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カネを活かす

2016.01.07

衝撃的な過大役員報酬に相当な算定根拠はあるか

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

法律 オーナー 節税

少し古い話になりますが、2015年6月25日のSankeiBizによりますと、「オリックスが25日開示した有価証券報告書によると、宮内義彦元会長(現シニア・チェアマン)の2015年3月期の役員報酬額は54億7000万円だった。国内上場企業の役員報酬としては歴代最高額になる。報酬の内訳は、功労金が44億6900万円、株式報酬が9億5300万円、固定報酬3800万円、業績連動型報酬900万円で、長年の実績に対する功労金が役員報酬額の8割超を占めた。宮内氏は、創業メンバーの1人で、設立母体となった日綿実業(現双日)から転籍して、同社の成長を引っ張った。これまでの最高額はソフトバンクのロナルド・フィッシャー取締役(17億9100万円)だったが、それを36億7900万円上回った」ということです。

一般庶民からすると気の遠くなるような金額です。一般的に税務調査の場面では1〜2億円の退職金の支払いを巡り、過大役員退職金ではないかと争うことになるのが現実ですが、果たしてこの金額は過大役員退職金ということにはならないのでしょうか。

1. 役員退職金の多寡は、税法でどのように規定されているか

役員に支給される退職金については無制限に支給できるわけではなく、法人税法34条2項で次のように規定されています。

内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

これにあてはまるのが、いわゆる「過大役員退職給与」です。

では逆に、役員退職給与の額のうち、損金の額に算入される金額のほうはどのように規定されているでしょうか。法人税法施行令70条2項によると、

内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額

ところが、納税者の側からすると「当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等」は、一部の上場企業のように有価証券報告書に役員報酬の報告が義務付けられている場合を除き、基本的に事前に知ることはできません。そして「その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」が過大役員退職給与ということになり、損金不算入ということになります。

退職給与の額が相当であるかどうか知ることができないのであれば、不相当に高額な部分とはどのような金額、内容なのか認識できないということになります。この問題については、過去に裁判で争われた判例が数多くありますが、役員退職給与の金額について、どのようなかたちで計算すれば問題が生じないのでしょうか。

2. 退職金はどのような意義を与えられているお金か

我が国において退職金といえば、退職一時金を指すのが一般的な傾向といえると思います。欧米諸国においては年金制度が普及していますが、それが普及しなかったのは我が国の雇用の慣行が終身雇用制を前提に、家族主義的な労使関係が築かれてきたところにあるのかもしれません。経営者側と従業員側の関係において、安定的経営を維持するための策として、年功人事制度や終身雇用制度ができあがり、定年まで勤めあげることへの奨励策の一つとして、退職金制度ができてきたように思われます。

退職金の意義として、(1)賃金の後払い説、(2)退職後の生活保障、(3)企業責任、(4)企業慣習、(5)手切れ金、(6)独立資金、(7)功労報償、(8)成果配分、などがあると言われていますが、それも法律上定義されているわけではなく、退職金の扱いもそれぞれの会社により異なります。例えば、賃金後払いと考えている会社もあれば、功労報償だと考えている会社もあります。

そして、退職金の金額を計算する場合、退職後の生活保障という考え方からすれば、退職した年齢から平均寿命までの期間に対応する生活費の合計額を一時金で支払うという方法も考えられますし、年金で支払うということも考えられます。また、功労報償という考え方に立てば、勤続年数や勤務実績に応じた計算方法が考えられます。

ちなみに終身雇用を前提とすると、退職後は収入がなくなるか、または著しく減少するのが普通なので、所得税法において退職所得は勤続年数に応じて退職所得控除額を調整するとともに、老後の生活を考えた場合の退職所得の担税力の弱さを考慮して、退職所得控除額を控除した金額の2分の1相当額を退職所得の金額とし、他の所得と区分して分離課税することとされています。所得税法においては、前者の退職後の生活保障、功労報償という退職金の意義を考慮して課税方法に取り入れているように思われます。

3. 退職金の金額の計算方法を過去の判例から振り返る

前述のように退職金が適正な金額または不相当ではない金額なのかどうかを決める方法は、法人税法施行令第70条の2項において「その法人に従事した期間」「類似(業種、規模など)法人の役員退職給与の支給状況」などを総合勘案するとされていますが、その金額の算定方法については現実には意外に難しいことがわかります。

