、2016年1月からの利用開始が予定されているのですが、開始前にもかかわらず利用範囲を拡大しようとしているのは、この制度が国民生活に及ぼす影響を考えると、はなはだ拙速な気がします。

もともと共通番号制(マイナンバー制度)は、国民のプライバシー権の侵害が懸念されるため、その導入にあたってはなかなか国民の理解が得られず、何度も廃案になってきた経緯があります。

IT化が進む中、最先端の情報技術を利用した行政運営の効率化が求められるのは当然のことですが、マイナンバー制度の利用により得られる国民生活のうえの利便性という一面と、行政による情報の集中管理が持つ危険性(情報の漏洩、不正利用)という面も十分考慮に入れたうえで、マイナンバー制度(共通番号制)のあり方を検討していかなければいけないと思います。

マイナンバー制度とは

マイナンバー制度とは、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」および関連法に基づく制度(通称:マイナンバー制度)で、住民票を有するすべての方(日本国民と日本に滞在する外国人)に対して12桁の番号を割り当てます。社会保障、税、災害対策の分野に限定して、氏名や住所、生年月日、所得、税金、年金などの複数の機関に存在する個人の情報を紐付け、各機関での情報連携を可能とする制度で、その番号で一元管理する「共通番号制度」となります。

同法案は2013年5月24日に成立し、2015年10月より国民に対し、氏名・住所・生年月日・性別・個人番号が記載された紙の「通知カード」が送付され、2016年1月の個人番号の利用開始、2017年1月の国機関での情報連携の開始、2017年7月の自治体を含めた情報連携の開始に向けて、システム改修、業務運用の見直しなどが実施される予定になっています。

具体的には、次のような場面でマイナンバーが使われることになります。

(1)社会保障(年金、労働、医療、福祉)
・年金の資格取得や確認、給付
・雇用保険の資格取得や確認、給付
・ハローワークの事務
・医療分野の保険料徴収
・福祉分野の給付、生活保護
・児童手当の現況届に記載

(2)税
・税務当局に提出する確定申告書、届出書、各種調書などに記載
・税務当局の内部事務
・勤務先が税務当局に提出する源泉徴収票に記載(従業員やその扶養家族の番号)

(3)災害対策
・被災者生活再建支援金の支給
・被災者台帳の作成事務

また、上記「通知カード」を自治体の窓口に持ち込み、新たに手続きすることで、身分証明書として利用可能な顔写真つきのICカード「個人番号カード」に切り替えることもできるそうです。

政府はこのマイナンバー制度の導入により、「行政運営の効率化」「給付と負担の適切な関係の維持」が図られるとしており、各個人の所得水準や年金、医療などの受給実態を正確に把握し、効率的な社会保障給付を実現することができるとしています。さらにこの制度によって、行政事務の簡素化、効率化や、生活保護の不正受給や脱税の防止効果が期待されるとしています。

国民にとってのマイナンバー制度によるメリット

政府はマイナンバー制度の導入効果として、以下のような点を挙げています。

1つ目は、所得や他の行政サービスの受給状況を把握しやすくなるため、負担を不当に免れることや給付を不正に受けることを防止するとともに、本当に困っている方にきめ細かな支援を行えるようになること。(公平・公正な社会の実現)

2つ目は、添付書類の削減など、行政手続きが簡素化され、国民の負担が軽減されること。また、行政機関が持っている自分の情報を確認したり、行政機関から様々なサービスのお知らせを受け取ったりできるようになること。(国民の利便性の向上)

3つ目は、行政機関や地方公共団体などで、様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力が大幅に削減されること。複数の業務の間での連携が進み、作業の重複などの無駄が削減されるようになること。(行政の効率化)

2つ目の「国民の利便性の向上」という面からは、平成29年1月から「個人情報等記録開示システム」が稼働することが予定されています。
・マイナンバーを含む自分の個人情報をいつ、誰が、なぜ提供したかを確認できる
・行政機関などが持っている自分の個人情報の内容を確認できる
・行政機関などから一人一人に合った行政サービスなどのお知らせが来る
・行政機関などへの手続きを一度で済ませることができる

このシステムによって、自分の年金や税金の払い込みの記録をチェックしたり、自分の個人情報がいつ何のために誰から誰に提供されたかなどをインターネット上で確認できることになり、「消えた年金記録問題」のような事態が起こらないように自らチェックできるということです。

