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モノと道具を再構築する

2016.12.27

失敗に学ぶ(6)──失敗から学ぶ成功

別府 俊幸

チーム作りのデザインエンジニアリング

ものづくり 危機管理 イノベーション

失敗は、単に避ければ良いというものではありません。事を失敗に至らせたプロセスを解き明かし、その真の原因を見つけて対処しなければ、再び失敗が生じる可能性はそのままです。そして、失敗の真の原因への対策によって、次なる成功の種を導き出せるかもしれません。

今回は19世紀アメリカの橋梁技術者ジョン・A・ローブリングが、いかにして失敗から成功を導き出したかを紹介します。150年以上前の昔話です。そこから現在までの間に発展したのは計算機と解析ツールであって、強度や風の影響を計算する前段階として人間が考えるそのやり方は、今も変わってはいません。ですから現在でも“計算間違いによらない失敗”が生じており、だからこそ過去の失敗を学ぶことに意味があるのです。

失敗の要因は何か

19世紀前半には、いくつもの吊り橋が嵐によって崩壊しました。前回紹介したブリタニア橋よりも以前、1825年に完成した吊り橋も1839年には嵐によって崩壊しています。また、吊り橋では列車の重さを支えられないと考えられていたため、イギリスではブリタニア橋以降も、様々な形のトラス橋がデザインされました。その一方で、アメリカではジョン・A・ローブリングが、吊り橋の崩落の調査解析を通じて弱点を克服できると考えていたのです。

失敗したら諦めるのではなく、その原因を究明します。原因を明らかにできれば、それを避けることができるか考えることができます。そして回避策を考えついたのなら、次はどのような失敗に遭うかを予測します。その予測に対しても回避できるかどうかを考えるプロセスが、新しいデザインへとつながります。

ローブリングは橋をうまく建設するために、それがどのように失敗するかを予測しなければならないことを見抜いていました。彼は過去の吊り橋で起きた出来事と、それを生じさせたプロセスを深く考察し、吊り橋の安全のためには路面の剛性を高めることと、風に対して路面を安定させることが必要と考えました。

1841年、彼はアメリカ鉄道技術士誌に二編からなる報告(※1)を記しています(余談ですが、まさか見つかりはしないだろうとネットで検索してみたところ、なんと、この175年前の報告がGoogle Booksにありました。情報の蓄積に対するアメリカ人の執念を見せつけられたように思います)。

この中で彼は、イギリス陸軍工兵隊大佐パスリーによるモントローズ吊り橋崩落の報告を取り上げ、風による路面の横方向よりも上下方向への振動が崩壊を招いたこと、他の吊り橋にも上下方向の振動を抑制する機構がないこと、トラスによって強化された路面が振動に対する抵抗となること、などを議論しています。そして風が、鎖でぶら下がる路面に周期的な揺れを生じさせ、この揺れが続くことによって破壊が生じること、崩壊を防ぐにはこの周期的動揺を生じさせないことが必要であると述べています。

成功から学ぶ成功

もちろんローブリングは、失敗だけから学んだのではありません。成功例からも、その成功をもたらした本質を見いだし、自らのデザインへと応用しました。彼は、マーク・イザムバード・ブルネルが19世紀初頭にインド洋ブルボン島(現レユニオン島)に建設した吊り橋に言及しています。

ブルボン島はハリケーンの襲来を受けますから、吊り橋も風に対する防御が必要です。その橋は、路面より上部は鎖で吊るす伝統的な構造ですが、下部にも、橋脚と橋台に固定された逆U形の鎖が配置されています。この下部の鎖は橋脚と橋台の外側へと下方に引き込まれていて、横方向にも路面を制動する構造となっています。つまり路面は、上から吊り下げられると同時に斜め下方向にも引っぱられ、上下方向にも、横方向にも制振されています。