役員退職給与相当額の算定については、一般的に次のような方法があります。

(1)平均功績倍率法

退職役員に退職給与を支給した法人と同種の事業を営み、かつ、その事業規模が類似する法人(以下「比較法人」といいます。)の役員退職給与の支給事例における平均功績倍率(退職役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額で役員退職給与の額を除して得た倍率(功績倍率)の平均値)に、当該退職役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて算定する方法です。この方法を支持した最近の判例として、東京地裁平成25年3月22日判決があります。

(2)1年当たり平均額法

比較法人の退職役員の退職給与の額をその勤続年数で除して得た金額(1年当たりの退職給与の額)の平均額に、当該退職役員の勤続年数を乗じて算定する方法です。この方法を支持した例として、札幌地裁昭和58年5月27日判決があります。

(3)最高功績倍率法

同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の最高値(以下「最高功績倍率」といいます。)に、当該退職役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて算定する方法です。

(4)算定方法の選択基準

役員退職給与相当額の算出に当たり、上記のいずれの方法によるかは、退職役員の退職の事情等に応じて、最も適すると認められる方法を個別に判断することになります。

上述のように役員退職金の算定方法には、「1年当たり平均額法」と「功績倍率法」がありますが、一般的には功績倍率法を用いる場合が多いと思われます。ただ、その功績倍率に明確な基準があるわけではないので、類似する法人の功績倍率の平均値から算出することになります。税理士の世界では概ね「2.0〜3.0程度が妥当」といわれています。

功績倍率が「2.0〜3.0程度」となる論拠は、昭和56年11月18日の東京高裁判決で示された「社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」という数字です。このほか、裁判で合理的とされた社長の功績倍率には、昭和60年9月17日最高裁の「3.0」、平成元年1月23日東京高裁の「2.2」などがあります。

そして実務において、功績倍率については功労加算率も加えて計算されるのが通常です。例えば、功績倍率3.0倍、功労加算率30%であれば、合計で3.9倍と見られますので、これくらいが上限となり、功績倍率「3.0〜4.0程度が妥当」ということになります。

実際に功績倍率が争われた判例によると、下記のような判断をしています。

実際に功績倍率が争われた判例

功績倍率といっても、これだけの差があることがわかります。法人税法施行令70条2項の規定により、「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし」とすると、事業規模、事業種類の個別事情で数値が異なってくるのはやむを得ないことと思います。

そして、この例から考えられることは、一般的に採用されている功績倍率法を用いる場合、
(1)功績倍率は「2〜3倍までならOK」という考え方は万能ではない
(2)会社の個別事情に合わせて、功績倍率を決める必要がある
ということになります。

4. 最後に

役員退職金の計算方法としては現状、「功績倍率法」が独り歩きしている現状ですが、退職時の報酬月額が減額されているとか、在職中の報酬月額が職務内容に照らして著しく低額であるような場合、さらには退職間際に大幅に引き下げられるなどで退職時の最終報酬月額が適正でない場合には、「1年当たり平均額法」によることに合理性があるという裁判例(札幌地裁平成11.12.10、東京地裁平成25.3.22)があります。

この方法によれば、最終月額報酬が10万円というような極端に低い役員報酬の場合、3000万円(勤続年数25年と仮定)が退職金として支給されますと、功績倍率は12倍ということになりますが、仮に最終の月額報酬が低くても、同業類似法人の役員退職給与の支給事例における役員退職給与の額を、その退職役員の勤続年数で除して得た額の平均額に、当該退職役員の勤続年数を乗じて算定する方法ですので、功績倍率を無視して考えることも可能です。

冒頭に挙げた宮内元会長の2015年3月期の役員報酬額は54億7000万円で、そのうち功労金が44億6900万円ということでした。固定報酬3800万円、1964年4月オリエント・リース(現オリックス)入社ということを前提に「功績倍率法」で計算すると、功績倍率は27〜28倍という計算になります。これは退職金の計算にあたって同種事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、「1年当たり平均額法」によって計算されたかと思われますが、それにしても44億6900万円という金額は衝撃的ですね。

退職金については所得税法の規定により退職所得控除額を控除した金額の2分の1相当額を退職所得の金額とし、他の所得と区分して分離課税することとされており、税負担面においてかなり優遇されています。オリックスの宮内義彦元会長の例では、44億6900万円から退職所得控除額が控除され、2分の1の約22億円に対して課税されることになります。役員退職金の算定にあたっては「功績倍率法」に固執しないで、様々な角度から検討することにより、大きな節税が可能になると思われます。

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プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。