そして、各行政機関がマイナンバーを介して個人の情報をやりとりできるようになるので、行政機関への手続きが一元化され、引っ越しなどの手続きの際に必要な添付書類が不要になるということです。

また税、社会保障に関しては、マイナンバーの導入により一人ひとりの所得が正確に分かるようになると、その所得に対して税の控除と社会保障給付を組み合わせ、いろいろな不公平を解消するための対策が取れます。現在、消費税率アップにむけて議論されている低所得者層への対策としては、すべての層に恩恵が及ぶ軽減税率ではなく、低所得者層には一定額を給付することによって、増税に対抗する「給付付き税額控除(税額控除と手当給付を組み合わせた制度。算出された税額が控除額より多い場合は税額控除、少ない場合は給付を受ける)」を採用することにより、「本当に困っている方にきめ細かな支援を行える」ようになるのではないかと思われます。

国民にとってマイナンバー制のデメリット

そしてマイナンバー制度については、いくつかの懸念が指摘されています。

・個人番号を用いた個人情報の追跡・名寄せ・突合が行われ、集積・集約された個人情報が外部に漏洩するのではないかといった懸念
・個人番号の不正利用(他人の個人番号を用いた成りすましなど)により、財産その他の被害を負うのではないかといった懸念
・国家により、個人の様々な個人情報が個人番号をキーに名寄せ・突合されて一元管理されるのではないかといった懸念

これらの懸念に関して衆院内閣委員会では、パソコンを持って高齢者宅に上がり込み、「代わりに手続きをしてあげる」と言ってICカードを盗んで悪用する例が挙げられ、内閣官房の向井治紀審議官は「そのような不正、詐欺事件というのは起こりうるのかなという気がする」と答弁しており、懸念の存在を否定できない状況です。またその他にも、本人に成りすまして失業手当の給付を受けたり、番号が流出することで病歴や収入を知られてしまう恐れもあります。

既に早くから社会保障番号制度を導入しているアメリカにおいては、不法移民が職を得るために番号を盗んだり、死んだ家族に成りすまして番号を使い続けることで不正に年金を受け取るといったケースや、ID詐欺が多く、全米で年間1,000万人が被害に遭っているといわれています。さらに、ドイツでは番号制を税分野に限定することで、なりすまし犯罪に利用されることを防いでいるというように、個人情報に関する世界の潮流は明らかに日本の共通番号制の発想とは逆の流れとなり、国家管理から離れていっているのが現実です。

そして行政からの情報漏洩については、以下のような犯罪で公務員が起訴、逮捕されています。

・千葉県船橋市の住民票情報を探偵業者に漏らし、加重収賄と地方公務員法(守秘義務)違反(2013年2月25日 産経新聞)
・県警警察官による車両情報漏えい事件 名古屋地裁(2013年2月28日 読売新聞)
・捜査情報漏えい、元兵庫県警警部補を略式起訴(2013年2月27日 読売新聞)
・税務調査で資料漏洩容疑、元税務署事務官を逮捕(2013年2月6日 東京地検)

個人情報が漏洩した場合、情報量に比例して個人が受ける被害も拡がる可能性が高く、また個人にとっては取り返しのつかない被害になることも予想されます。そして過去の漏洩事件を振り返ると、単に罰則の強化だけでは再発防止は不可能で、結果的に損害を最小にするためには、行政機関が保有する情報をできるだけ限定したものにする必要があると思われます。

利用範囲は当面、社会保障、税、災害対策の公的な三分野に限られていますが、法案には「行政分野以外での利用の可能性を考慮する」とあり、将来的に民間分野での利用にも拡大する可能性について言及しています。民間企業が個人情報をマッチングすると、例えばネット通販で何かを購入することによって、収入や生活実態まで把握されてしまう可能性も考えられないことではありません。情報の利用範囲の拡大によって、本人が知らないところで情報が扱われ、歯止めがきかなくなり、犯罪歴や病歴などまで登録される可能性もあります。国民のデータベース化が、際限なく進む恐れがないとは言えません。

次回はマイナンバー制度と徴税の関係など、少し掘り下げていきたいと思います。

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プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。