また、ローブリングは吊り橋に対して、当時イギリスで使われていた鎖や板材よりも、ワイヤーが有利であることを明快に、論理的に主張しました。ワイヤーは鎖よりも重量あたりの荷重が1.5倍以上大きいこと、したがって経済的であること、鎖のようにたわまず連続的に曲がるため破断しにくいこと。ワイヤーは種となる錬鉄棒を伸ばして作るため、種材を良質に作れば一様に良質となり、欠損が見つけやすく、さらに端の部分を検査すれば全体の品質が分かり、ケーブルはワイヤーを集めて作られるので品質管理しやすいこと。一本一本のワイヤーに防錆を施した上でケーブルにし、そしてケーブルにも防錆するので、耐久性を損なう錆に強いことなどが挙げられます。

そしてローブリングは、吊り橋でどのような失敗が起こりうるのかを徹底的に予測して、それらを回避するための方策をデザインに組み込みました。路面と列車による荷重だけでなく、風に対する強度が必要であると理解した彼は、ナイアガラ峡谷吊り橋に、上に鉄道・下に人馬を通す二層の路面を採用してデッキの剛性を高め、上からは吊り下げるワイヤーに加えて支持のためのワイヤーを張り、同時に下方にも支持ワイヤーを用いて路面の揺れを押さえ込みました。

1854年、当時多くの専門家が不可能と考えていた鉄道用吊り橋が、彼の手によって実現したのです。

ジョン・A・ローブリングは1869年、彼の最後のデザインとなったブルックリン橋の測量中の事故がもとで亡くなりました。その後、息子のワシントン・A・ローブリングが工事を引き継ぎましたが、彼も病気によって下半身麻痺となってしまいました。このため妻のエミリー・ローブリングが工学を勉強し、現場を指示しました。そして1883年、ローブリング自身がデザインしたシンシナティのジョン・A・ローブリング吊り橋を抜き、当時の世界最長となるブルックリン橋は完成しました。かつてブルックリン橋はニューヨークのイースト川を渡る鉄道を支え、そして今日では自動車を支え続けていますが、ローブリングのデザインが卓越したものであったからこそ、130年余を経ても美しいたたずまいを保ち続けているのです。

失敗から成功を導くために

このローブリングの成功を、私は以下のように知識化します。

対策するには、応急処置的に終わらせるのではなく、その原因を明らかにし、原因に対策を施すことが必要である。

踏襲するには、なぜデザインがその形となっているのかを徹底的に解明し、成功を支える本質を理解しなければならない。

これまで何度もご紹介してきたヘンリー・ペトロスキー教授は、このように指摘しています(※2)。

彼はデザインで格闘している相手は常に失敗であると意識していた(p. 160)。

デザインは、失敗の予測と回避のプロセスである。デザインを作る人が失敗についての知識を持てば持つほど、その人のデザインはそれだけ信頼できるものになる(p. 164)。

さらに次のようにも指摘しています。

過去に成功したものを指し示すことだけでデザインの安全性を言い立てるどんな議論も、論理的に欠陥がある(p. 158)。

この点については、次回に議論しましょう。

※1 J. A. Roebling, Some remarks on suspension bridges, and on the comparative merits of cable and chain bridges (No.1 & 2). American Railroad Journal, and Mechanics' Magazine, Vol. 6, No. 6, pp. 161 - 166(1841年3月15日)、Vol. 6, No. 7, pp. 193 - 196(1841年4月1日)

※2 「橋はなぜ落ちたのか - 設計の失敗学」(ヘンリー・ペトロスキー/朝日選書 2001)

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プロフィール

別府 俊幸 (べっぷ としゆき)

松江工業高等専門学校教授(電気工学科)。1961年鳥取県生まれ。専門分野は、エンジニアリング・デザイン教育、電子回路、制御工学。東京電機大大学院、東京女子医大日本心臓血圧研究所を経て現職。医学博士、工学博士。その他、オーディオ自作派ライターとしても活動中。著書に「オペアンプから始める電子回路入門」(森北出版)、『メカトロニクス電子回路』(コロナ社)など。『コミック エンジニア物語 未来を拓く高専のチカラ』(平凡社)では企画立案、編集長を担う。『OPアンプMUSESで作る高音質ヘッドホン・アンプ』(CQ出版社)